19年12月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比5.3%増(前月:同3.2%減)と上昇し、5ヵ月ぶりのプラスに転じた(図表1)。輸出の基調は18年後半から米中貿易摩擦を背景とする世界経済の鈍化により減少傾向が続いてきたが、昨年末から半導体サイクルの回復や米中通商協議の第一段階の合意など明るい材料が出てきており、輸出に底入れの動きが見えてきている。もっとも足元では、新型コロナウイルス「2019-nCoV」を背景に中国を中心とするサプライチェーンが寸断される事態が生じており、当面は輸出入の下振れが予想される。
ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、12月は北米向け(同23.2%増)と東アジア向け(同8.8%増)が加速したほか、東南アジア向け(同0.5%増)とEU向け(同0.6%減)も上昇して前年並みの水準まで持ち直してきた(図表2)。
タイの19年12月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比1.3%減(前月:同7.4%減)とマイナス幅が縮小したものの、5ヵ月連続の減少となった。輸出の伸び率は、18年後半から米中貿易摩擦や世界経済の減速、通貨バーツの上昇を受けて電子機器を中心に減少傾向が続いてきたが、12月はITサイクルの回復によって電子機器が増加に転じるなど、底入れの兆しがみられる。また輸入額は前年同月比2.5%増(前月:同13.8%減)と上昇して5カ月ぶりのプラスとなった結果、貿易収支は6.0億ドルの黒字となり、前月から0.5億ドル黒字が拡大した(図表3)。
輸出を品目別に見ると、全体の約8割を占める主要工業製品は同0.9%減(前月:同6.4%減)と低下し、3ヵ月連続のマイナスとなった(図表4)。工業製品の内訳を見ると、電子機器(同1.2%減)が2年2ヵ月ぶりのプラスに転じたほか、家電製品(同15.9%増)が大きく増加したものの、主力の自動車・部品(同7.4%減)が2ヵ月連続で減少、機械・装置(同4.1%減)と石油化学製品(同6.9%減)が低迷した。また鉱業・燃料は同3.0%減(前月:同36.0%減)となり、メンテナンスで停止していた石油精製所が生産を再開させたことから石油製品(同7.3%減)を中心に落ち込み幅が縮小した。さらに農産物・加工品も同2.7%減(前月:同3.6%減)と5ヵ月連続のマイナスとなった。加工食品(同5.7%増)や果物(同10.7%増)、畜産物(同55.1%増)、ゴム製品(同5.1%増)が増加する一方、品種改良が停滞しているコメ(同41.1%減)や輸出制限終了後に価格が低迷している天然ゴム(同28.2%減)、タピオカ(同28.2%減)が大きく減少するなど、品目毎のバラつきがみられた。
ベトナムの19年12月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比14.0%増(前月:同4.7%増)と上昇した。輸出の伸び率は昨年2月こそ旧正月に伴う営業日数の減少で一時的に減少したものの、その後は繊維関連製品と電気製品・同部品の拡大によって概ね好調を維持している。また輸入額が前年同月比8.6%増(前月:同0.9%減)と拡大した結果、貿易収支は2.6億ドルの黒字となり、前月から5.1億ドル黒字が縮小した(図表5)。
輸出を品目別に見ると、まず輸出全体の約2割を占める電話・部品が同4.8%減(前月:同5.7%減)とマイナス幅が縮小したが、2ヵ月連続の減少となった。一方、電気製品・同部品は同46.8%増(前月:同28.5%増)と一段と上昇し、10ヵ月連続の二桁成長となった(図表6)。繊維関連では、直近2カ月で伸び悩んでいた織物・衣類が同7.5%増(前月:同1.7%増)と上昇、履物は同12.3%増(前月:同11.4%増)と二桁成長を続けた。農林水産物を見ると、コメ(同0.6%増)と水産物(同4.9%減)が停滞した一方、コーヒー(同18.8%増)と天然ゴム(同32.0%増)が上昇、野菜(同16.0%増)も二桁増で推移するなど、品目毎のバラつきがみられた。
輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同7.7%増(前月:同3.3%減)と持ち直し、地場企業が同26.5%増(前月:同25.2%増)と好調に推移した。
マレーシアの19年12月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比3.3%増(前月:同4.8%減)と上昇し、1年ぶりのプラスとなった。輸出の基調は18年後半から主力の電気・電子製品の鈍化とパーム油の出荷減少、19年には原油需要の低迷が加わって減速傾向が続いていたが、足元では循環的底入れの動きがみられる。また輸入額も前年同月比1.5%増(前月:同3.0%減)と増加に転じた結果、貿易収支は30.3億ドルの黒字となり、前月から14.4億ドル黒字が拡大した(図表7)。
輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同2.1%減(前月:同8.5%減)と、主力の電気・電子製品(同4.9%減)を中心に5ヵ月連続で減少した(図表8)。一方、動植物性油脂が同31.4%増(前月:同2.1%減)とパーム油を中心に大幅に増加したほか、ゴム手袋や衣類などの製造品が同8.8%増(前月:同13.3%増)と堅調に拡大した。このほか、鉱物性燃料は同1.8%増(前月:同22.4%減)と昨年の原油価格下落の影響が和らいで6ヵ月ぶりのプラスとなった。原油(同23.9%減)と天然ガス(同20.9%減)が低迷したが、石油製品(同36.0%増)が急増した。
インドネシアの19年12月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比1.3%増(前月:同6.1%減)と上昇して14ヵ月ぶりのプラスとなった。輸出の伸び率は18年後半から世界的な需要減退と商品価格の下落を背景に主力の資源関連が振るわず低迷していたが、足元では循環的底入れの動きがみられる。また輸入額は前年同月比5.6%減(前月:同9.2%減)とマイナス幅が縮小した結果、貿易収支は0.3億ドルの赤字となり、前月から13.6億ドル改善した(図表9)。
全体の9割を占める非石油ガス輸出が同5.8%増(前月:同4.6%減)とプラスに転じた一方、石油ガス輸出が同31.9%減(前月:同21.0%減)とマイナス幅が拡大した(図表10)。品目別に見ると、動植物製油脂(同30.3%増)や鉄・鉄鋼(同35.5%増)、食料・飲料(同15.4%増)などコモディティ関連が増加した一方、自動車・同部品(同5.8%減)と電気機械(同6.3%減)、機械類(同20.2%減)が減少するなど、品目毎にバラつきがみられた。
シンガポールの19年12月の輸出額(石油と再輸出除く、ドル建て、通関ベース)は前年同月比3.5%増(前月:同5.0%減)と上昇し、10ヵ月ぶりのプラスとなった。輸出の伸び率は18年後半から電子製品、19年から石油化学製品と医薬品が落ち込むなど、主力の輸出品を中心に不振が続いたが、足元では循環的底入れの動きがみられる。なお、総輸出額は前年同月比4.7%増(前月:同5.1%減)とプラスに転じた一方、総輸入額は同1.3%減(前月:同4.9%減)と低迷した。結果として、貿易収支が25.7億ドルの黒字となり、前月から1.7億ドル黒字が拡大した(図表11)。
輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約3割を占める電子製品が同20.5%減(前月:同22.5%減)と落ち込み、13ヵ月連続の減少となった(図表12)。電子製品の内訳を見ると、主力のIC(同29.1%減)をはじめ、PC(同65.2%減)、PC部品(同8.5%減)などが低迷した。一方、電子製品と並び全体の約3割を占める化学は同0.4%減(前月:同14.8%減)とマイナス幅が縮小した。化学製品の内訳を見ると、石油化学製品(同14.2%減)と医薬品(同15.5%減)がそれぞれ大きく減少した。また科学機器・装置(同12.2%増)や食品(同11.4%増)が二桁増となり、輸出全体を押し上げた。
フィリピンの19年12月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比21.4%増と、前月の同0.4%減から急上昇した。輸出の基調は18年12月から19年1月にかけて短期的に落ち込んだが、その後は一次産品の減少を電子製品の増加が相殺する格好となり、概ね緩やかな増加傾向が続いている。また輸入額は前年同月比7.6%減(前月:同8.0%減)とマイナス幅が縮小した。結果として、貿易収支は24.8億ドルの赤字となり、前月から8.5億ドル赤字が縮小した(図表13)。
輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の5割強を占める電子製品は同24.9%増と、前月の同3.9%増から上昇し、9ヵ月連続のプラスとなった(図表14)。電子製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同24.9%増)が大幅に増加したほか、オフィス機器(同13.7%増)が好調を維持、電子データ処理機(同4.2%増)が緩やかに増加した。その他9品目は増加した品目が多かった。製錬銅(同471.2%増)、生鮮バナナ(同34.9%増)、金(同30.2%増)、化学(同18.2%増)、機械・輸送用機器(同12.6%増)、その他製造品(同10.4%増)、イグニッションワイヤーセット(同3.5%増)、ココナツオイル(同1.1%増)が増加した一方、金属部品(同17.9%減)が大きく減少した。
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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員
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