故人の遺産と負債の行き先

遺産分割(協議)と相続放棄の意味を把握するためには、まず、故人が保有されていた遺産と負債の「行き先」について知っておくことが前提として必要になります。故人が保有されていた遺産、あるいは負っていた負債(借金など)は相続によってどこに移るのでしょうか。

故人が持っていた一切の遺産と負債は、遺言書がない限り、相続開始(=死亡)によって自動的に法律上定められた相続人全員の「共有状態」となります。遺言書や死因贈与契約書を作らない限り、これは変えることができないルールとなっています(民法第896条・第898条)。

相続開始による自動的な遺産と負債の相続人間の共有状態の形成は、民法のルールですので、遺言書等がない限り拒否をすることも承認をすることもできません。そのため、故人が家や預金を保有されていれば、遺言書がない限りは、必ず一度は相続人の共有となります。


遺産共有状態解消するのが遺産分割

このように相続開始によって遺産は一度は相続人全員による共有状態となります。そして、相続によって一度発生した遺産の共有状態を解消するための手続きが遺産分割です。

遺産分割は話し合いがまとまらなければ、裁判所を利用した調停・審判という手続きもありますが、基本的には話し合いによります。遺産共有を解消するための話し合いを遺産分割協議と呼びます。そしてその結果をまとめたのが遺産分割協議書ということになります。このように、遺産分割は相続によって発生した共有状態を解消する遺産分けのために行われる話し合いを中心とした手続きということになります。

遺産分割に関しての最大のポイントは、相続人全員が参加して行わなければ無効となるということです。仮に相続人に未成年の子がいる場合には、原則としては親権者が法定代理人として遺産分割協議に参加しますが、親と未成年の子双方が相続人の場合には、親子の利害が対立するということから家庭裁判所に特別代理人を選んでもらわなければなりません。

また、妊婦の方が胎児を代理して遺産分割協議をするということは認められていません。さらに、相続人で行方不明の方が居る場合には不在者の財産管理人の選任と遺産分割協議参加への家庭裁判所の許可が必要です。

このように遺産分割の当事者が誰になるのかということや未成年者が相続人の場合の特別代理人の選任などさまざまな専門的な問題点が含まれますが、何より注意したい点は相続人全員を確定するということです。相続人の確認(故人の戸籍をすべて調べる必要があります)が難航しそうな場合や未成年者の相続人がおられる場合などは行政書士等へ遺産分割手続きの相談をされることがおすすめできます。

遺産分割を行なわなければならない期限は法律では決まってはいません。(この点は次に述べる相続放棄とは異なります)ただし、相続税の各種控除を受ける場合には、基本的には相続から10ヶ月以内に遺産分割をまとめる必要があります。相続税の発生が予想される場合には遺産分割を早めに行うことが大切です。