不安にならないよう仕事中も声がけを

では、日本企業に就職した外国人人材に活躍してもらうためには、どうすればいいのだろうか。

「外国人はすぐに会社を辞めるというイメージがあるかもしれません。確かに、東南アジアの現地にいる人にはジョブホッピングをする人が多いのですが、日本で働いている人は、転職をするとビザが下りにくくなることもあり、同じ会社に勤め続けたいと考えている人が多いです。ただ、やはりビザの問題で、入社できる会社の選択肢が少ないため、入社後に会社とのギャップが生じやすいという問題はあります」(松田氏)

それを防ぐためには、入社前から、会社の制度や本人に期待していることを丁寧に説明することだと、松田氏は話す。ちなみに、ゴーウェルでも最も力を入れているのはこの部分で、この1年間で紹介した200人以上のうち、入社した会社を辞めたのはわずか2人だということだ。

「その会社で働くと、どのくらいの収入が得られて、どのようにキャリアアップできるのか。評価はどのようにされるのか、といったことをきちんと説明しておくと、会社に慣れるまでに1~2年かかるかもしれませんが、そのあと、大きく成長します。また、日本の労働法の考え方や社会保険の仕組みなど、日本人なら知っていることや、知らなくてもあまり気にならないことも、明確に説明する必要があります」(松田氏)

また、現場で一緒に仕事をする人が気をつけるべきこともある。

「残念ながら、日本語があまりできない技能実習生の場合、単なる労働力として見下すような態度を取る日本人がいます。当社は技能実習生の紹介はしていませんが、トラブルが起こった際に通訳を派遣することはしているので、そうした話はよく聞きます。日本語ができない人に対しては、相手の母国語の挨拶を一つでも覚えて声をかけたり、料理やモノを分け合ったりして、ゆっくりと心を通わせることが大切でしょう。

当社が紹介している外国人人材の場合だと、大企業によくあるのですが、職場がシーンとしていて誰とも会話がないために、不安になったり、自信を喪失したりすることがあります。日本語が完璧ではないという意識があるので、話しかけてもらえないと、『自分の日本語が通じていないのだろうか』『自分は認められていないのだろうか』などと思ってしまうんです。仕事中も、適度に声をかけるのがいいでしょう。

当社は社員の7割くらいが外国人で、私が地方出張から帰ってくると、『どうだった?』『何が美味しかった?』などと、すごく近寄ってきて聞かれます(笑)。髪を切っても、すぐに『髪、切りました?』と聞かれる。あまり仕事に関係のない話が多いのも問題ですが、それくらい空気が和んでいるほうが精神衛生的にいいのではないでしょうか。外国人人材が日本企業に増えると、職場のメンタルの環境が良くなるかもしれませんね(笑)」(松田氏)

「できるだけ」など、日本人には阿吽の呼吸で伝わっても、外国人には伝わらない曖昧な言葉を使わないことも大切だ。「大丈夫」も、外国人にはOKなのかNOなのかわからない。また、外国人人材を活用できている会社は、人事担当者も現場の社員も、外国人のことを本気で考えているという。

「例えば、『イスラム教徒の社員との会話で、お祈りについて触れてもいいのでしょうか?』というような、細かいことにも気を配って、当社に頻繁に確認を取る会社は、うまくいっている印象があります。

ちなみに、お祈りについては、他の人に邪魔されない場所がないために、トイレでしている人もいます。本来であれば、お祈りのためのスペースを用意するのがいいでしょう。1回5分程度で、就業時間内だと3回くらいでしょうから、業務に支障も出ないはずです。当社の場合は更衣室にスペースを用意していて、お祈りをしている間は札をかけ、邪魔をしないようにしています」(松田氏)

松田秀和(まつだ・ひでかず)
ゴーウェル〔株〕代表取締役社長CEO
1973年生まれ、熊本県出身。96年、早稲田大学卒業後、〔株〕日本交通公社(現・〔株〕JTB)に入社。入社後4年間で50カ国以上の国々へ業務渡航。バンコク支店、プーケット支店長を経て、退職後、2003年にタイで起業。バンコク中心部に、当時、東南アジア最大の日本語中古書店「BOOK OF WORLD」をオープン。07年に店舗売却後、ゴーウェル〔株〕を設立。日本帰国後、10年から、東京都千代田区で本格的に東南アジア関連事業の展開を開始。12年には東南アジアの言語に特化した通訳翻訳事業、スクール事業をスタート。18年より外国人に特化した就職・転職サービスを開始。THAI GOWELL Co., Ltd.代表取締役、GOWELL MYANMAR Co., Ltd.取締役、中部ESCO産業協同組合理事、外国人雇用協議会理事も兼任している。(『THE21オンライン』2019年09月30日 公開)

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