●活動ベースのアプローチについて
(1)2つの優先事項
活動ベースのアプローチについては、以下の2つの優先事項が反映されている。
1) 関連する金融規制機関と協議して、システム全体で潜在的なリスクと新たな脅威を特定して対処し、それによって会社間及び会社固有の規制と監督から生じる可能性のある市場における競争の歪みの可能性を減らす。
2) 会社を新たな規制当局に晒すのではなく、一般に会社、商品及び市場のリスクに関してより多くの情報と専門知識を有する関連金融規制機関が潜在的なリスクに対処することを可能にする。
(2)2段階のアプローチ
活動ベースのアプローチについては、以下の2段階のプロセスを確立している。
(2-1) 第1段階のアプローチ
第1段階では、米国の金融安定性に対する潜在的なリスクを特定するために、評議会は、関連する金融規制機関と協議して、様々な金融市場及び市場の動向を監視する。評議会は、コーポレート及びソブリンの債権・貸付市場、株式市場、新規又は発展を続ける金融商品、活動及び慣行ならびに金融市場参加者の耐性力に影響を与える動向を含む幅広い範囲の金融市場及び市場動向を監視する。
評議会の分析は、以下の4つの枠組み質問に焦点を当てている。
1) 潜在的なリスクのトリガー(例えば、特定クラスの金融資産の評価の大幅な減少又は大幅な信用損失)
2) 潜在的リスクの悪影響が金融市場又は市場参加者にどのように伝達されるか(例えば、関連する資産価格の低下から生じる潜在的リスク又は資金調達又は取引圧力への直接的又は間接的なエクスポージャーを通じて)
3) 潜在的なリスクが金融システムに及ぼし得る影響(例えば、他の会社及び市場に対する悪影響の規模及び規模、ならびにそのような影響が市場参加者の間で集中又は拡散する可能性があるかどうか)。
4) 潜在的なリスクの悪影響が、米国経済の非金融部門に害を及ぼす可能性がある形で(例えば、非金融会社への信用供与の縮小又は中断を通じて)、金融システムを損なう可能性があるかどうか。
(2-2) 第2段階のアプローチ
評議会が活動ベースのアプローチの第一段階で米国の金融安定性に対する潜在的なリスクを特定した場合、第2段階で、評議会は、連邦及び州レベルで関連する金融規制機関と協力して、加盟国と加盟機関の間で調整を行い、潜在的なリスクが適切に対処されていることを確認するための監督上又は規制上の措置についてフォローアップする。
なお、評議会は、特定された潜在的なリスクに対処するために講じることができる適切な措置は、通常、規制当局間の情報共有などの比較的非公式な行動の形をとると予想しているが、適当と考えられる場合には、規制当局又はパブリックへの評議会の公的な提言の発行のようなより公式な措置を含むかもしれない、としている。
今回のFSOCによる新たな提案を受けての関係者の反応
今回のFSOCにおけるノンバンクSIFI指定ガイダンスの変更提案を受けての関係者からの反応は、以下の通りである。パブリックコメント期間が60日あるため、現時点での反応は限られている。
●NAIC(National Association of Insurance Commissioners:全米保険監督官協会)の反応
NAICは、今回の新たなFSOCのノンバンク指定ガイダンスの提案に関して、以下の内容の声明を公表している。
NAICの会長でFSOCメンバーであるEric Cioppa氏は、「金融安定性に対するリスクに対処する最も適切なアプローチは既存のFSOCと連携して機能することである。規制当局は、特にノンバンクセクターでこれらのリスクを特定するようにする。緩和策は、最初にそれらを対処する権限を有する規制当局によって最も適切に処理される。」と述べた。
NAICはこれまで、SIFI制度の廃止を求めてきたが、今回の提案に関しては、会社、商品及び市場のリスクに関してより多くの情報と専門知識を有している州規制当局の位置付けが評価され、今後の役割が期待されていることから、歓迎するコメントを述べている。
●アナリスト等の反応
今回のFSOCの提案に対するアナリスト等からの反応は、必ずしも歓迎するものとはなっていないようである。
特に、SIFI指定のために必要とされる費用便益分析と会社の財務的苦境の評価及び予想される便益が指定の予想されるコストを正当化する場合に限りノンバンク金融会社を指名するとの要件については、SIFIに指定するためのバーをかなり高くすることになる。このため、SIFIに指定されるノンバンク金融会社は殆ど見込まれないと考えられることになる。これは、FSOCの役割に大きな影響を与え、2008年の金融危機の教訓を無視した形になってしまう、との趣旨の批判も見られている。
まとめ
以上、ここまで、FSOCによるノンバンク金融会社のSIFI指定に関する解釈ガイダンスの新たな提案の内容及びそれに対する関係者の反応を報告してきた。
保険分野におけるシステミックリスクの評価のあり方等については、現在グローバルなベースでも、IAIS等でその見直しが検討されている。こうした動きを背景に、金融安定理事会(FSB)が指定するG-SIIs(Global Systemically Important Insurers:グローバルにシステム上重要な保険会社)のリストについても、2017年以降は公表されていない。これについては、現在2018年11月に行われた市中協議等を踏まえて、今年の11月に最終的に新たな規制の考え方が示されることが想定されている。
今回のFSOCによる提案は、こうしたIAISで検討されているアプローチに準じたものとなっており、今後も米国におけるSIFI指定の考え方等については、基本的にはG-SIIs指定における考え方等と平仄を合わせる形で、検討が進められていくものと想定される。
FSOCによって提案された今回のアプローチやスタンスに対しては、一部で批判的な意見もあるようだが、一方で過剰な規制等が及ぼすマイナスの影響等も指摘されてきたことであることから、こうした点も踏まえて、今後両者の見解のバランスを図りつつ、適切な基準等が設定されていくことが期待されている。
これまで、日本の保険会社において、FSBによりG-SIIsに指定されてきた会社はなく、また米国と同様の形で、金融庁によってSIFIに指定されている会社もない。ただし、日本の大手保険グループも積極的に海外展開を進めて規模の拡大を図ってきていることや、SIFIやG-SIIsの指定やその規制等における考え方が、その他の保険会社の規制等に与える影響も考えられる。
従って、関係者の関心も高いことから、米国におけるSIFIや国際的な領域におけるG-SIIsを巡る議論の動向については、引き続き注視していくこととしたい。
中村亮一(なかむら りょういち)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長
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