骨肉の争いに?

このように特別受益に当たる贈与があると判断した場合、その相続人の相続分は減る事になります。この制度には相続人間の相続分の公平を測ることができるというメリットは確かにあります。例えば、ご兄弟の中で1人だけ私立医学部へ進学させてもらい医師となられた場合にその医師となった相続人が「確かに俺だけ特別に医学部に行かせてもらった、特別受益があった事を認めるよ」というような事例であればこの制度は十分にイカされることになります。

しかし、このように絵に書いたようにうまくいくケースは少ないと言えます。実は、特別受益の制度は色々と問題があります。まずは何が特別受益に当たるかは判断が難しいということが挙げられます。つまりどのような贈与があれば特別受益になるかということはルールブックのような一律の基準がないのです。

例えば結婚式の費用を親に出してもらった場合、一般には特別受益とはならないとされます。しかし、特定の子だけ特に豪華な披露宴をすれば特別受益となるかもしれません。また、国公立大学へ進学してその学費は親に出してもらったものの生活費は奨学金とアルバイトでやりくりをした兄と高校卒業後、勤めて自活していたもののマイホーム購入の頭金を親に援助してもらった弟とでどちらが特別受益か(あるいはどちらも特別受益ではないか)については、まったく判断が難しいと言えます。

このように何が特別受益に当たるかという判断は非常に難しい(というか決まっていない)ということが第一の問題点です。そもそも人生の様々なライフイベントなどにおいて親から援助をまったく受けないということが実は非現実的といえるかもしれません。

さらに問題なこととしてある贈与が特別受益に当たるかどうかについてだけの判断を求める裁判はしてもらえないこととなっています。つまり、遺産分割の話し合い(遺産分割協議)がうまくいかない場合、遺産分割自体の調停を裁判所申し立てることができますが、ある贈与が特別受益に当たるかどうかの判断を求める民事訴訟は不適法却下されることとなっています(最高裁平成7年3月7日判決)

これは、民事訴訟法上の議論となるのですが、特別受益にあたるかどうかの判断は遺産分割調停の中で行うべきであり、特別受益に当たるかどうかだけの判断を求める裁判は裁判を行う意味がない(訴えの利益がない)というのが主な理由です。

つまり、何が特別受益に当たるかということについて裁判所も明確な事は一切言ってくれないということになります。そのため、特別受益の基準はますます不明確です。さらに何より問題と言えるポイントは、ある贈与の事実を挙げて「特別受益だ」という話を持ち出せば、多くの場合には相続人間で争いとなってしまうということです。

事実に基づく肉親の思い出についての不公平感はとても大きな感情です。極端、子供の頃に兄弟の一人だけあめ玉をもらったということでも「不公平を受けた」という感情は消えないかもしれません。もちろんあめ玉1個で特別受益になるということはありえませんが、過去の親からの贈与の事実、そしてそれがその人だけの特別扱いだったという話を持ち出すこと自体が相続争いの火種となってしまうことになります。

そして、そのあとに残るのは兄弟間・親族間の感情的なしこりや不仲、相続争いの泥沼裁判、弁護士さんへと支払う莫大な裁判の費用です。このように特別受益は、(相続人の公平を図るという制度理念は良いものとしても)、実際にはかえって相続争いを招いてしまうことになりかねません。このような事態を避けるにはどうしたらよいのでしょうか。それは、特別受益については遺言書で制度を利用しないという旨を記載しておくということです。

具体的には、特別受益については遺言書に「持ち戻しを免除する」という一言を残すと特別受益の制度は利用しないことが遺言で決まります。特定の子息に対して特別受益にあたる可能性がある贈与をした「おぼえ」がある方は必ず遺言を作成して持ち戻しは免除する旨を残されることがおすすめできます。

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