南海トラフ地震、首都直下型地震、富士山の噴火……
自然災害による大きな被害が頻発するようになった昨今。被害を抑えるために、行政はいったいどんな対策を講じているのだろうか。数々の被災地を訪れ、自治体に防災に関するアドバイスも行なっている渡辺実氏に話を聞いた。
平成の大合併で自治体の耐災力が脆弱に
地震、水害、火山活動――古来、数々の天災に遭遇してきた災害列島・日本。近年、その激烈さが増大し続けている。防災・危機管理ジャーナリストとして国内外の被災地を訪れ、その被害と復興の過程をつぶさに取材してきた渡辺実氏は、この数年の変化を「災害の『顔』が厳しくなってきている」と表現する。
「平成30年7月豪雨では、大雨特別警報が11府県で発表されました。ここまで大規模な豪雨は、これまでありませんでした。日本列島の気候が、今までの姿ではなくなっているのです。
地震も増えています。昨年は6月に大阪府北部地震、9月に北海道胆振東部地震が起こりましたし、その2年前には熊本地震がありました。
日本は、まさに天地動乱の時代に来ていると言えます」
それにもかかわらず、対策を担う地方自治体においては、深刻な問題が生じている。
「自治体の耐災力が落ちていることを痛感しています。その背景にあるのは、平成の大合併です。政府の主導のもと、自治体の数を削減したこの施策は、災害への対応力を著しく脆弱にしました」
自治体の職員数が減った影響も大きいが、それだけではない。
「自治体のエリアが広がったことで、職員の土地勘がない場所が増えたのです。地形も、地域の実情も、住民の数も年齢層もわからない。地名の読み方さえもわからない。そんなことが、あちらこちらで起きています。
例えば、周辺の町を合併して政令指定都市になった熊本市の熊本地震への対応は、迅速とは言えませんでした。
対して、熊本市と合併をしなかった益城町は、被害自体は熊本市より甚大でしたが、素早い対応ができていました」