(本記事は、西村 貴好氏の著書『ほめ下手だから上手くいく 「ほめられない」を魅力に変える方法』ユサブルの中から一部を抜粋・編集しています)
「雰囲気ありますよね」
頭が温まってきたところで、いよいよここから「言葉の型」、具体的なフレーズをお伝えしていきます。
「ほめ下手」が、まず最初に「ほめ達」辞書の引き出しに入れておく言葉たちです。
通常の「ほめ達」の講座では、ここで「ほめ達3S+1」をご紹介するのですが、「ほめ下手」のあなたには、まだ荷が重く感じられるかもしれません。そこで、私も密かに使っているとっておきのフレーズからご紹介していきます。
ほめ達協会を設立して、まだ間もない頃、名刺交換をすると、時々言われる言葉がありました。
「へぇ、ほめる達人なんですね。私をほめてみてください」
初対面、会ったばかり、そして何度もお伝えしている通り私は「ほめ下手」、アドリブが苦手。しかし、ここでひるんでしまうと、「ほめ達」普及の大切な道が途絶えてしまう。脳をフル回転させて、相手を観察、何かないかと必死で探します。人間必死になると、何か見つけるものです。
そのときに私がよくお返しした言葉は、 「この質問をされる積極性が素晴らしい!」 「きっと、人生のすべてを積極的に生きておられるのでしょうね」
そう満面の笑顔で伝えながら、心の中は、脂汗たらりです。
幸いなことに、その言葉を聞かれた相手は、にっこりと微笑まれて、満足そう。余裕が出た私は、さらに言葉を重ねました。
そして、「いや何か(相手をまじまじとみて)……雰囲気ありますよね」
この「雰囲気ありますよね」コレこそが、とっておきの言葉です。
言われた方は、なぜかうれしくなるのに、伝えるこちら側に根拠がまったく必要ありません。根拠が必要ないということは、いつでもどこでも使える、そして相手も否定できないということです。
いつでも使えますので、まずは、この言葉を引き出しに入れておいてください。
ちなみに、「ほめ達」になるとほめ言葉に根拠を載せてお伝えできるようになるので、「ほめ下手」を脱出するとともに使う機会が少なくなる言葉でもあります。
さらに、どんどん言葉を足していきましょう。
次は「ほめ下手」なあなたの前に、例えば、仕事の現場などで自分とはまったく違う考え方をする人が現れたときに使う言葉です。ご紹介する言葉は、ほめ辞書変換の中でもご紹介しているフレーズなのですが、とっても役に立つ言葉なので、あらためてご紹介します。
それは「面白い!」です。
「違う!」と言いたいときに、「面白い!」。
「面白い!」という言葉は、相手を否定していませんが、完全なる同意もしていません。
ただ「面白い!」と言われた相手は、自分を認めてもらった気持ちになるのです。
これまで「ちょっと違うんじゃない」と言っていた場面で「それ面白いね」。「全然違う!」という内容ならば、「面白い! あともうちょっと変化したバージョンもないかな」と言うようにする。相手に伝えたいメッセージは「このままではダメ、考え直してこい!」と同じなのですが、伝わり方、相手の受け止め方がまったく変わります。こう使う場面を想像するだけで楽しくなってきませんか。
さらに相手にアドバイスを与えるときに、有効な言葉があります。
「ほめ下手」なあなたが相手に、ここを直して欲しいな、さらにここを修正するとさらに良くなるのにな、というときに使える言葉です。子育ての際にも有効です。
相手にアドバイス、注意を与えるときに、まずこの一言から、それは、「惜しい!」です。
「惜しい!」と言われると、言われた方は、8割がたまでは完成している、認められているという気持ちになります。そのあとに続くアドバイスは、すぐに直せて効果が高い、安心安全なアドバイスが続くという安心感を持つことができます。そのため、人の気持ちを受け止める心のコップを全開にして上に向けて次の言葉を待つのです。
心を開いてもらえるから、「惜しい」に続くアドバイスが相手の心の中にスッと入っていきます。
本当は、こちらが求めている8割もできてない、半分も超えていない「残念!」な状態であったとしても、「惜しい!」で一つ一つ、直していってもらう。これが正解です。
ところが、この「惜しい」という言葉は、普通に生活しているとなかなか使えない言葉でもあります。
相手に直して欲しいところが見つかると、一つでは済まなくなるのです。一つ見つけると、芋づる式に次から次へと直して欲しいところが見つかって、それを一気に伝えてしまう。そして、さらには相手の心のコップを下に向ける伝え方までしてしまう。それは「ついで」叱りです。
「君ねぇ、いつもこれを注意してきたよね。今回また、同じような失敗をして……あと、もう一つ言ってもいいかな」
どうでしょう、あと、もう一つから先が、相手の心の中に入っていくでしょうか。一応、立場上はおとなしくアドバイスを聞いているようですが、心の中はきっと『あなた、どうせ私のこと認めてないですよね。あと一つから先をがんばって直したところで私に対する印象って、変わりませんよね』となってしまっているのではないでしょうか。
ところが、「惜しい」なら、まったく違います。「惜しい」に続けて、アドバイス。「惜しい、あとこの部分に具体的な数字の裏付けがついていれば……」と伝えられると「今から、早速調べて追加します!」となりますよね。「惜しい」は、知っていて損はない言葉です。
「がんばれ!」と言いたいときには
「ほめ下手」な人だけでなく、すべての人に知っていただきたい、ある言葉の使い方があります。
それは「がんばれ!」と言いたくなる場面で、「がんばれ!」とは言わないということです。それでは、がんばれと言いたい場面でどのように言えばいいのか。
「がんばれ」と言いたいときには、「がんばってるね」と言うのです。
「がんばれ!」と「がんばってるね!」、相手に与える言葉の効果は同じなのですが、受け止める方の感情は、状況によって、まったく違うときがあるのです。
「メイク・ア・ウイッシュ」というボランディア団体があります。3歳から18歳までの難病と闘っている子どもたちの夢をかなえ、生きる力や病気と闘う勇気を持ってもらいたいと活動している団体です。
このボランティア組織に入って活動するためには、事前に研修を受ける必要があり、真っ先に厳しく教えられることがあります。それは難病と闘う子どもたちに絶対に使ってはいけない言葉があるということで、その言葉は「がんばれ」。子どもたちは十分以上に戦っている、これ以上まだがんばれと言うのか。ときに「がんばれ」は残酷に伝わることもあるのです。
「がんばれ」と言いたいときに、「がんばってるね」。「ほめ下手」でも使えて、相手に温かいものが伝わる、いい言葉です。
さらに、「がんばれ!」よりも「がんばってるね」よりも、素敵な言葉。言ってもらえると心があったかくなって、さらにがんばろうと思ってしまう言葉があります。それは「がんばりすぎないでね」。こんなことを言われたら、もう、最高に、うれしい。想像するだけでうれしい、そう思いませんか。
あなたも、「ほめ下手」からの脱出、トレーニング、がんばりすぎないでね。
そろそろ、自分も「ほめ下手」ではないイメージが湧いてきたのではないでしょうか。そんなあなたに、とっておきのほめ言葉をお伝えします。シンプルだけど、相手の心に刺さる、貫通力の高い言葉です。どのような場面で使うのかというと、相手があなたに、何かのチェックを求めてきたようなときです。
「これ、内容をチェックしてもらっていいでしょうか」と確認を求められたときに、内容をチェックして、不備がない大丈夫、オッケー、問題なしという場面で使える言葉です。「大丈夫」「オッケー」「問題なし」という代わりに使う言葉、それは、「完璧!」
「完璧」と言われた方は、自分はすごく認めてもらった、才能あるかも、と感じます。
シンプルな言葉なのですが、すごくうれしくなる言葉です。
また、相手との付き合いがある程度あるような場合には、「いつもながら完璧」という言葉もさらに威力大です。「完璧」に「いつもながら」がついて「いつもながら完璧」と言われると、言われた方は、『私はこの人にすごく認めてもらっている』という気持ちになり、関係性がさらに良くなります。
「完璧!」、ぜひ機会を見つけて普段から、どんどん使っていきたい言葉です。では、 どのようにして使っていけばいいか、どこでトレーニングすればいいのか。とっておきの方法をお伝えしますね。
「ほめ下手」がトレーニングする場所として、最適なのが居酒屋などの飲食店です。
「ほめ達」を目指す「ほめ下手」にとって居酒屋は、「ほめる」練習トレーニングに最高の場所です。野球少年がバッティングセンターに行くようなもの。ほめやすい球がいっぱい飛んできます。
料理を「ほめる」、スタッフの笑顔を「ほめる」。お薦めの料理を聞いて、そのお薦めを「ほめる」。
そして、〆は、これ。スタッフの「ご注文のお品はすべてお揃いでしょうか」という言葉に対して、「大丈夫」「全部出ている」「オッケー」という代わりに「完璧!」と言ってみましょう。間違いなく、スタッフの表情が輝きます。ぜひお試しください。
最高のほめ言葉
ここでいよいよ、最高のほめ言葉の登場です。
この言葉は、普段我々が何気なく使っている言葉でもあります。今後は、ぜひ意識して使ってください。最高のほめ言葉、それは、「ありがとう」
人は、ただ、ほめられたいのではないのです。自分が誰かの役に立っていることを知りたい。誰かから感謝されたいという気持ちが非常に強いのです。ですから、事実プラス「ありがとう」は最高のほめ言葉なのです。事実プラス「ありがとう」。ここでのポイントは、必ず事実が入っていること。
そして、この事実は小さければ小さいほど良いです。「ほめる」というと大層な事実、すごいことを探そうとしてしまいますが、小さな事実を見つける。小さな事実が、誰のどんな役に立ったのかを伝えてあげることが大切です。この小さな事実探し、これが「ほめ達」の腕の見せ所でもあります。
ここで、「誉」という漢字のお話をしておきます。
「ほめる」という漢字は2種類あります。「誉」という漢字と「褒」という漢字です。
ここでは「誉」という漢字の意味をお伝えいたします。この「誉」という漢字は、とっても素敵な二つの言葉からできています。上下に分解すると、上が「光」、下が「言」。「誉」とは「光」を届ける「言葉」という意味なのです。
人間の目は「借光眼」といい、光の力を借りないとモノを見ることができません。光がないと何も認識することができないのです。真っ暗闇の部屋の中にダイヤモンドが置かれていても、光がないと、そのダイヤモンドを見つけることはできないのです。そして、光に対して闇があります。闇に対して光の力が役に立つのですが、この光の力は心の闇を照らすときにも役に立ちます。
心の闇の中で、最も恐ろしい闇があります。それは「ありがとう」の反対です。「ありがとう」の反対とは何か。それは「当たり前」です。「当たり前」と感じた瞬間に、そこに感謝や価値が見つけられなくなります。家族がいて当たり前。自分のことをしてくれて当たり前。仕事があって当たり前。部下は会社に来て当たり前。ノルマは達成されて当たり前。子どもが学校に行って当たり前。自分や家族は健康で当たり前。当たり前と思った瞬間に感謝がなくなる。そんなことってないでしょうか。
人は悲しいことに、失うか、失うかも!という状況にならないと、本当に大切な存在 の価値に気づかないものです。そんなとき、心の闇にとっての光となるのが「ありがとう」なのです。「当たり前」のことに意識を向けて「ありがとう」と感謝を届けられる人、これが「ほめ達」です。
ですから、「ありがとう」を探すヒントは、「当たり前」だと感じてしまっていることに意識を向けること。「当たり前」の中にこそ、価値を見つけ感謝を伝えていくのです。
さらに、あなたの感謝力を高める小さな習慣づくりのトレーニングがあります。それは、日常の中で「すみません」「ごめんなさい」と言ってしまう場面で、可能な限り「ありがとう」「ありがとうござます」と言い換えてしまうということです。これは私も毎日実践しており、お勧めです。
例えば、エレベーターの扉を開けて待ってもらっていたときに、ギリギリ駆け込んで「すみません」という代わりに「ありがとう」「ありがとうございます」と言うのです。手伝ってもらって「ごめんなさい」を「ありがとうございます」。遠くにあるものを取ってもらって「すまん」という代わりに「ありがとう」。とっさに「ごめんなさい」と言っても大丈夫、その言葉に上書きするように「ありがとう」「ありがとうございます」を足していけばOKです。
いきなり、「ありがとう」がおかしい場面もあります。満員電車に乗っていて、自分が降りたいとき、いきなり「ありがとう! ありがとう!」はおかしいですよね。最初は、「すみません、降ります!」と言ってから「ありがとうございます!」これが良いのです。
ありがとうへの上書きトレーニング、「ほめ下手」のあなたにお勧めの習慣形成トレーニングの一つです。