「価格」で戦うのか、「意味」で戦うのか

また別の角度から市場を分類してみると、感性や好みが求められる理由に、さらに納得がいくだろう。

「確かに、世の中には『使えればいい』『安ければいい』という人たちもいます。しかし、そうした人たちを対象にした市場では、最終的に勝つのは最も価格が低い1社だけです。

一方で、『便利さや価格より、意味が重要』という市場もあります。先ほどのモレスキンのように、他のノートの10倍の値段を払っても、『私にとって、モレスキンのノートを使うことに意味がある』と思う人たちが集まるのが、こちらの市場です。

この市場では、商品が多様化します。『役に立てばいい』『安ければいい』という市場で最後に残るのは一番価格が低い商品だけですが、何に意味を見出すかは人それぞれだからです。

例えば、コンビニに行くとハサミは1種類しか売っていませんが、タバコは100種類以上あります。ハサミは『ちゃんと切れて、一番安いもの』が一つあれば十分ですが、タバコは人によって味や香りの好みが千差万別なので、商品が多様化する。そして、多様な商品の一つひとつに需要があり、それぞれが市場の中で生きていけるのです」

「いいね!」から始まる共感のビジネス

そして山口氏は、こんな問いを投げかける。

「皆さんには、自分はこの二つの市場のどちらで戦っていくつもりなのかを、ぜひ考えていただきたいと思います。

何千もの会社が安さだけで競い合い、1社だけしか生き残れない世界と、『自分はこれがいいと思う』という想いを世の中に出して、共感してくれるファンと一緒にビジネスを作っていく世界との、どちらで生きるのが、あなたにとって幸福でしょうか。

自分の直感や感性を表に出すのは、勇気が要ります。『自分はこれがいいと思う』と言ったものが否定されたら、誰だって傷つきます。

しかし、勇気を出して自分の感性や好みを表現し、誰かが『いいね!』と共感してくれたら、その相手とは非常に質の高い関係性を構築できる。共感してファンになってくれた人は、価格が高くても買ってくれるし、長く愛用してくれます。

ですから皆さんも、常に『自分は何にワクワクするか』『どんなことができたら痛快だと思うか』を自分に問いかけてください。そして、『本当に自分がいいと思うことは何か』を考え、それを表に出す勇気を持ってもらいたいと思います」

山口 周(やまぐち・しゅう)
コーン・フェリー・ヘイグループ〔株〕 シニアクライアントパートナー
1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。〔株〕電通、〔株〕ボストン・コンサルティング・グループなどを経て、組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループ〔株〕に参画。専門は、イノベーション、組織開発、人材・リーダーシップ育成。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)など著書多数。《取材・構成:塚田有香 写真撮影:まるやゆういち》(『THE21オンライン』2019年3月号より)

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