社長ほど社員のことを見ている人はいない

見える景色はポジションで違う

だいぶ以前のことになりますが、ある知り合いのベンチャー経営者からこういう話を聞きました。彼は当時27歳、会社の規模は100人超という段階です。私は、私の周辺の27歳と比べて彼の見識が高いことに驚き、その点について聞きました。

すると彼は、同年代の人との違いについて、まず「自分は多くの経営者に会っている、そこで学んでいることが大きい」、そして「組織の頂点にいる人間と、組織の中にいて周囲を見ている人とでは、見える世界が違う」といっていました。

彼の立場からだと、全社員の動きが見渡せます。

したがって、だれがどういう行動をとっているのか、動きが活性化しているのはだれか、不活性なのはだれか、何をすると社員がよろこぶのか、が彼の目にはよく見えていたそうです。このベンチャー経営者が、動きが悪くなっている社員に積極的に関わっていたことを、私はいまでもよく憶えています。

なにも彼が特別というわけではありません。組織の中で最も幅広く社員のことを見ているのは社長です。それは、社長が(あるいは会長が)最も高いところから全社を見ているからで、途中の階層にいる中間のリーダーは自分の部下ばかりを見ているため、そう多くの社員のことまで目に入らないからです。

社長ほど多くの社員のことを見ている人はいません。この点では、社長は大いに自信を持ってよいと思います。

社長が社員を見るときの8つのポイント

社長が社員を見るときには8つのポイントがあります。

①ビジネス環境を理解し、柔軟に変化に適応できているか
②オーナーシップ(仕事に対する強い当事者意識)を持って仕事を進めているか
③顧客志向で仕事をしているか
④結果志向で目指すゴールを達成しているか
⑤不断の改善と変革をしているか
⑥チームワークと協働を図っているか
⑦正しい価値観を持っているか、正しい基本原則や判断軸を使っているか
⑧自発的に自己開発をしているか

オーナーシップとは、いわば当事者意識です。仕事を他人ごとにせず、自分の子どもを育てるように業務の推進と達成を図ることは、社員であっても欠かせません。

顧客重視と結果重視はいうまでもないと思いますが、間接部門や管理部門の社員の中には、ともするとそれを忘れてしまうことがあります。

不断の改善と変革は組織全体に必要なものですから、社員一人ひとりにこの意識が求められます。ときには社長から変革を起こし、組織全体に下ろしていく強い動きも必要です。

チームワークと協働ができる組織は、社員のエンゲージメントが高いだけでなく、生産性も高いです。これは欠かせません。

原則を重んじる、正しい判断軸を使うとは、たんにルールや手順書を守るのではなく、基本原則に従って行動することです。いわば「正しくやる」より「正しいことをやる」が重要であり、ときにはそれがマニュアルに優先することもあります。

P&Gで学んだ経営戦略としての「儲かる人事」
松井 義治
経営(人材・組織開発)コンサルタント、HPOクリエーション代表取締役。北九州市立大学卒。日本ヴイックス株式会社に入社し、マーケティング本部で医薬品や健康食品の戦略策定、商品開発など企画宣伝・プロモーション開発から市場導入までのトータル・マーケティングを担当。同社がP&Gと合併して7年後、人事統括部に異動し、教育・採用担当のシニアマネージャーを務め、グローバルリーダーを育成する「P&G 大学」づくりとプログラム開発に貢献。台湾P&G 人事部長、北東アジア採用・教育・組織開発部長等を歴任。ノースウエスト・ミズーリ大学経営学MBA、ペッパーダイン大学教育学博士。

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