附田祐斗原作・佐伯俊作画・森崎友紀協力/集英社

食戟のソーマ,AI
(画像=Pixel-Shot / Shutterstock.com)

「AIが進化することによって人間の仕事が奪われる」というフレーズも陳腐化しつつあるような気がしますが、創作料理や料理の美味い不味いの判断をAIができるようになる日は遠いのではないでしょうか。

まず、料理が美味いか不味いかを測定するセンサーの開発が進んでいるという話を、不勉強のせいか、知りません。そもそも同じ味でも人によって好き嫌いがあるわけですが、もし美味いか不味いかを測定できるセンサーができたとして、そこから得たデータをディープラーニングし、美味い料理を作るAIはできるのか?

2012年から19年まで『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載された漫画『食戟のソーマ』には、「分子ガストロノミー」を得意とする薙切アリスというキャラクターが登場します。分子ガストロノミーというのは料理を化学的に分析する学問で、これを使った創作料理は実際に存在するそうです。ぜひ食べてみたいものです。

薙切アリスは、主人公・幸平創真との「弁当」をテーマにした料理対決で、手鞠寿司を作ります。そこでは、トマトを遠心分離器にかけて、色素、繊維質、ジュ(「肉汁や果汁、野菜の汁の意」だそうです)に分解し、さらに濾過を重ねてピュアにしたジュを数滴使う、などという技術を使います。

なんとなくですが、こんな感じで食品を成分に分解し、それを適切に組み合わせるというアプローチを取れば、AIでも美味い創作料理が作れるようになるのではないか、という気がします。

しかし、薙切アリスは幸平創真に敗れます。審査員が薙切アリスにかけた言葉は「弁当としての楽しさや新しさ/お前の料理にはそれがあっただろうか?」。もちろん薙切アリスと分子ガストロノミーを学んだAIは違いますが、AIも弁当という文化を人間と同じように体験することはできませんから、幸平創真のように(どのようにかは書きません)審査員を感動させることはできないのではないでしょうか。

AIが創作料理を作れそうな別のアプローチとして、人間の料理を完璧にコピーして、それだけだと創作料理になりませんから、なんらかのプラスアルファをする、という方法もあるかもしれません。『食戟のソーマ』には、まさにそれをする美作昴というキャラクターも出てきます。敵の能力をコピーするキャラクターは、少年漫画では珍しくありませんが。

幸平創真は、美作昴とも対決して勝ちます。具体的にどうやって勝ったかは書きませんが、料理をコピーされないように「俺は組み立て続けてたんだ/試合開始の直前まで…いや/調理が始まってからもずうっとね」という作戦で、それで勝てたのは、「試してきた途方も無い味の組合せ/その引出しを総動員して構築し続けた!/アタマん中で!!」というのが理由です。

組み合わせを無数にシミュレーションするというのは、美味い不味いの判断ができるのであれば、AIのほうが得意なのかもしれません。しかし、未知の組み合わせの料理が美味いか不味いかは、人間がAIに教えてあげないと、AIが自分で判断することはできないのではないでしょうか。

やっぱり、創作料理を作り、また料理を楽しむということは、AIにはできない、実に人間的なことではないか、と思うのです。

料理漫画では、肝心の料理の味を読者に直接伝えることが不可能なので、料理を食べたときの感動を絵や文字でどう表現するかが工夫のしどころであり、読者にとっては読みどころでもあるのですが、『食戟のソーマ』はその点でも印象が強い作品です。(K)

(『THE21オンライン』2019年09月13日 公開)

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