意外な提案の前には「合意の連鎖」を仕掛ける

時には、相手が気づいていない課題や相手の予想を超えるアイデアを提示するプレゼンもあるだろう。そうしたサプライズは、いきなり示したほうが、インパクトがあるように思うかもしれないが、それは危険だと、嶋氏は注意を促す。

「もちろんサプライズはあっていいのですが、『Aが課題だ』と思っている相手に対して、『実は本当の課題はBなのです』と前置きなく言ってしまうと、『あなたたちが考えていることは間違っている』と相手を否定することになります。すると、いくら内容が良いプレゼンでも、話を聞いてもらえなくなります」

そうならないためには、「合意の連鎖」を作っておくことが重要だという。

「これは、相手が否定しない大きな問いかけをいくつか投げかけて、『うん、そうだね』という合意の連鎖を得ておくということです。

例えば、シニア層のユーザーが多い商品の売上げを上げたい相手に対してSNSを使ったキャンペーンを提案するなら、いきなりだと拒否されるでしょうから、

『売上げを上げることが課題ですよね』
『ユーザーがシニア化して、若者が離れていますよね』
『若者を取り込めれば、売上げを上げられますよね』

というような、相手が『うん、そうだね』と合意する内容を並べたあとに、提案を持ってくる構成にするのです。

ものすごく当たり前のことでも、こうした前置きがあると、相手は『この人の話なら聞いてもいいかな』という気持ちになります。そのうえでサプライズを披露すれば、『なるほど、そんなアイデアもあるんだね』と納得しやすくなります」

「自分が言いたいこと」を書いてはいけない

もう一つ、よくある大きな勘違いが、プレゼン資料は「自分が言いたいこと」を書くものだと思っていることだという。

「人に見せるものなのですから、書くべきは『相手が聞きたいこと』です。

相手が聞きたいのは、『こうすれば事業が成長します』『こうすれば売上げを伸ばせます』といった、その資料に書かれた施策を実施することで得られる成果が明確にわかる言葉です」

当然のことのようにも思えるが、嶋氏が目にするプレゼン資料には、この「相手が聞きたいこと」を書いていないものが少なくないという。

「『私のアイデアはすごいでしょ?』とばかりに、自分の言いたいことだけを書き並べたものがあまりに多い。

アイデアを考えついた本人は、それが素敵なものに思えるので、どうしてもそれをアピールしたくなるのは、僕もわかります。

でも、僕たちはアーティストではありません。ビジネスを成功させるためのプレゼン資料なのですから、『自分のアイデアがいかに素敵か』ではなく、『この企画によって売上げが20%上がります』というような、具体的な成果をはっきりと書くことが不可欠です」

嶋氏が指摘したことは、いずれも「相手の気持ちや立場になって考える」という点で共通している。くれぐれも、自分中心で独りよがりのプレゼン資料にならないよう心がけたい。

《取材・構成:塚田有香 写真撮影:まるやゆういち》
《『THE21』2019年10月号より》

嶋 浩一郎(しま・こういちろう)
博報堂ケトル代表取締役社長
1968年生まれ。93年、〔株〕博報堂入社。企業のPR活動に携わり、2002~04年には雑誌『広告』の編集長を務める。04年、「本屋大賞」の立ち上げに参画。06年、既存の手法にとらわれないコミュニケーションを実施する㈱博報堂ケトルを設立。『アイデアはあさっての方向からやってくる』(日経BP社)など、著書多数。(『THE21オンライン』2019年09月09日 公開)

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