01
『オステリアバル リ・カーリカ』を率いる(株)タバッキの堤 亮輔代表(画像=Foodist Media)

東急東横線・学芸大学駅近くにある『オステリアバル リ・カーリカ』(東京都目黒区)は、12坪26席で月商900万円を誇る繁盛店である。本格イタリア料理と豊富なワインが魅力で、地元客はもちろん、わざわざ遠方から訪れる客も後を絶たない。

運営する(株)タバッキの堤 亮輔社長のこだわりは「空間コーディネート」。飲食業をトータルのサービスととらえ、顧客の満足度を高める戦略で固定客をがっちりとつかんできた。2013年2月のオープンから4年で3店舗に拡大したが、多店舗展開のポイントもこの「空間コーディネート」に深く関わっている。繁盛と多店舗展開の秘密・秘訣を聞いた。

原点はイタリアの外食事情、「空間コーディネート」で一気に繁盛店へ

堤社長の店舗運営の底流に流れている思想は「外食は楽しい、特別なもの」という思いである。大学を中退して向かった修行先のイタリアで「みんな外食に行くのをすごく楽しみにしていて、簡単に行くようなものではなかった」という事実に触れた。日本ではファミリーレストランの普及などで気軽に外で食事をして楽しむ習慣が定着したが、そのことで逆に「外食に行く高ぶりが薄れてきているのではないか」という思いを持ったという。

家の食事より美味しいから、外で食べる。これがベースだとしても外食が特別なものであるためには、楽しいひと時が過ごせたという満足感を、どれだけ客に与えられるかという点が問われる。そうした満足感を与えるのが「空間コーディネート」の発想の原点となった。空間コーディネートを一言で表すなら「料理だけでなく、接客、醸し出す雰囲気などレストラン全体で客を楽しませる空間づくりをすること」と言っていい。

02
堤社長の店舗運営の底流には「外食は楽しい、特別なもの」という思いがある(画像=Foodist Media)

『リ・カーリカ』では店員と客との会話が多い。「その人が何を望んでいるか聞き出すことからスタートします。店員によって違いますが『今日はどんな感じですか?』『お腹すかれてます?』といった言葉で始まります」と堤社長。同店ではワインを飲みに来る客がほとんどで、常時100種類前後ストックがあるワインのペアリングを店員の方から提案をしていく。客がメニューを見て決めるだけなら、客の知識の範囲で決まってしまい、楽しみも限定的なものになってしまう。提案することで食材との合わせ方、ワインの選び方を知ることができ、本人が知らなかった楽しみを感じられる。

このような客本位のもてなしこそが「空間コーディネート」の真髄である。「1つのテーブルに僕らの思いをどこまで伝えられるかという戦い、ステージなんです。料理が美味しいのが前提にあり、その上で『楽しさ』という部分でファミレスなどと差別化をしていく。ワインと料理のペアリングだけでなく、料理の盛り付け、プレゼンテーションの仕方、オーダーの取り方などいろんな手段で演出していくんです」。

こうした客への提案は豊富な商品知識がないと不可能。そのため、社内でワイン勉強会、イタリアを含むワイナリー訪問、イタリアから生産者が来た時は全店舗から人を集めて話を聞くなど勉強に余念がない。従業員16人は全員が社員。アルバイトに社員と同様の意識を要求するのは難しく、理想とする「空間コーディネート」を実現させるには高い意識の社員が必要になる。「結局、レストランは人なんです」と力を込める。

03
人気メニュー「肉の盛り合わせ」。中央の赤い肉が「和牛のステーキフリット」(画像=Foodist Media)

1か月間、冷蔵庫で寝かす“超”手の込んだ「和牛のステーキフリット」

「美味しいのは前提」と言うだけに、メニューも手がかけられている。人気の「和牛のステーキフリット」はメスの和牛の内腿肉を冷蔵庫に1か月寝かせて水分を抜き、高温の油をかけて「揚げ焼き」にしたもの。「水分が抜けるのでギュッと小さくなって、肉の質がしっかりしてきます。サクッと歯で切れて、旨味も凝縮されている状態。熟成肉みたいに発酵したチーズのようなクセがなく、サクサク食べられます」と言う。200gで2800円と高価だが、飛ぶようにオーダーが入る。店の冷蔵庫に余分なスペースはないため、肉屋に頼んで冷蔵庫で保管をしてもらい、1か月経ったら出してくるという、何とも贅沢なメニューだ。

他の食材は社長が自ら漁港や農家を訪れて仕入れを行う。マーケットを通さないため料金も安く、水槽で泳がせている魚を買い付けるため新鮮である。「食材選びが料理の第一歩です。そして、生産者はチームの一員です」。堤社長の言葉に、レストラン経営にかける思いが現れている。