前回、ベンチャーキャピタリストを志したきっかけや、VCの醍醐味、面白さなどについてうかがったインタビュー。今回は、田中氏の社長・CFO経験、どんな人がベンチャーキャピタリストに向いているのか、さらには新入社員に渡しているという参考書のリストの中身などについてうかがった。(取材・濱田 優 ZUU online編集長/写真・森口新太郎)

▼同じ特集の前回の記事はこちら
大学2年次に「ベンチャーキャピタリストになる」と決めた ――SBIインベストメント田中投資部長インタビュー(前)

パワポやエクセル上で考えてしまうコンサルや金融マンが陥りがちな勘違い

SBIインベストメント,田中,VC,ベンチャーキャピタリスト,ベンチャーキャピタル
(画像=森口新太郎)

――数多くのベンチャー経営者を見てきて、成功するベンチャーの経営者、それはまさにアントレプレナーという意味においてですけど、何か共通してるところはありますか。

高い志を持っている人ですね。私心をなくして世のため人のためになることに全力で取り組む、心から没頭することは大事です。

私は実は6年ほど投資先ベンチャーに出向して社長やCFOとして経営に携わった経験があるのですが、社長ってものすごく大変です。特にゼロイチをやられるような社長というのは、ハード・シングスをたくさん乗り越えなきゃいけないので、並大抵のマインドセット、心持ちでは乗り越えられません。強烈な思い、情熱……高い志がないと、成功できないと思います。

――経営を経験されたとのことですが、どこかのベンチャーに出向されたのでしょうか?

出向先は2社ありまして、1社目はシェアリーというクーポンをWeb上で提供する会社で、社長として行きました。創業から最終的には楽天に売却するに至るまで代表を務めました。

2社目は、教育関連の事業を行っている会社です。こちらはターンアラウンドです。SBIが80%程度の株式シェアを持っている会社にCFOとして派遣されました。

――実際、ご自身でやってみられて、VCとして支える側のほうが自分として楽しいと思われましたか?

VCのほうが楽しいというよりは、圧倒的にベンチャー企業の経営者は大変だと思いました。

投資と経営は近いので、投資をしていると「経営もできる」と思いがちですが、それは勘違いです。実際投資と経営は全然異なります。言うこととやることの違い、そこに大きな壁があることを痛感しましたね。お客様から売上を上げて、取引先に費用を払って、従業員に給料を払い、事業を継続するだけでも、どれだけ大変かを痛感しました。同時に事業を創り、雇用を生み出す経営者の尊さを学びました。

――特にご自身が代表として経験されたときに、やるのが大変だったことって何ですか。

我々のような金融マンはPowerPointとかExcel上で上手くいけば、実際に仕事も上手くいくと考えがちなんですが、実際の現場はそうじゃありません。なかなか合理的には説明できない、ウェットな人間関係や感性で物事が動きます。

BtoCの事業を行って痛感したのは、お客さま、消費者も経済合理性だけでは動かない。オフィスや店舗にいらして、雰囲気で物事を判断されることを含めて、細部までしっかり見ていく必要がある。お客様は本当に敏感なので、その会社が何を大切にサービス提供しているのかを動物的な本能で感じ取っているんです。そこまでしっかり考えて経営判断を行っていかないと事業はうまくいかないということを思い知りました。

また、組織を動かして成果を出すというのは単純な事では無く、すごく難しいなと感じました。

特に感じたのが、経営再建を行うために出向した時ですね。いかに前経営陣が駄目かを示し、自分たち新しい経営陣が会社をしっかりコントロールしていくという絵を描くのは比較的簡単なんですよ。

何が難しいかって、乗り込んでいった時に自分たちが言ったことが、1年後、2年後に実現できているのか、自分たちがうまく経営できているかという結果が出てくるわけですよね。最初の言葉が自分に刺さってくる。やっぱり中にはできていないこともあって、「言うは易く行うは難し」と実感しましたね。

――発言がブーメランのように返ってきた。

本当にそうです。キャピタリストの仕事って、一般的に「言う」だけで、やってもらう側ですよね。あくまで「やる」側じゃないですから。ただ、その時の苦しい経験が間違いなく今の自分の糧になっていると思います。

新卒の社員に毎年渡している「リスト」

――どういう人がベンチャーキャピタリストに向いてると思われますか?また、ベンチャーキャピタリストになりたいなら、こういう経験がプラスになる、というものはありますか?

私個人としては、好奇心が旺盛でアンテナが高い人、トレンドや人のネットワークにすごく関心が高い人は向いていると思います。

良くも悪くも、一つのことに集中して深掘りするというよりは、日々いろんな人に会って様々なことに取り組むことが多いので、それが好きな人が向いています。

あと人間力が高いことも重要ですね。相手は経営者でいろいろな経験をしている、百戦錬磨な人もいますから。しっかり信頼をしていただくという観点で、人間力がないといけない。

もちろん、ファイナンスのスキルとか、MBA的な知識は最低限必要だと思いますが、それに加えて人間力が高いことが望ましいです。

――経営者と信頼関係を築く上で何かやってらっしゃることはありますか。

本が好きなので、本をひたすら読んでいますね。ビジネス書もそうですし、新領域の技術書とかも読んでいます。

――最近読んだ本、もしくは今年読んだ本でよかったなというのは?