日本とシリコンバレーで計5社を立ち上げたシリアルアントレプレナー(連続起業家)の田所雅之氏が、2020年2月18日に著書『御社のイノベーションはなぜ失敗するのか? 企業発イノベーションの科学』を出版した。
連載記事最終回の今回は、日本企業が「3階建て組織」を実装する具体的な方法について伺った。(聞き手:山岸裕一、編集構成:菅野陽平)※本インタビューは2020年2月に実施
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自分たちにとっての「マニア向けのアマゾンの書籍」を探せ!
―プロダクト・フューチャー・マーケットフィット(未来の顧客の課題や問題を満たすやサービスを提供して、適切な市場に受け入れられている状態になること)するために、飛躍的な発想はどうやったら持てるのでしょうか。
タネは身近に転がっていると思っています。世の中、アーリーアダプターみたいな未来に生きている人がいます。達成したいジョブが画期的だったり生産的だったりする。まずはそういう人やコトを見つけることでしょうか。
自分自身がアーリーアダプターだったら、「自分ならこうするのに」「自分はこういうのがほしいのに」の発想から始めていく。
未来というのはおそらく時間軸の話ではなくて、現状と将来、理想の世界とのギャップ。それをリアルに感じてどうにかして埋めようとしている人を見つけることだと思うんですね。
例えば、アマゾンは1994年に創業して今26年目で100兆円企業になりました。まさにプロダクト・フューチャー・マーケットフィットなんです。でも、初めにやったことは「Eコマースで本を売ること」でした。
彼らにとってのアーリーアダプターはまさにマニアックな本を欲しい人たちだったんですよ。当時の代替案として大型図書館へ行くしか方法がなかったんです。
そこでアマゾンは、マニアックな本を欲しい人たちだけを対象にした。
どうしても本屋さんはどんなに大型の書店でも1万冊しか物理的に本を置けない。アマゾン行けば100倍以上は置ける。初期のころは本の発送が実際2週間、手数料は8割もかかった。それでも代替案が無かったからマニアは買った。なぜなら、どうにかして欲しかったからです。
起業家や経営者、3階の人においても、大事なことは同じです。すなわち、「自分たちにとってのアマゾンの書籍を探せ」ってことです。1994年におけるアマゾンの書籍は現在、なんでしょうか。アマゾンの書籍が欲しいようなユーザーは誰なんでしょうか、と。
そういう人たちは喜んでお金を払います。そこにこそプロダクト・フューチャー・マーケットフィットがあると思っています。
さらに大事なことは、プロダクト・フューチャー・マーケットフィットするには自分の事業におけるセンターピンを探しにいくことだと思っています。
―未来を見つめつつ、逆算してセンターピンを探すこと。
現実には解決策が無い中、どうにかして探している人たちを見つけること。
探すヒントは『起業の科学』にも書きましたが、デザインシンキングみたいな発想で、彼ら彼女らがどういう行動をしているのかを観察して、共感することです。
LINEの話でいうと、テキストメッセージを送り合っている人に、言語化できずとも違和感を感じる。今の世界にヒントはあります。
もう1つ、変曲点を考えるとしたら、テクノロジーやインフラの変化があります。もっとも大事な変曲点はテクノロジーです。テクノロジーが変わったら、そこに乗るプラットフォームが変わり、さらに乗っかるいろんなプレーヤーが変わる。
モバゲーやグリー、ミクシーが勝ちきれなかった理由は、ガラケーと3G、つまり現在のマーケットに最適化していたから。そこに4Gというテクノロジーインフラ、スマホというプラットフォームが来たんです。そこに最適化できてなかったために勝ちきれなかったんです。
今後は5G、自動運転などもろもろのテクノロジーインフラが変わりますよね。そこに乗っかるプレーヤーやプラットフォームが変わってくる。
プラットフォームが変わると需要に対して供給が少なくなる、つまり供給できるビジネスが必要になる。そこをどうやって狙ってくか。