(本記事は、西村 貴好氏の著書『ほめ下手だから上手くいく 「ほめられない」を魅力に変える方法』ユサブルの中から一部を抜粋・編集しています)

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(画像=PIXTA)

誉める人は、褒める人

「ほめる」とは光を届けること、光がなければダイヤモンドも石ころと同じ。誰もその存在や価値に気づけない。そして、光に対して闇がある。その闇の中で最も恐ろしい闇、心の闇とは何かというと「当たり前」。当たり前のことにこそ価値を感じ、その価値を感謝とともに伝えられる人、これが「ほめ達」です。

現代は、明るいニュースが少ない時代、なんとなく世の中が暗く感じられるそんな時代ではないでしょうか。そんな環境の中で、周囲の心を明るく照らす「ほめ達」の言葉や考え方は、周りの人に対して大きな影響力を持つようになります。多くの人にとって、暗闇の中に灯される、「ほめ達」の存在はとても明るく、温かく、そしてありがたいのです。そこに人は集まってきます。人は本能的に暗闇が怖い生き物だからです。

暗闇の中に灯されたろうそくの明かり、すなわち「ほめ達」の言葉や表情、考え方はとても目立つ、人々にとって、灯台のような役割も果たします。自ら望むと望まざるとにかかわらず、リーダー的な役割を果たす場面が増えてきます。

リーダーとは光を届ける人。暗闇の中に大きな松明を掲げ、周りに光を届ける人です。

そして、「誉める」人は「褒める」人でもあります。もう一つの「ほめる」という漢字「褒」、分解すると「衣」のあいだを「保」と書きます。これは、語源的には、もともと衣類というのは非常に高価なもので、この高価な衣類を大事にした人はほめられた、というのがルーツだそうです。

そこからさらに転じて、褒めるの意味を「衣の間、人としての中身を保ちましょう」と解釈することもできます。つまり、誰が褒めるのか、が大事。こちらが一生懸命に褒めているのに、相手に心の中で『この人にほめられてもうれしくない』と思われてしまったら終わりですから。

たとえ叱られたとしても、心から尊敬する人、あるいは自分のことをよく知ってくれている人からの言葉だったとしたら、叱られながら、注意を受けながら、『この人は私のことをちゃんと見てくれている、ありがたいなぁ』とうれしく泣けることもあるかもしれない。

人間力を高めることが大切だということです。そして、当たり前のことに対して意識を向けて価値を伝える「誉める」人は、人としても非常に魅力的、一手間多い愛ある人です。人としての器量が大きい人なのです。

ここまで読み進められたあなたの心の器量は、すでに数段大きくなっているはず、ここからはその心の器量を使って多くの人を幸せへと運ぶ方法をお伝えしていきます。

ダメ出しは本能

「ほめ下手」を脱出し、ほめずにほめる「ほめ達」の極意にも挑戦して、「ほめ達」へ確実に成長されているあなたに、さらに人としての器量を高めていただける考え方と実践法をお伝えいたします。

まず知っておいていただきたいのは「ダメ出しは本能」であるということです。

人は緊張したり、興奮すると手のひらや足の裏に汗をかく。これは私たち人間が動物から進化する過程で残された本能なのです。自分にとって危険なものが襲ってきたときに、地面の土をしっかりと蹴って早く逃げられるように。木に登って逃げないといけないときに、枝をしっかりと握れるように。また棍棒を握って戦わないといけない場面で、その棍棒を握って最大限の力を出せるように、手のひらや足の裏に汗を分泌する。同様に、私たちは、この身を守る本能において、自分の周りの人の欠点やできていないところを無意識に探してしまうのです。

人の嫌なところばかり探してしまう、ダメ出しばかりしてしまう、不安材料ばかり探してしまう。これは、本能がさせること、仕方がないこと、また必要な本能でもあるのです。危険を避けたり、ミスを防いだりするために必要な本能。このダメ出しの本能を否定するのではなく、ダメ出しの本能もしっかりと認めた上で、それでもなお、現代における本当の天敵とは何かを考えるのです。

現代の天敵とは、私たちの心や体に影響を及ぼす言葉にできない『なんとも言えない不安』ではないでしょうか。ニュースやネットを開いたときに目に飛び込んでくる情報やニュースのほとんどは、私たちをなんとも言えない不安な気持ちにさせる内容のものばかりです。

このマイナスのニュースや情報から私たちの心を守ってくれる心のフィルター、これが「ほめ達」の「ほめる」というフィルターなのです。

この「ほめる」というフィルターを身につけると、自分の心の中に安心が生まれます。

この安心が、プラスでポジティブなアイディア、言葉、表情を生み出す。そして、自分の心を守ってくれた「ほめる」というフィルターを使って、さらに周りの人に安心安全な言葉やアイディア、表情を提供できるようになります。

「ほめ達」は、周りの人にとって、安心安全な場と雰囲気を提供してくれる人なのです。「ほめ達」が提供する安心安全な場、雰囲気に接すると人は元気になる、プラスのアイディアが湧いてくる、行動する勇気が湧いてくる。これが、私の考える暗闇の中に灯されるロウソクの光となるということです。

ロウソクの光は火を分けてもわけても、元のロウソクの光は減るどころか、本数が増えた分だけどんどん明かりが広がっていきます。

最初は小さな明かりかもしれません。しかし、あなたの「ほめ達」の光が、少しずつ少しずつ、周りに広がっていけば「一灯照隅 万燈照国」素敵な世界がそこに待っているのです。

そして、あなたを中心として広がっていく明かりの真ん中にいるあなたが、その明かりの照り返しで、最も美しく輝くのです。

叱れる人でもある「ほめ達」

よくいただく質問の一つに、「“ほめ達!”は叱らない人ですか?」「叱ることを封印している人が“ほめ達!”ですか?」というものがあります。

「ほめ達」は叱らない人ではありません。むしろ積極的に叱りますし、叱ることを超えて怒ることもときにはあります。いや、叱ることはいいけれども、感情で怒ってはダメでしょう! と言われるのですが、相手のことを本気で考えるならば、あるいは、本気で成し遂げたいことがあるならば、感情が動くのは仕方がない。また感情にはすごいパワーがあるので、感情を無理に抑えつけることはできません。

ここでは、叱ってもいい、怒ってもいい、そのために押さえておくべきポイントをお伝えいたします。どのような立場にいる人でも、誰かに指導を与える際に知っておきたい非常に重要なポイントです。

「ほめる」「叱る」どっちが大事か、この問題よりも重要なポイントがあります。それが前述した、その言葉を「誰が言うか」ということ。ほめられてもうれしくないことがあるように、逆に叱られているのに、怒られているのに、うれしくて泣けることもある。伝え手であるこちらの人間力が大事。だから人間力を高めていきましょうということです。

この「誰が言うか」に関しては、人間力における「誰が」という点と、関係性における「誰が」という2点があります。「関係性における誰が」という点についてお伝えしていきます。安心して叱ることができるようになる関係性を作るにはどうすればいいのか、具体的かつ、すぐにできる内容ばかりです。ぜひ学び、実践してみてください。

この重要なポイントを教えてくれたのは、私たちの最初の成功事例、焼き鳥チェーンで働くアルバイトスタッフでした。

「この会社は、私たちを叱らないかというと、すごく叱ります。めっちゃ怒られることもあります。ただ、この会社は、私たちを見張っているのではなく、見守ってくれているんです!」この言葉を私に教えてくれたのは、18歳の女性アルバイトスタッフでした。

この焼き鳥チェーンは、お客様満足の徹底を会社の理念に掲げ、その徹底とさらなる満足度向上に挑戦し続けていました。顧客満足度向上への挑戦のためには、妥協はなく営業時間中は、社員からアルバイトスタッフへ厳しい指摘が飛んできます。それらの指摘を受けながら、お客様には最高の笑顔で、最高のサービスの提供を。この厳しい指摘に対して、「見守ってもらっている」と受け止められる関係性とは、どのようなものなのか。私はこの会社を観察し続け、研究し続けました。そこで分かったことがあります。

自分が指導や指摘を受けたときに「見張られている」と感じるのか「見守ってもらっている」と感じるのかでは、心の状態が大きく違います。この違いを生むもの。それはねぎらい。いや、ねぎらいとも言えない小さな言葉がけです。アルバイトスタッフの行動に対して常に添えられている「評価」と「感謝」と「共感」の声がけ、ポジティブ・フィードバックです。

ここでのポイントは、できていて当たり前のことに対しても言葉を惜しむことなく、タイミングを逃さず伝えていくということです。事実は小さければ小さいほどいいと心得ておいてください。

「今の挨拶よかったね!」「料理出してくれたんや、ありがとう!」「この生ビールの注ぎ方完璧!」「今日は、オープンからずっと満席状態、大変やけど、笑顔が途切れない。○○の笑顔の持久力すごいな!」

飲食店として、できていて当たり前のことでも、できているところを見つけて、認める評価の言葉をかけ、感謝を伝え、共感していくのです。これらのプラスの言葉、ポジティブ・フィードバックを充満させておく。

そして、できていないところを見つけたら、そのときもタイミングを逃さず、「あと、ここの盛り付けだけ、綺麗にしておこうか」「おっ、笑顔のエネルギーが切れてきたか? さらに笑顔意識していこう!」(このときには伝えながら、伝え手側も満面の笑顔で)。

すると、それらのアドバイスが、すっと相手の心に入り、行動が変化していくのです。

常にプラス評価の言葉をかけてもらい、当たり前のことに対して感謝をもらい、大変な状況のときには共感してもらえる。そんな中での注意なら、相手は、「見守ってもらっている」と感じて、それらのアドバイスや注意を素直に受け取るのです。

ところがどうでしょう、このような当たり前のことに対して意識を向け、言葉惜しみせずに相手に伝えるということができているでしょうか。常にプラスの言葉を充満させておくということができている職場や組織はどれほどあるでしょうか。ダメ出しは本能、ついついマイナスばかりに意識を向けていないでしょうか。できていることは、できていて当たり前、言葉をかけずそのままスルー。そしてできていないことを見つけると、とたんに雷を落とす。そんなことが多いのではないでしょうか。

叱ってもいいのです。ダメ出しをしてもいいのです。普段からちょっとだけ意識し、できていて当たり前のことに対して、その価値を認め評価し、感謝し、共感の言葉を伝えていく。そんな言葉を増やしていく。

無言でチェックして、チェックして、チェックして、できていれば何も言わず、できていないときだけ叱る、注意する。これだと相手は、『見張られている』となり、注意する言葉をアドバイスとは受け取らず、『自分はまったく認められていない、非難、批判されている』と感じてしまうのです。

叱ってもいい、常日頃の言葉がけさえ足していけばいいのです。叱ることを封印するのではない、これまで通りでOKです。当たり前のことに感謝を伝える。ねぎらうことを足していけばいいのです。

ほめ下手だから上手くいく 「ほめられない」を魅力に変える方法
西村 貴好(にしむら・たかよし)
一般社団法人日本ほめる達人協会理事長 1968年生まれ。関西大学法学部卒業。 「泣く子もほめる! 」ほめる達人(ほめ達)として、あらゆるものに価値を見出すことを理念に2010年に「ほめ達検定」をスタートさせる。検定3級受講者は全国で5万2千人を突破(19年8月現在)。受講者数は年々拡大している。企業向け研修、講演会やセミナーなども年間200回以上。「ほめ達! 」を導入し、「ほめちぎる教習所」に生まれ変わった三重県・南部教習所は、生徒数増加、免許合格率アップ、卒業生の事故率が半減と素晴らしい成果を上げている。 著書に、「結果を引き出す大人のほめ言葉」(同文館出版)、「人に好かれる話し方41」(三笠書房)、「ほめる生き方」(マガジンハウス)などがある。