連載『中華圏富裕層の実態』では、香港で50年ぶりとなる金融機関「Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB)」を創設し、富裕層向けに資産運用をサポートしている長谷川建一氏が、中華圏富裕層の特徴について紹介していく。3回目のテーマは「ファミリーオフィスの新潮流」である。

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中華圏富裕層の特徴は、時代の変化に対応する柔軟性にあることを前回述べた。その柔軟性は、必要ならば中核だったファミリービジネスを売却することさえ厭わないほどである。あくまで彼らの目的は次世代に事業や資産を承継していくことにある。

その中華圏富裕層の事業・資産承継に重要な役割を果たすのが、ファミリーの富を運用管理する「ファミリーオフィス」である。前回はその基本的な役割について解説したが、今回は彼らのファミリーオフィスもまた、中華圏富裕層自身と同じように時代とともに変化し、多様化していることを紹介したい。

ファミリーオフィスの課題

中華圏富裕層の実態
(画像=ChameleonsEye/shutterstock.com,ZUU online)

先祖から代々資産を受け継いできた資産家一族や、一代で資産を築いた企業オーナーであれば、ファミリーオフィスに対するニーズは非常に多岐にわたる。

複数世代間にまたがる複雑な資産の承継を問題なくスムーズに進めることはもちろん、資産価値を最大化することや分散投資のポートフォリオを組むこと、資産保全を確かなものにしていくことなど、会計処理や監査、納税手続き、資産管理のための事務手続きを確行していくことも含まれる。

加えて、子息の教育のプランニングや入学の手続き、子息への帝王学的なインプット、医療や健康管理に関連する手配、プライベートジェットや旅行のアレンジなども、そうしたニーズに乗っかってくる。

問題は、これだけの幅のある業務をしっかりと受けとめ、処理できるだけの能力の高さを持った専門家をそろえることは難しいということである。

ファミリーに才覚ある人物が現れなかったら?

本来、ファミリーオフィスとは家族の資産を管理し、後の世代に継承し、家族・家系が永続的に繁栄することを目的に行動する。あくまで身内のプライベートな組織なのである。このためファミリー経営のビジネスが事業規模を拡大する中で、ファミリーの中からファミリーオフィスの運営・管理をする者を選んで来たという流れがあった。

才覚のある者がファミリーの中で現れてくれればよいが、それもなかなか適わないこともある。そうなると、外部から能力と経験のある人材を登用するということになる。

そこで投資ポートフォリオをより精度高く管理するために、運用や運用管理の経験をもった専門家を雇い入れるファミリーオフィスが増えてきている。経済環境の変化は激しく、市場でのリスクテイクには、広範な情報収集と高度な分析、的確なタイミングでの判断が求められるようになってきた。その中では、経験と能力を実績としてもっている専門人材の登用は、現在では主流と言うべきかもしれない。

新潮流「マルチクライアント・ファミリーオフィス」とは?