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Modern Art Japan株式会社代表取締役の野口良介氏(画像=Foodist Media)

ワインで世界を変える若手経営者の挑戦

「僕たちが目指しているのは、ワインによって日本の文化リテラシーを上げることです。もしかしたら、そんなの夢物語だという人もいるかもしれません。だけどワインには、それくらい大きな可能性が秘められているのです」

目の前に座る聡明な若者が真っすぐな眼差しでビジョンを語る。彼の名は野口良介。1990年生まれの28歳で現在、Modern Art Japan株式会社の代表取締役を務めている。ワインに秘められたポテンシャルは高い。そう話すと、野口氏は次のように続けた。

「レストランに詳しい、イコール、ワインに詳しいとは限りません。しかし、ワインに詳しい人はほぼ確実にレストランにも詳しいです。年代や生産地などで異なる繊細な味の違いを選別できたり、異文化に理解が深かったりと一つの物事を俯瞰して探求するがゆえに博学な方が多く、文化リテラシーも高い傾向にあります。なぜなら、ワインが多くの芸術に好奇心や興味関心を持つファーストステップになっているからです。僕たちがつくった『sanmi(サンミ)』と『sanmi Lab(サンミラボ)』がその役割を担い、日本の文化リテラシーの向上を実現させることができればと思っています」

『sanmi』とは2018年3月にオープンした、レストラン&バーだ。同店の何よりの特徴が会員制という点にある。赤坂の一等地に店を構えており、住所は非公開。同店でしか味わえない酸味を基軸としたペアリングを堪能できるとあって、多くの会員を抱える人気店だ。

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野口氏自身もさまざまなスタイルのワインに詳しく、ソムリエとしての評価はとても高い(画像=Foodist Media)

『sanmi』流のクラウドファンディング活用法

同店の存在を初めて世に知らしめたのがクラウドファンディングだ。開始から3週間と3日で2,595万円を調達し、飲食部門の資金調達額1位に躍り出るとそのまま記録を伸ばし続け、最終的には飲食部門史上最高額となる3,672万円を叩き出す。その金額の大きさが示す通り、野口氏がプロデュースする店舗はオープン前から大きな話題になった。ただそれは偶然の産物ではないと同氏はいう。

「僕たちはたまたま最高記録を叩き出した訳ではありません。コンセプトメイキングや文章の作成などを徹底的に追求し、どのような世界観をどう伝えるのかを考え抜きました。そして、今までお会いしたことのある方へのお声掛けだけでなく、直接お会いして今回のプロジェクトのご説明および提案などをして当初の目標額はすぐに集まる仕掛けをつくっていました。支援額が一気に増えるとメディアなどでも取り上げられるので、イノベーターからアーリーアダプターへ自然に話題が広がり、加速度的にサポーターが増えます。支援してくださった方の繋がりも輪をかけて広がります。つまりはクラウドファンディングをお金を集めるだけでなく、PRの機会としても活用したのです。本質的にはクラウドファンディングはお金を集めることが主なレゾンデートル(存在意義)ではなく、『このプロジェクトは面白そうだから応援したい』『オープン後もうまくいくように頑張ってほしい』と、理念に共感してくれた仲間や同士を集めるものだと思っています」

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Makuakeで飲食部門史上最高額となる3672万円を叩き出した『sanmi』(画像=Foodist Media)

全てが計算済だったということだ。ちなみに野口氏が初めてクラウドファンディングを知ったのは明治大学に在学中の頃。まだクラウドファンディングの黎明期だったが、そのビジネスモデルに可能性を感じ、いつか活用したいとシミュレートしていた。そうした下地があったからこそ、大きな話題を集める仕掛けを考案できたのだ。

現にクラウドファンディングの第2弾として、会員を募集した『sanmi Lab』でも545万円を集めた。同店はオンラインストア&ワインバーで、月会費として980円を支払えば『sanmi』で提供している100種類以上のグラスワインをほぼ原価で飲めて、気に入ったワインもほぼ原価で購入できる。
※原価の定義はsanmi Lab価格としてオンラインストア内で公開

“Lab”という名前の通り実験所としても機能しており、同店での取り組みを踏まえて、今後、マッチングアプリやグルメサイトといったサービスの展開も行っていく。