(本記事は、豊田 圭一氏の著書『人生を変える単純なスキル - センスよりスキルを信じよう 若手社員からプロフェッショナルまで大切にしたい7つのスキル』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

自由,想像力
(画像=PIXTA)

人を動かすのはロジックよりもエモーション

私がいつも考えているのは、人を動かすのはロジックよりもエモーションだということです。ロジック(論理)でそれっぽいことを言われても、「言われていることは頭ではわかるけど、どうも好きになれない」とエモーション(感情)が拒否するなんてことがあります。

そういえば、2017年のノーベル経済学賞は米シカゴ大学のリチャード・セイラー教授に与えられましたが、セイラー教授が研究していた行動経済学がまさにその「人間は理性ではなく感情で動く」というもの。

従来の経済学では「人は経済的合理性に基づいて行動する」と言われていましたが、「実際はそんなことはないよね?」と研究をしたのが行動経済学です。だって、お腹いっぱいなのに、飲んだ後に〆のラーメンを食べちゃうとか、負けても負けてもギャンブルを続けちゃうとか、ダメだとわかってるのにやめられないのは、明らかに合理的な判断ではありません。でも、「だって、〆のラーメンを食べたいんだもん」「ギャンブルやりたいんだもん」というのが人の感情です。

つまり、人は時にはバカなこと(非合理的な行動)をしてしまうわけで、必ずしも合理的な意思決定をするわけではありません。でも、実際それを「バカ」と言い切って無視するわけにもいきません。だって、仕事でもそこかしこでそういう判断や行動はされていますから、こちらも「人は感情で動くものだ」と理解した上で動くべきでしょう。社内でも、頭が良くて仕事ができる人ではななく、上から気に入られている人が昇進したり、営業においても、明らかに内容はこちらの方が上なはずなのに、他社の提案が採用されたりすることだってあります。どこかで相手の感情を動かしたということなのでしょう。

ちょっと下世話な話になりますが、考えてみたら、いくら条件が良くても、必ずしも異性からモテるわけではありませんよね。顔が良くて、背が高くて、学歴が高くて、良い会社に入っていて、給料が高くて、申し分のない人がモテないで、ふつうに考えたら「なんであんな人が?」と思うような人がすごくモテたり……。でも、だって人は条件で動くわけではありません。

だから、「人間は理性ではなく感情で動く」ということを理解しておくことです。そして考えたいのは、どのように相手の感情を動かすか。

私は2013年にインドで会社を立ち上げました。結果的には英語学校をつくったのですが、最初は何もツテがなく、たった一人でバンガロールという街に行き、この街のどこで何をやろうか? 誰と組めばいいんだろうか? と何もわからない中でのスタートでした。当時、インドで法人を立ち上げるためには、現地のインド人と組む必要があり、ツテのなかった私はまずは組む相手を探すところから始めなければいけませんでした。

英語学校をやるのがいいのではないかとは思いついたものの、何もツテがなかった私は、まず最初は日本人大学生向けの海外スタディツアーをインドで実施して、大学生たちと一緒にインドに数週間滞在しながら、同時に、インド人のパートナー探しを始めました。豊富な資金がない私は、なんらかの条件をつけて、お金を払ってインド人を動かすことができません。できたのは、情熱を持って話をすることだけ。

そのときに意識をしたのは、「インドが好き」という感情をたくさんぶつけるということでした。「私はインドが大好きです。インドで何かしたい。一緒に仕事がしたい」、そして、ついでに「私は辛いものが大好き! インド料理が大好き!」と、インド料理を食べるときもインド人たちと同じものを、同じように手を使って食べました。無理やり努力したというよりも、それは本当にそう思っていたからできたことでもありますが、少なくとも「インドが好きという感情をたくさんぶつけよう」と意識していました。

でも、それってすごく大切なことです。多くの人がカオスだと言って敬遠するインドにやってきて、「インドが好き! スパイシーなものが好き! インドで何かやりたい!」と言っている外国人に対して、「俺たちの国のことをこんなに好きで、何かしたいと言っている日本人のために何かしてあげよう!」と、いろんなインド人が助けようとしてくれたのです。

もちろん、彼らになんらか打算があったことだって事実かもしれません。でも、それはこちらにとっても同じこと。ただ、やっぱり、どんなに打算があったって、嫌なことはしてくれるわけがありません。だから、将来の美味しそうな話は見せつつ、とにかく「好き」を伝えました。だって、人は自分のことが好きな人が好きですから。そして、人は感情に動かされますから。

でも、それが心からわかっていなくて、人はロジックで動くと思っていると、「こちらがいい条件を出しているのに、それに乗ってこないあいつはバカだよね?」と判断したりしてしまうかもしれません。

ダメダメ、人間は理性ではなく感情で動くものです。

POINT
「人は経済的合理性に基づいて行動する」という従来の経済学と、「人間は理性ではなく感情で動く」という行動経済学。
今、人を動かすのはロジックよりエモーションです。

人生を変える単純なスキル
豊田 圭一(とよだ けいいち)
(株)スパイスアップ・ジャパン 代表取締役。1969年埼玉県生まれ。幼少時の5年間をアルゼンチンで過ごす。92年、上智大学経済学部を卒業後、清水建設に入社。海外事業部での約3年間の勤務を経て、留学コンサルティング事業で起業。15年以上にわたり、留学コンサルタントとして留学・海外インターンシップ事業に従事する他、SNS開発事業や国際通信事業でも起業。2011年にスパイスアップ・ジャパンを立ち上げ、主にアジア新興国でグローバル人材育成のための海外研修事業を行なっている。また、グループ会社を通じて7ヶ国(インド、シンガポール、ベトナム、カンボジア、スリランカ、タイ、スペイン)でも様々な事業を運営している。18年、スペインの大学院IEで世界最先端と呼ばれるリーダーシップのエグゼクティブ修士号を取得。著書「引きずらない人は知っている、打たれ強くなる思考術」「自分がいなくてもまわるチームをつくろう!」など多数。

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