はじめに
米国のFSOC(Financial Stability Oversight Council:金融安定監督評議会)は、3月6日にノンバンク金融会社のSIFI指定に関する解釈ガイダンスの新たな提案を公表(1)した。提案されているガイダンス(2)は、金融の安定性に対する潜在的なリスクを特定し対処するための活動ベースのアプローチを実施するものである。それはまた、ノンバンクの金融会社を指定するための理事会のプロセスの分析の厳密性と透明性を高めることになるとされている。
今回のレポートでは、この新たに提案されたガイダンスの概要及びこれに対する関係者の反応を紹介する。
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(1)プレスリリース https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm621
(2)https://home.treasury.gov/system/files/261/Notice-of-Proposed-Interpretive-Guidance.pdf
ノンバンクSIFI指定を巡るこれまでの動き
ここでは、ノンバンクSIFI指定を巡るこれまでの動きについて報告する。
●SIFIとは
SIFIとは、「Systemically Important Financial Institution」の略で、「システム上重要な金融機関」と呼ばれている、事業や取引規模が大きく、破綻すると金融システムに大きな影響を与える金融機関のことを指している。2008年9月のリーマンショック以降、新たな金融規制対象区分を表す言葉として使用されており、SIFIに指定されると、例えばより厳しい自己資本規制が課せられたりすることになる。
米国においては、SIFIはFSOCによって指定される。FSOCは、ドッド・フランク法の下で創設され、米国金融機関の安定性を確保するための包括的な監視を実施する。連邦金融監督者と州規制監督者、そして大統領によって任命された保険の専門家等で構成されているが、投票権を有するメンバー10名(3)とOFR(財務省金融調査局)及びFIO(連邦保険局)局長等の投票権を有しないメンバーに分かれ、財務長官が議長を務めている。
ドッド・フランク法により、連結総資産500億ドル以上の銀行持株会社及びシステム上重要なノンバンク(ノンバンクSIFI)は、FRB(連邦準備制度理事会)による厳格な規制監督の対象となる。FSOCによってSIFIに指定されたノンバンクはFRBの監督下に置かれ、SIFIに指定された米国銀行と同様の健全性規制が課されることになる。
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(3)財務長官に加えて、連邦準備制度理事会(FRB)、通貨監督庁(OCC)、証券取引委員会(SEC)、商品先物取引委員会(CFTC)、連邦預金保険公社(FDIC)、連邦住宅金融庁(FHFA)、全米信用組合管理庁(NCUA)、消費者金融保護局(CFPB)の長と保険の専門性を有する独立メンバー
●これまでのSIFI指定を巡る動き
FSOCはこれまで、保険グループのノンバンクSIFIとして、2013年7月にAIG、2013年9月にPrudential 、2014年12月にMetLifeを指定してきていた(4)。ところが、これに対して、指定された各社からのSIFI指定撤回を求める動きや批判的な意見等があり、結局、AIGは2017年9月29日にFSOCにおいてSIFI指定解除され、MetLifeは、2018年1月18日にSIFI指定解除を求める訴訟の勝利により、そしてPrudentialは2018年10月17日にFSOCにおいてSIFI指定解除された。これにより、現時点においては、米国において、ノンバンクSIFIに指定された会社は存在しなくなっていた。
こうした動きについては、保険年金フォーカス「AIGのSIFI指定解除について-FSOCの公表内容と関係者の反応-」(2017.10.11)、保険年金フォーカス「PrudentialがSIFI指定解除され、米国におけるノンバンクSIFIがゼロに-FSOCの公表内容と関係者の反応等―」(2018.10.22)等のレポートで報告してきた。
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(4)ノンバンクSIFIとしては、これらの3社以外に、GE Capitalが2013年7月に指定されていたが、2015年4月の金融事業からの撤退表明以後の金融資産の売却により、2016年6月に指定解除されている。
●SIFI指定のプロセスの見直しを巡る動き
一方で、FSOCは、そのSIFI指定プロセスの見直しについての検討も進めてきており、具体的には2017年11月17日に「FSOCのノンバンク金融会社及び金融市場ユーティリティの指定プロセスに関する大統領への覚書」(5)を公表(6)し、ノンバンクSIFIの指定プロセスを改善する方法を勧告していた。これについても、保険年金フォーカス「米国財務省がノンバンクSIFIの指定プロセスに関する覚書を公表-ノンバンクSIFI指定プロセスの改善方法を勧告-」(2017.12.4)で報告している。
今回のガイダンスは、基本的にはここで提案されたアプローチを導入するものとなっている。
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(5)なお、この覚書のタイトルは「米国大統領への報告書 2017年4月21日発行の大統領覚書に従って FSOC(金融安定監督評議会)指定」となっている。
(6)https://www.treasury.gov/press-center/press-releases/Pages/sm0218.aspx
今回のFSOCにより提案されたガイダンスについて
●今回のガイダンスのポイント
FSOCは、保険会社が米国の経済にもたらすシステミックリスクを監視するための新しい活動ベースのアプローチを導入することを提案している。FSOCは、少数の特定会社を指定するのではなく、金融の安定性を脅かす可能性のある具体的な活動を検討し、IAIS(保険監督者国際機構)が行っているアプローチの足跡を辿るスタンスを示している。
これにより、保険会社がSIFIに指定される可能性はいまだ残っているが、これは費用便益分析によって正当化される場合にのみ発生することになる。
●今回のガイダンスの概要
新しく提案されたガイダンス(2)の下では、プレスリリース資料によれば、FSOCは以下のことを行うことになる。
(1) 活動ベースのアプローチを通じて、米国の金融の安定性に対する潜在的なリスクを特定、評価及び対処するための取り組みを優先する。
提案の下で、評議会は、関連する金融規制機関と協議しながら、多様な金融市場及び市場の動向を監視することになる。米国の金融安定性に対する潜在的なリスクが特定された場合、評議会は既存の規制当局の専門知識を活用してそのリスクに対処するための行動の実施を追求する。評議会は、潜在的なリスクや脅威が活動ベースのアプローチでは対処できない場合に限り、ドッド・フランク法第113条に基づく会社固有の決定を追求する。このアプローチにより、評議会は、指定される可能性のある特定のノンバンク金融会社のみでリスクに対処するのではなく、金融の安定性に対する潜在的なリスクの原因をより効果的に識別し、対処することができる。
(2) ノンバンク金融会社を指定する前に、費用便益分析を実行する。
評議会は、米国の金融システムと関連会社の指定による便益と費用を検討する。評議会は、予想される便益が指定の予想される費用を正当化する場合に限り、ノンバンク金融会社を指名する。
(3) 潜在的な指定のために会社を評価する際にノンバンク金融会社が重大な財務的苦境に陥る可能性を評価する。
ノンバンク金融会社を指定する前に、評議会は、識別可能なリスクの影響だけでなく、そのリスクが実現される可能性も検討する。そうすることで、評議会は、米国の金融安定性に脅威をもたらす可能性が最も高いリスクに引き続き焦点を当てることができる。
(4) より効率的で効果的なノンバンク金融会社指定プロセスを作成する。
提案されたガイダンスは、現在の3段階のプロセスを2段階に集約し、会社とその規制当局への関与と透明性を高め、会社が金融安定性に対する潜在的なリスクを理解し対処することを可能にする。
●現在の2012年の解釈ガイダンスからの主な変更点
提案された解釈ガイダンスでは、現在の2012年の解釈ガイダンスからの6つの主な変更点についてより詳しく説明されている。
6つの主な変更点は、上記のFSOCのプレスリリース資料で述べられた、評議会が行うことの4点に集約されている。特に、最初の3点については、ほぼこのプレスリリースの内容と重複しているので、ここでは4点目の内容について、補足説明を行う。
プレスリリースの4点目については、さらに以下の3つの変更点に区分される。
(4) 現在の第1段階(ステージ1)を排除することによって、第113条に基づく決定のための現在の3段階プロセスを2段階に短縮する。
(5) 多数の手続き上の改善を行い、評議会の関与と透明性を促進することを目的とした2015年補足手続のいくつかの条項を取り入れることによって、新しい2段階の決定プロセスをさらに強化する。これには、指定後の「オフランプ」を明確にすることを意図した手順も含まれる。
(6) 2012年の解釈ガイダンスに記載されている6つのカテゴリーの枠組みを削除する。
ここで、述べられている2012年の解釈ガイダンスにおける3段階プロセスの第1段階(ステージ1)とは、「さらなる評価のためにノンバンク金融会社を識別し、潜在的な指定のための評価の対象にならない可能性が高い他のノンバンク金融会社を明確にするために、一群のノンバンク金融会社に統一された定量的測定基準(連結資産500億ドル等)のセットが適用される」プロセスである。提案されたガイダンスでは、「現在のステージ1は、会社や一般の人々の間で混乱を生じさせ、活動ベースのアプローチを優先するという提案と両立しないことから、これを排除する。」としている。
さらに、2012年の解釈ガイダンスでは、「法定上の考慮事項及びその他のリスク関連要因を含む全ての関連要因を6つのカテゴリー(規模、相互関連性、代替可能性、レバレッジ、流動性リスク及び満期の不一致そして既存の規制の精査)にグループ分けする分析の枠組みを設定している」が、「6つのカテゴリーの枠組みは、評議会の評価を導くのに役立つとは証明されておらず、評議会の分析のための枠組みを不必要に複雑にしている。」として、提案されたガイダンスはこの6つのカテゴリーの枠組みも排除している。
なお、指名プロセス中の協議会の会社及びその既存の規制当局との関与を高めることにより、(1)米国の金融安定性にリスクをもたらす可能性がある事業の側面について、より多くの可視性を会社に提供すること、(2)検討中の会社が評議会に適切な情報を提供することを可能にする、ことができるとしている。
また、解除のための「オフランプ」の明確化により、「指定されたノンバンク金融会社が金融の安定性にもたらす可能性があるリスクを軽減する能力を促進するためのその他の措置を講じることによって、評議会は、米国の金融システムを保護し、会社に対する規制上の負担を軽減することを目指している。」と述べている。