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(画像=鹿肉を使った生ハム。鹿肉特有の臭みはなく、純粋な旨みを堪能できる)

山の財産「ジビエ」、7回の試作を繰り返して鹿の生ハムを商品化

もうひとつの夢はジビエである。イタリアではジビエは「山の財産」として重宝される。特に「モチェッタ」と呼ばれる鹿肉のハムが塩味も効いて人気がある。日本ではハンターの高齢化や食肉処理が簡単ではないことから、ジビエをビジネスのベースに乗せるのはハードルが高いと言われている。だが、ジビエの供給量が多い鳥取県で鹿肉を提供してもらえることになり、それを宮崎県都城市の処理場で生ハムにしてもらうことで商品化することに成功した。

ハムにするに際しては試作を7回繰り返した。鹿肉をハムにする場合、肉の生々しい香りが残りがちである。イタリアと同じ方法でつくると色が浅黒くなり、香りが鼻につくものになってしまい、日本人には抵抗がある。その難点を食肉処理を手早く行って空気を遮断することで解決した。これによって鉄のような臭いを除去できるのである。こうして鹿の生ハムは近々『ブラチェリーア ロトンド』のメニューに加わることになった。卸も行う予定になっている。

人の輪から生まれた共同事業

ワインづくりにジビエ、こうした大掛かりな事業になると、料理人の経験しかない丸原氏一人の力では手に余る。そこで力を貸してくれたのが、常連客でもあるロクス株式会社の代表取締役・内藤秀治郎氏。資金計画や会社組織についてアドバイスをして、共同で事業をやっていくことになった。

内藤氏は「ワイナリーは重大なプロジェクトで、資金がないと回っていきません。そこでプロジェクトを回すためには、まずジビエです。生ハムで事業を回して資金をつくっていきます。そこは採算が取れるかなと思っています。最初のロットは売れ先が決まっているようで、そこでブレークしてくれればいいのですが」と成功へのイメージを語る。

事業主体としてはジョイントベンチャーの形で行なっている。丸原社長は「基本は個人で考えていたのですが、事業規模を考えるとそれは無理です。気持ちよく出資してくれる人、賛同できる人を巻き込んで仕事をしていきたいと思います」と言う。内藤氏も「ゆくゆくは会社組織にしないといけないでしょうが、今はどちらかと言えば早く動かさないといけないので、この形がいいでしょう。また、会社組織にするとしても、もともと丸原さんの会社がありますから」とビジネスの見通しを語る。

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(画像=右はロクス株式会社の代表取締役・内藤秀治郎氏。『ロトンド』の客であり、心強いビジネスパートナーでもある)

花から始まった客との関係、4年をかけて夢をつなぐ「輪」に

客との「輪」をつくろうと独立した丸原氏。小規模店舗のオーナーをしながら、ワイナリー、ジビエと、イタリア修行時代にみた夢を叶えようとしている。10年後の2028年に自家製ワインを出荷するという気の遠くなるような話が実現に向けて動いているのは、自身が作り上げてきた「輪」の力があってこそだろう。

ちなみに、ぶどう畑を紹介してもらうきっかけとなった常連客との出会いも不思議なものであった。店舗のオープン時、多くの花をもらったものの、店内に置ききれないので、道ゆく人にプレゼントしようと、通りかかった人に小分けした。その中で胡蝶蘭を手渡された女性が感謝して、店を訪れて、そのまま常連客となった。そしてワインの夢を語った時に、ぶどう畑につながる話をしてくれたのである。

「花から始まったお客さんと4年間つながって、ワインのきっかけを与えていただいたわけです」

にっこりと笑う丸原氏。ワインのように熟成させた「輪」が4年の時を経て香りを放つかのようである。夢をつなぐ人の「輪」に、人生の不思議と楽しさが感じられるではないか。(提供:Foodist Media

丸原正直(まるはら・まさなお)
1974年6月3日、神奈川県藤沢市出身。高校卒業後飲食業界に入り、バーテンダーとしてキャリアをスタート。その後、居酒屋勤務を経て『ホテルコンチネンタル横浜』で料理を学ぶ。その後『キハチ イタリアン相模大野』勤務を経てイタリアのピエモンテ州アスティ、トリノで修業。2003年に一時帰国後、再度トリノに渡った。2005年の愛知万博でイタリア館隣のレストランでスーシェフを務め、その後、イタリアンレストランのシェフに。2013年1月に東京・広尾に『ブラチェリーア ロトンド』をオープンした。

『ブラチェリーア ロトンド』
住所/東京都渋谷区広尾5-9-27 広尾木下第2ビル1F
電話番号/03-6721-9557
営業時間/11:30~14:00、18:00~23:30
定休日/火曜日
席数/14

執筆者:松田 隆