買ったものを棚卸しして自分の好き嫌いを思い出そう

――藤野さんは、老後における最強の備えってなんだと思いますか。

藤野 一番の堅実なリスクヘッジは、好きな仲間と長く楽しく働くことです。

多くの人が100歳まで生きる時代が間もなくやってきます。そうすると、80まで働くことが当然になる。そのとき、N君は今の会社で80歳まで働きたいと思いますか?

もしその想像が苦痛だったら今の会社はよくない。楽しくなければ、仕事も人生もハードモードになってしまう。

だとすれば、人生100年時代に重要なのは給料の高さではなく、好き嫌いを基準に仕事を選ぶことなのではないでしょうか。これは、先ほどの人生のデザインにも通じる話です。

――日本企業のビジネスパーソンって今の会社に不満を言いながら、働き続けるイメージがあります。

藤野 それは、不幸なことですよね。海外では、自分の会社が好きで「嫌だったら辞めればいい」と考えている人が多い中、日本企業では会社は嫌いだけど、給料が高いから働き続けている人が多いのがわかりやすい例です。

でも、今の会社を辞めたら損だよと、家族や周囲の人が止めてしまう。嫌いな会社に長く居ても本人はちっとも幸せにはなれません。

――結局、好き嫌いではなくて、損得だけで判断をしている人が多いということでしょうか。今の世の中って、自分は何が好きかわからなくなってしまっている人も多いと思うんです。

藤野 人は、売るものには本音が出ないけど、買う物には本音が出るということを知っていますか? 

自分が買ったものを棚卸ししてみれば、手っ取り早く自分の価値観を知ることができますよ。

一方で、仕事は誰かに売るもの。自分の価値観は関係ないので、本心を偽ることができます。ちなみに、保険会社の営業担当に、「どんな生命保険に入っていますか」という質問をしたところ、「何も入っていません」と答える人が多かったそうです。

でも、これは笑いごとじゃありません。自分が欲しくもないものを他人に売り続けるより、本当に自分でも買いたいと思える商品を扱う会社で働くほうが健全ではないですか?

これまで、好き嫌いで選ぶなと言われて好きなことを封印してきた人は少なくないはず。でも、もっと好き嫌いを大事にしてください。それが、今後のお金の使い方を含め、人生のデザインを豊かにしてくれるはずです。

「THE21」2019年9月号より

取材構成 野牧 峻

藤野 英人(ふじの・ひでと)
レオス・キャピタルワークス代表取締役社長・最高投資責任者
1966年、富山県生まれ。90年、早稲田大学卒業後、国内・外資大手投資運用会社でファンドマネジャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス創業。主に日本の成長企業に投資する株式投資信託「ひふみ投信」シリーズを運用。投資教育にも注力しており、明治大学商学部兼任講師、JPX アカデミーフェローを長年務める。『さらば、GG資本主義』(光文社新書)など著書多数。(『THE21オンライン』2019年11月13日 公開)

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