金融政策の概要:政策金利を0.25%引き下げ、政策金利の当面の据え置き方針を示唆
米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が10月29-30日(現地時間)に開催された。FRBは、市場の予想通り、政策金利を0.25%引き下げた。
今回発表された声明文では、景気部分で民間設備投資と輸出の現状判断について小幅な表現変更に留まったほか、景気見通しに関する表現変更はなかった。一方、金融政策ガイダンス部分では、前回あった「景気拡大を維持するために適切に行動する」との表現が削除され、政策金利の当面の据え置き方針が示された。
金融政策決定では、前回会合に続きカンザスシティ連銀のジョージ総裁とボストン連銀のローゼングレン総裁の2名が政策金利の据え置きを主張して反対したものの、前回0.50%の利下げを主張して反対したセントルイス連銀のブラード総裁は、今回賛成に回った。
金融政策の評価:パウエル議長は政策金利の当面の据え置き方針を示唆
政策金利の0.25%の引き下げは市場の予想通り。当研究所は10月のFOMC会合では利下げを見送り、12月会合での利下げを予想していたため、当研究所の予想に比べて利下げ時期がやや前倒しとなった。これは金融市場が10月利下げを相当程度織り込んでいたため、利下げ見送りに伴う金融市場への影響を考慮した結果だろう。
一方、金融政策ガイダンスやパウエル議長の記者会見で政策金利の当面の据え置き方針が示唆されたことは、当研究所の19年3回の利下げ見通しに概ね沿った動きと言えよう。
パウエル議長の記者会見では、前回会合から米中貿易交渉で前進がみられたことや、合意なきブレグジットのリスクが低下したことに言及された上で、景気見通しに対するリスクが好転していることが示された。また、同議長は今後の金融政策についてインフレ圧力が抑制されていることを踏まえて、現状で利上げを想定していないとしたほか、現在の金融政策スタンスが適切であり、見通しが自分達の期待に概ね沿う限り、適切な状況は続くとした。このため、金融市場は追加の金融緩和を織り込んでいるものの、同議長が追加緩和の可能性を否定することで、今後の政策金利の据え置きに伴う金融市場の混乱を回避するための措置とみられる。
当研究所は、引き続き金融政策がトランプ大統領の通商政策に左右されると判断しているが、米中貿易摩擦は緩やかながら緩和方向に向っていることや、インフレ率も底打ちがみられることから、追加緩和は見送られ、来年は政策金利が据え置かれると予想する。
声明の概要
●金融政策の方針
- 経済見通しに関する世界的な動向と物価上昇鈍化の観点から判断して、委員会はFF金利の目標レンジを1.50-1.75%に低下させることを決定した(今回追加)
●フォワードガイダンス
- 委員会はFF金利の目標レンジの適切な経路を評価しつつ、今後入手する情報が経済見通しに及ぼす影響について引き続き注視してゆく(「力強い労働市場と2%で対照的な目標に近いインフレ率を伴った景気拡大を維持するために適切に行動する」”will act as appropriate to sustain the expansion, with a strong labor market and inflation near its symmetric 2 percent objective.”を削除し、その他の表現を小幅に変更)
- これらの判断に際しては、雇用情勢、インフレ圧力、期待インフレ、金融、海外情勢など幅広い情報を勘案する(変更なし)
●景気判断
- 労働市場は引き続き力強く、経済活動は緩やかなペースで拡大してきた(変更なし)
- 最近数ヵ月を均せば雇用増加は底堅く、失業率は低位に留まった(変更なし)
- 家計支出は力強いペースで伸びたものの、民間設備投資と輸出は弱いままである。(民間設備投資と輸出について「弱まった」”have weakened”から「弱いままである」”remain weak”に表現変更)
- 前年比でみたインフレの総合指標、および、食料品とエネルギーを除いたインフレ指標は低下し、2%を下回っている(変更なし)
- 市場が織り込む物価見通しは低位に留まっており、調査に基づく長期物価見通しはほとんど変化していない(変更なし)
●景気見通し
- この行動が経済活動の持続的拡大、力強い労働市場、委員会の2%で対称的な目標に近いインフレ率が今後最も可能性の高い結果だという委員会の判断を支えるが、こうした見方への不透明感は続いている(変更なし)
会見の主なポイント(要旨)
記者会見の主な内容は以下の通り。
●パウエル議長の冒頭発言
- 本日、今年3回目の利下げを決定した。我々は、世界経済の動向に直面している米国経済の強さを維持し、進行中のリスクに対するいくらかの保険を提供するために、この措置をとった。
- 昨年以来の金融政策調整は、経済に対して重要な下支えを提供しており、今後も提供し続ける。我々は金融政策が良好な状態にあると信じている。
- 米国経済は11年目の景気拡大期にあり、ベースラインの見通しは引き続き良好である。経済全体は緩やかに成長している。
- インフレは我々の対照的な2%目標を下回る状況が持続する。目標を下回るインフレが続くと、長期的なインフレ期待が好ましくないほど低下する可能性があることに留意している。しかし、力強い経済と緩和的な金融政策を背景に、インフレ率は2%まで上昇すると予想している。
- 我々は、経済に関する新たな状況が、緩やかな経済成長、強い労働市場、対照的な2%に近い物価目標に概ね沿っている限り、現在の金融政策スタンスが適切であり続けると捉えている。
●主な質疑応答
- (見通しに対するリスクはポジティブな方向に向っていると言ったが、それは貿易かそれ以外のことか)我々が注目しているリスクは、世界経済の減速、通商政策の動向、それにインフレの下振れである。我々は中国と第一段階の通商合意を結ぼうとしており、実現すれば通商政策の緊張が和らぐ。ブレグジットについても合意なき離脱のリスクは軽減されているようにみえる。
- (90年の予防的利下げでは、グリーンスパンが利下げ後暫くしてから、政策金利の引き上げに転じた。再利上げが適切だと判断する理由があるとすれば何か)一般的に我々が金利を引き上げる理由は、インフレが上昇しているか、大幅に上昇するリスクがあると考える時だが、今はそのようには考えていない。そのように考える時がくるだろうが、我々は現在の金融政策スタンスが適切だと考えており、見通しが概ね自分達の期待に沿う限り、それは続くと考えている。
- (このままインフレ期待の低下が続く場合に、委員会は何かする準備ができているのか)インフレ期待は我々がインフレについてどのように考えるかの枠組みにおいて不可欠な存在である。我々の対照的な2%の物価目標と整合的な水準に、インフレ期待をしっかり固定させる必要がある。現在、そのような結果を得るための政策手段を実施している。我々はまた、見直しの一環として、潜在的なイノベーション、2%の物価目標の達成をより支援するような金融政策枠組みへの変更を検討している。見直しは来年中ごろには終わるだろう。
- (12月に利下げするのではなく、今回利下げした理由は)私は今回の動きが正しかったと考えている。ご覧のように、我々にはいつものように様々な見解があった。しかしながら、最終的には今回の決定に強い投票がえられた。
窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
【関連記事 ニッセイ基礎研究所より】
・【19年7-9月期米GDP】前期比年率+1.9%、ほぼ前期並みの成長を維持、市場予想は上回る
・【9月米住宅着工、許可件数】着工件数は125.6万件と、前月(138.6万件)、市場予想(132.0万件)を大幅に下回る結果
・【9月米雇用統計】失業率は3.5%に低下も、雇用者数は前月比+13.6万人と市場予想(+14.5万人)を下回る