(本記事は、中島聡氏の著書『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』文響社の中から一部を抜粋・編集しています)
最初に頑張るアメリカ、最後に頑張る日本
数学の問題にしても仕事にしても、いつも最後にラストスパートをかけて終わらせようとするのが日本人です。Aくんの話のなかで言ったように、ラストスパート志向は絶対にやってはならないことです。そんなことだから日本の社会人は、みな夜遅くまで働いています。一方、朝早くから働くのがアメリカの社会人です。ここに仕事のやり方について考えるヒントが隠されています。
「日本は就業時間が長いわりに経済発展していないので生産効率が悪い」という話を聞いたことはないでしょうか。努力家で頑張っているわりに成果が出せていないと。仕事の効率の話でいうと、たしかに日本の仕事の仕方とアメリカの仕事の仕方はかなり違います。
とはいえ、仕事の仕方が違うだけで、アメリカ人も結構働いています。外国人は仕事をせずに遊んでいるわけではありません。
彼らが私たちと決定的に違っているのは、朝が早いという点です。彼らは朝の7時に会社に来て、夕方の5時や6時に帰るという仕事のスタイルを持っています。10時間くらい働いているということです。
たとえば私が住んでいたシアトルでは、スターバックスが朝6時から開店しています。スポーツジムも朝5時から開いています。なぜこんなに早いかというと、お客さんは夜よりも朝に来ることが多いからです。
日本では退社後にプールで泳いだりする人もいますが、アメリカでは朝から運動する人が圧倒的に多いです。私もシアトルにいる時は、毎週月曜日は朝6時からテニスをして汗を流してから働いています。
日本では夜遅くまで会社に残ることが美徳とされています。なぜなら、みんなの視線がある中で仕事を頑張っていれば高く評価されるからです。
でもよく考えてみてください。夜遅くまで残っている人は朝何時から働いていますか?実際には朝に会社に来て夕方に帰るアメリカ人よりも働いていますか?もしかしたら時間でいえば同じくらいではないでしょうか。
労働時間が同じならともかく、周囲のまなざしがあるからという理由だけで遅くまで残っていても生産性は上がりません。
日本では朝7時から働いて夕方6時に帰ろうとしても、周囲のまなざしに射抜かれて、強制的に夜遅くまで働くことになります。そんな環境ではむしろ生産性は下がってしまいます。これが日本の良くないところです。
一方、アメリカにはそのような空気はありません。朝から来て仕事を終えれば、夕方には帰れます。これには確固たる理由があります。それは、アメリカ人は家族を大事にしているからです。
ハリウッド映画やアメリカの連続ドラマでもよく見られるように、アメリカでは夕飯を家族みんなで食べるという文化が非常に強いのです。そのため、会社の人はみな夕飯前には職場にはいません。
もう一つ、アメリカでは日本ほど公共交通機関が発達していないという理由もあります。子どもがスポーツをしていたりすると、夜7時過ぎにはスクールバスも通っていないので、親が車で迎えに行かないといけないのです(アメリカのスクールバスは定時に帰宅する子どもたちのためだけに運営されています)。
親が共働きで、子どもが2人以上だと、手分けして迎えに行く必要があります。そのため絶対に5時には会社から出ないといけません。すると、仕事を終わらせるために自動的に朝7時から働くことになる、というわけです。
日本では、仕事より家族を優先するとやる気がないように思われます。家族との団欒は休日だけのものであるという風潮が強いのは、みなさんもご存じのとおりです。
会社と家族のどちらの共同体を重視すべきかという議論は簡単に決着を付けられるものではありません。ですから私も不用意にどちらの方向性で行くべきだ、という主張は避けます。
けれども一つ確実なのは、会社を重視しすぎるあまり、生産効率が落ちているのが今の日本の現状であるということです。
「なるはや」をやめれば緊張感が生まれる
日本の職場で今最も蔓延している病気といえば「なるはや病」でしょう。これは「締め切りは明示しないけどとりあえず早めにやってくれると助かるのでなるべく早くやってくれ」という、極めてあいまいな指示が飛び交う日本企業特有の病です。
なるはや病に罹った上司は部下に仕事を与える際、いつも「なるはやで」と頼みます。正しい感覚を持った部下ならば「いつまでにやればいいですか?」と上司に聞きますが、なるはや病に罹った部下は「わかりました」と簡単に仕事を請け負ってしまいます。
こうしてなるはや病に罹った上司と部下は仕事を回していきます。けれども「なるはやで」などというあいまいな指示に部下も緊張感を欠き、クオリティの著しく低い仕事を提出することになったり、最終的に締め切りまでに仕事が終わらなかったりします。
一方アメリカでは「なるはやで」などという指示はありえません。どんな仕事にも必ず締め切りが設けられ、部下は締め切りを守るために全力で仕事を終わらせます。締め切りがあるから効率化を考え、その結果生産性が上がるのです。
日本の職場にはそうした緊張感が欠けています。「1週間でできたら1週間でやってほしい」などというあいまいな指示では部下のモチベーションも上がるわけがありません。日本人も「この仕事2週間で終わらせて」と言われたら2週間で終わらせるように努力するはずです。なるはや病は、日本人の潜在的な能力を引き出さずに抑圧する、悪い病気です。
なるはや病は何の意味も理由もない、ただの悪習慣です。一歩立ち止まって、なぜ「なるはやで」などというあいまいな指示が横行しているかを考えてみてください。
答えがわかりましたか?
きっと答えはないはずです。そうです、なるはや病は何の根拠もないただの形式的なものに過ぎません。本質的な意味はないのです。
しかし一歩立ち止まって、本質的な意味を考えることは重要です。アメリカではそのように、形式よりも意味を考えて判断することがとても多いのです。
たとえば車を運転してスピード違反で捕まった時に「息子が熱を出していて」という言い訳が通用することが結構あります。法律は法律ですから守るのは基本ですが、なぜ法律ができたのかというところまで遡ったら、そういう判断を下すことになるのです。警官も意味を考えているのです。
もう一つ例を出すと、アメリカの電車には優先席がありません。なぜなら、必要だと思ったら規則がなくても高齢者や妊婦などに席を譲るからです。日本でも意味を考える習慣があれば、優先席を作らなくても人々は席を譲るはずです。
なぜその規則や慣習があるのかというところまで立ち戻って意味を考えてみてください。あなたも意味のない「なるはや病」に冒されてはいませんか?
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