(本記事は、西村 貴好氏の著書『ほめ下手だから上手くいく 「ほめられない」を魅力に変える方法』ユサブルの中から一部を抜粋・編集しています)
「ほめる」と「おべんちゃら」の違いは
ホメハラにならないために、どうすればいいのか。
「ほめる」と「おべんちゃら」、そして「社交辞令」について考えてみたいと思います。
先日、ある雑誌で「ほめる」と「社交辞令」の違いについて取材を受けました。確かに社交辞令として相手の表面上をほめることもあるかもしれない。
私は、社交辞令は、決して悪いものではないと思います。社会のお付き合いの中で潤滑油の役割をする。
社交辞令とは、私はあなたの敵ではないと伝えるもの。上手に適切な距離感を保つための手段。
上手に相手とすれ違うための道具なのかもしれません。すれ違う社交辞令の代表例は、「また今度飲みに行きましょう」。この「また今度」と「お化け」には、出会った試しがないと言った人がいましたが、言い得て妙ですね。
一方で「ほめる」ことは、相手に自分の好意や関心を伝えることでもあります。「ほめる」ためには観察することが必要です。相手に関心や好意がないと観察はできません。「ほめる」とは相手に関心を寄せ、観察し、好意を届けること。相手との心の距離を縮めるものです。
それでは「おべんちゃら」とはどう違うのか。おべんちゃらとは口先だけの言葉という意味ですが、「ほめる」と「おべんちゃら」の決定的な違いがあります。その違いを理解することが、正しいほめ方を理解することにつながり、ホメハラになることを防いでくれます。
逆に言うと、正しいほめ方を理解することで、おべんちゃらになることを恐れず安心して、全力でほめることができるようになります。そして、正しいほめ方とは、相手の心に届くほめ方でもあります。
せっかくのほめ言葉なら、少しでも相手の心に届く方がいいですよね。簡単なことばかりなので、ぜひ知っておいてください。知っているかどうかで、効果が大違いです。
- 正しいほめ方基本ポイント
- ① 事実が入っている② 誰かへの貢献を伝える さらに ③ 第三者の声を使う(オプション) ④ 主観でほめ切る(必須・マスト)
「ほめる」と「おべんちゃら」の違いの一つが、「事実が入っているかどうか」です。
(「ほめ達」)「○○さんって、いつも朝、元気よく挨拶してくれるよね」(相手の心)確かに自分は、朝、この人に挨拶した。その事実は間違いない。
(「ほめ達」)「あの挨拶で、朝から今日も1日がんばろう! という気持ちになるんだよね。ありがとう!」(相手の心) 自分は、そんなつもりで挨拶しているわけではないけど、役に立っているのなら良かった。うれしい!
ここまでが基本中の基本です。もし、ここで相手が、あなたのほめ言葉の受け取りを拒むような場合、さらにオプションと必須項目があります。
相手「いや、たまたまですよ」 (「ほめ達」) 「私だけでなく課長も言っていたよ、○○さんの挨拶って気持ちいいって」
第三者の声まで使えれば、さらに説得力が増します。ぜひ第三者の声も使えるように普段から材料を集めておいてください。
もし、それでもなお手強くて、相手が否定するときはこうです。
相手「私なんて……まだまだです」(「ほめ達」)「いや、少なくとも私はそう思うな、○○さんの挨拶って人に元気を与えるって」「私もそんな挨拶ができるようになろうと、○○さんの挨拶を見習ってるんだ」
ここでのポイントは、「少なくとも私はそう思う」「私はそう思っている」と主観でほめ切っているところです。相手はあなたの主観を否定することはできません。主観でほめ切る。これが大きなポイントです。ですから、主観でほめ切れないことは言ってはいけないということです。
心にもないことは、ほめてはいけない。心にないことをほめること、これがおべんちゃらなのです。
- 正しいほめ方のポイント
- ①「事実」②「その事実が貢献しているところ」③「第三者の声」④「心からいいと思う主観」
これらのポイントを意識してみてください。
「ほめる」の反対は
さらに「ほめ達」を実践していく上で知っておいてほしいこと。
これからお伝えしていく内容は、ほめられない理由を排除していくことでもあります。
人はついつい、「ほめる」の反対をしてしまう。そのためにほめられなくなってしまう。
「ほめる」の反対は、「人と比べる」ことです。優秀な人や、理想の姿と比べて、相手のできていない様子や、足りないところに意識を向けてしまう。他人と比べてしまうと、ほめることが難しくなります。
「人と比べない」
比べるべきは、他の人とではなく、その人の過去の姿との違い。他人と比べるのではなく、その人の過去の姿と比較して、少しでもそこにプラスの変化があれば、そこに光を当てて、言葉にして届けてあげるのです。
さらに、「ほめ惜しみをしない」ということも大切です。
ほめ惜しみとは、ほめてあげられる状況でほめないこと。例えば、これまで三度の失敗で組織に迷惑をかけてきた人がいたとします。今回、成功して組織に貢献した。トータルで考えると、マイナス3にプラス1。まだまだ総計マイナスなので、ほめないでおこう。これがほめ惜しみです。ほめ惜しみをしてしまうと、ほめることが永遠にできなくなります。
ほめ惜しみをしない。ほめるタイミングは、今ここ、この瞬間です。
そして、「たまたまをほめる」。
「たまたまこそ!ほめる」と言い換えた方がいいかもしれません。相手が「たまたま」できたときこそ、ほめるのです。いつも書類の提出期限がギリギリの人が、珍しく早めに提出してきた。集合時間ギリギリか、少し遅れてくることが多い人が集合時間前に現れた。そんなときに、相手にどんな声をかけますか。「おっ、珍しいね」「雪でも降るんじゃないか」なんて言葉をかけたりしていませんか。「ほめ達」は、そんなときに、「おっ、意識できてきたね」「おっ、さすが!」と声をかけます。「たまたま」をほめていると、不思議なぐらい「たまたま」の頻度が上がってくるのです。
人は、相手の失敗に対して「いつも」とつけてしまい、上手くいったことに対して「珍しい」と表現してしまうものです。「君は、いつもここ失敗するよね」「今回は、珍しく上手くいったよね」という風に。
ぜひ「ほめ達」を目指すあなたは、これを逆にしてください。「どうしたの、珍しいね、君がこんな失敗するなんて」「いつもながら、素晴らしいね」と、失敗やミスに対して、「珍しい」と表現し、成功に対して、「いつも」と添えて伝える。これが意識できるようになると、かなりの「ほめ達」です。
できたからほめるのではないほめるからできるようになる
ここに仕事のスピードが遅いとレッテルを貼られた人がいるとします。実際に仕事のスピードが遅い人です。仕事のスピードには個人差があります。100点満点のスピードで仕事をする人もいれば、90点の人も80点の人もいる。本当は80のスピードが求められる職場において、片目をつむって70点までは許容ラインだとします。そんな中、60のスピードしか出せない人、それが仕事の遅い人です。
もし、そんな人が職場にいるならば、あなたはラッキーです。その人は「ほめ達」を実践するあなたにとって最高の財産となります。仕事の遅い人が60から63になったとき、そのときに、比べず、ほめ惜しみをせず、その3の変化をほめるのです。「おお、早くなったね」と。いやいや、本来は80は欲しい、70が及第点、それなのに63では、まだまだほめられないとなると、ほめることができなくなります。この小さな3の変化に気づき認めることが大切です。
あるいは、スピードは変わらず60のままなのですが、今回は少しでもスピードアップしようと意識したなと、少しでも意識の変化を見つけられたら、その意識をほめてあげてください。「今回はスピード意識できてるね」と。すると、不思議なくらい、その人のスピードが上がり始めます。「ほめ達」を実践した人が必ず口にする言葉があります。実践しないと絶対に言えない言葉です。それは、
「できたからほめるのではない。ほめるからできるようになる」
70点を超えたからほめるのではない、60から63になった、この3点をほめるから、70点を超えてくるようになるのだ、ということです。
比べず、ほめ惜しみせず、たまたまかもしれない小さな変化をほめて支える、これが「ほめ達」です。