昨年3月の拙稿(1)では、長期に渡る通信販売市場の伸びの背景にインターネット経由での通信販売の拡大があり、なかでも単身世帯を中心とした利用者数増加の寄与が大きいことを示した。通販市場はその後も拡大基調が継続しており、直近では家計消費を大きく上回る8.8%の伸びを示している。

インターネット消費,スマホ決済
(画像=PIXTA)

一方、経済産業省の調査(2)によれば、2017年の分野別にみたBtoC ECの市場規模は物販系が8.6兆円とBtoC EC全体(16.5兆円)の過半(52.1%)を占め、サービス系(6.0兆円、35.4%)、デジタル系(1.9兆円、11.7%)を大きく上回る結果となっているものの、前年からの伸び率ではサービス系が11.3%と、デジタル系(9.5%)、物販系(7.5%)を超えて高くなっている。インターネット経由での通信販売市場の拡大はサービス系を中心とした利用の拡がりによるものであるといえよう。

インターネット消費,スマホ決済
(画像=ニッセイ基礎研究所)

このような市場全体の動向に対し、家計におけるインターネット経由の消費はどのように変化しているのだろうか。

インターネット消費,スマホ決済
(画像=ニッセイ基礎研究所)

総務省統計局「家計消費動向調査」より、2015年以降の総世帯におけるインターネットを利用した1世帯あたり1か月の支出額(3)について主要な費目別の推移をみると、一貫して「旅行関係費」が突出して高く、2018年には2,888円(2015年比39.4%増)と3,000円弱まで増加している。また、「食料」(2018年1,734円、2015年比36.2%増)、「衣類・履物」(同1,550円、30.2%増)でも支出額、伸び率ともに高くなっているほか、支出額自体は少額ながら、「保健・医療」(645円、66.7%増)、「化粧品」(517円、36.1%増)でも2015年比で30%以上伸びている。一方、「家電」では、2018年には804円と、2016年以降は横ばい状態にあるように見受けられるものの2015年(889円)からは9.5%減少しているなど、インターネットを利用した支出の動向は費目により差があることがわかる。

インターネット消費,スマホ決済
(画像=ニッセイ基礎研究所)

これらの費目のうち、金額の大きい「旅行関係費」、「食料」および伸びが著しい「保健・医療」について、細目別の支出額の推移を2015年=100とする指数でみると、「旅行関係費」では決済手段によらず伸びているものの、「ネット決済」による支出の伸びが大きく、2015年比では約1.5倍に拡大していることがわかる。「食料」や「保健・医療」についても同様に細目に関わらず伸びているものの、「食料」では「出前」の、「保健・医療」では「健康食品」の、伸びが全体を上回って高くなっている。特に「食料」のうち「出前」については、2016年以前に対し、2017年以降の伸びは著しく、2018年時点では2015年比で約3倍と、世帯あたり1か月あたりの支出額そのものは少額ながら利用が急速に拡大していることが窺える結果となっている。

こうした「出前」急伸の背景には、デリバリーサービスに関するスマートフォンアプリの利用拡大があるものと思われる。実際に、SimilarWeb社のサービスであるSimilarWeb Proから代表的なデリバリーサービスのスマートフォンアプリ2種について、直近1年間の推定ユニークユーザー数(4)の推移(5)をみると、先行してサービスを開始(6)している「出前館」では2018年3月の1万人前後から2019年には2万人弱まで、「Uber Eats」は同2千人程度から1万人以上まで、それぞれ利用者数を伸ばしている。

インターネット消費,スマホ決済
(画像=ニッセイ基礎研究所)

このように、インターネット経由の消費は世帯単位でみても伸びているものの、その推移は費目により差があることが示された。また、費目別支出の伸展度合いについては、ネット決済による旅行関係費や食料のうち出前、保健・医療のうち健康食品で大きくなっていた。なかでも2017年以降の伸びが著しい「出前」については、スマートフォンアプリを通じたサービス利用の拡大が背景にある様が窺える。家計におけるインターネット経由の消費は、こうしたスマートフォン経由のサービス拡充のほか、近年のQRコード決済サービスに代表される決済手段の多様化を背景として、さらに拡がることが予想される。今後の動向にも引き続き注視していく必要があるだろう。

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(1)井上(2018)「通販市場は10年間で約2倍に-背景にある世代を超えたインターネット通販の拡大」『研究員の眼』(2018年3月9日)
(2)経済産業省「平成29年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書
(3)物価水準調整済み。以下同じ。
(4)ユニークユーザー数とは、同一人物の複数回利用などの重複を排除した実利用者数を指す。ここでは、スマートフォンアプリの利用者数であることから、同一端末からの複数回利用の重複を排除したものである。
(5)SimilarWeb ProおよびApp Store、Google Playの仕様上の制約から、数値の取得はAndroidアプリに限定されている
(6)「出前館」は夢の街創造委員会株式会社が、「Uber Eats」はUber Technologies社が、それぞれ提供するインターネット経由の出前注文・宅配サービスである。なお両社のスマートフォンアプリの公開は「出前館」が2010年から、「Uber Eats」が2016年からと、スマートフォン経由のサービス提供開始時期はそれぞれ異なることから、両社の利用者数を単純に比較することはできない。

井上智紀(いのうえともき)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員・総合政策研究部兼任

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