(本記事は、豊田 圭一氏の著書『人生を変える単純なスキル - センスよりスキルを信じよう 若手社員からプロフェッショナルまで大切にしたい7つのスキル』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

キャリアアップ,女性
(画像=PIXTA)

相手のことはわからないという前提を持つ

前回の記事で「自分を知る」ということの大切さを書きましたが、それだけでは片手落ちで、自分だけでなく「相手を知る」ことも必要です。人間関係における「相手」とは自分と関わるすべての人たちと言ってもいいかもしれません。

例えば、上司であったり、同僚であったり、部下であったり、連携や協業している仕事仲間であったり。あるいは、親や兄弟もそうかもしれません。近い関係にあるから知っているつもりで、実はよくわかっていない人たちは意外と多くないですか?

リーダーとして持っていたい力として、セルフ・アウェアネス(自己認識力)という言葉をよく聞きますが、その前提は「人は意外と自分のことを知らない」ということ。でも、自分のことすらわからないのに、自分以外の他人のことをどこまでわかっているんだろう? というと、もうこれはなかなか難しい問題です。スペインの大学院IEのリーダーシップのプログラムでは、リーダーには「自分を知る」「相手を知る」、そして「自分を取り巻く状況を知る(=俯瞰する)」の3つが必要と教えていました。

だって、結局、相手のことがわからないと、仕事はうまく進みません。いや、自分では進んでいると思っても、相手が本当にどう思っているかなんてわかりませんし、あるとき突然、仕事が頓挫するようなことがあるかもしれません。

例えば、突然、部下から「この仕事、もうやめたいです。ずっと辛くて、もう担当から外してください」と告白され、「え、そうだったの? それならもっと早くに言ってくれれば良かったのに……」なんてことありそうじゃないですか?

でも、「もっと早くに言ってくれれば……」と思っても、人には他人に見せない外向けの顔があって、自分の気持ちを100%すべて他人に見せるなんてことがあるわけありません。だからこそ、「相手は本当はどう思っているんだろう?」と意識することが大切なのです。自分は相手のことを全部わかっていないんだという前提に立つことです。

「相手のことはわかっているつもり」というのと、「本当に相手のことはわかっていないかもしれない」との間には大きな隔たりがあります。

相手のことをわかっていないという前提でいることが大切なのは、そういう意識を持っていたら、ことあるごとに「本当はどう思っているんだろう?」と意識ができるから。そして、それを意識しているからこそ、相手に気を遣うことができるからです。

これは別に変に腫れ物に触るように気を遣うということではありませんが、「この人は大丈夫」と思って気を遣わないのと、「大丈夫かな?」と思って気を遣いながら接するのでは、相手の捉え方が変わってきます。人は自分がどう思われているかに敏感です。そして、相手が自分のことを気にかけてくれているとか、気を遣ってくれているということに敏感です。そして、自分に気を遣ってくれる人に対しては、「(自分のことを)わかってもらえている」あるいは「(自分のことを)わかろうとしてくれている」という気持ちになり、素直に自分を出せるようになります。

さも自分はできている風に書いていますが、20年前、雇っていた社員たちが全員、「あなたの下では働きたくない」と一気に辞めたときは、自分がいかに彼らのことをわかっていなかったかを知って本当にビックリしました。彼らが会社や私に対してどう思っていたのか、全然わかりませんでしたし、わかろうともしていなかったのです。本当にバカでした。

グローバルビジネスを進めるために必要な力の1つに「異文化理解力」が挙げられるのも同じことです。日本人にだって様々な人たちがいて、全部を理解することが難しいのに、ましてや人種も言語も宗教も文化も歴史も、すべてが違う人たちのことを理解するだなんて……でも、現地の人たちのことを知らずに現地ビジネスはなかなかうまく進みません。

「日本ではこれでうまくいったから同じようにやろう」と思ってやったとして、うまくいかないことはたくさんあります。そのときに「おかしい……日本ではこれでうまくいくのに」と思うのは完全に間違いです。だって、そこは日本ではないのだから。

だから、異文化理解力が必要ということなのですが、実際は異文化の人たちを100%理解することは不可能です。じゃあ、どうしたらいいのか? それは、不可能だとしても、「わからないという前提に立ちながら、わかろうとする」という意識を持つことです。わかっているはずだと思ったら、話しかけて理解しようとしません。わからないという前提に立っているからこそ、わかろうとする努力をして話しかけるのです。

「現地の人が何を考えているのか、よくわからないんだよね」なんてことを言う人がいますが、そうではなく、よくわからないからこそ、相手に聞くことです。だって、そもそもわからないのが前提なんだから。

顧客だって家族だって仲間だって、誰でもそうでしょう。相手のことを知ることは大切。でも、わからない。わからないことが前提。だから、わかろうとすることです。

POINT
「自分を知る」「相手を知る」「自分を取り巻く状況を知る」の3つがリーダーには必要です。

人生を変える単純なスキル
豊田 圭一(とよだ けいいち)
(株)スパイスアップ・ジャパン 代表取締役。1969年埼玉県生まれ。幼少時の5年間をアルゼンチンで過ごす。92年、上智大学経済学部を卒業後、清水建設に入社。海外事業部での約3年間の勤務を経て、留学コンサルティング事業で起業。15年以上にわたり、留学コンサルタントとして留学・海外インターンシップ事業に従事する他、SNS開発事業や国際通信事業でも起業。2011年にスパイスアップ・ジャパンを立ち上げ、主にアジア新興国でグローバル人材育成のための海外研修事業を行なっている。また、グループ会社を通じて7ヶ国(インド、シンガポール、ベトナム、カンボジア、スリランカ、タイ、スペイン)でも様々な事業を運営している。18年、スペインの大学院IEで世界最先端と呼ばれるリーダーシップのエグゼクティブ修士号を取得。著書「引きずらない人は知っている、打たれ強くなる思考術」「自分がいなくてもまわるチームをつくろう!」など多数。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)