(本記事は、山本崚平氏の著書『商談・会議・雑談でなぜか一目置かれる人が知っている「数字」のコツ』あさ出版の中から一部を抜粋・編集しています)
入社「5年間」は成果が出なくても焦る必要はない
●何かを成し遂げるには「1万時間」必要
いつまでたっても仕事の成果が出ない。会社からも期待外れだったと思われている気がする。そんなふうに焦る人もいるでしょう。
新人研修を行なっていると「仕事ができるようになるには、何年くらいかかりますか?」という質問を受けることがあります。
私は「個人差はあるけれど、普通に働いていたら5年くらいかな」と答えることにしています。
そうすると、「5年かぁ……長いですね」といった答えが返ってくることがよくあります。
有名な法則で「1万時間の法則」というものがあります。
1万時間というのは、物事を1人前にできるようになるために必要な時間だといわれています。
実際には、努力の「質」や物事の難易度などによっても変わるので一概には言えませんが、「1万時間」というとインパクトがあり、かつ実体験とそう乖離したものでもないので、広く一般的に知られています。
●人の成長は一定のペースで進むわけではない
では、この1万時間というのは、一般のビジネスパーソンでいうとどれくらいの期間になるのでしょうか。
毎日の労働時間を8時間とすると、1万時間÷8時間=1250日が必要となります。ただし、会社員は365日毎日働くわけではありません。年間の平均休日は114日(113.7日)というのが2018年の厚生労働省のデータで出ていますので、この数字を採用すると、労働日数は、〈365日−114日=251日〉となります。すると〈1250日÷251日=4.98年〉となり、だいたい5年程度働けば1万時間を達成することができます。
人の成長速度や成長方法はさまざまです。
正比例のグラフのように時間とともに着実に成長する人もいれば、指数関数のグラフのように、4年目まで成長の兆しが見えない場合でも、5年目になって急激に成長することもあります。
特に、指数関数的に成長するタイプの人は、初期の段階では成長している実感を得にくく、途中で心が折れてしまったり、諦めて退職してしまったりします。
これは特に、人を育成する側の人に心得ておいてほしいところです。
人手不足の中小企業では、どうしても3年で1人前、早いところでは1年で1人前になってもらわないと困るという風潮があります。
そして、3年で芽が出ない場合、「あいつはできないやつだ」というレッテルを貼ります。
教育心理学に、「ピグマリオン効果」というものがあります。
これは、教師に対して「この生徒は成績が伸びる生徒だ」と伝えたうえで教育に当たらせた結果、実際にその生徒の成績が上がった、という現象です。
反対は「ゴーレム効果」といい、人は他者から期待されないと成績が低下するという現象です。
この実験は、「単なる教師のえこひいきではないか」とか「伸びる生徒との前提があるから積極的に関与したのではないか」というさまざまな批判はあるものの、人材育成に置き換えた場合には役に立つ考え方です。
●「小さな期待」が人を勇気づける
できない社員だと思い込まれてしまうと、その社員には、成長の機会を得られる仕事がなかなか割り振られません。
できる社員だと思われている人には、「最近伸びている彼、彼女に仕事を任せてみよう」と成長の機会を得られる仕事がたくさん舞い込みます。
その結果、ビジネス人生は40年ほど続くにもかかわらず、大きな差が生まれてしまいます。
これはあまりにももったいない話です。3年で芽が出なかった人でも、10年後には会社を支えるエース社員になるかもしれないのですから。
人材育成は「担雪埋井」だといわれます。これは臨済宗の僧侶、白隠禅師の言葉です。「担雪埋井」とは、井戸の中に雪を放り込んで埋めてもすぐに溶けてなくなることから、何ごとも根気よく、繰り返し行う必要があることを表しています。
会社としては、社員が1万時間に達するまで諦めずに成長し続けられるように方針を立てることが重要ですし、現場の上司や先輩にも少し長いスパンでしっかりと教育し続け、フォローするよう意識を変えていく必要があります。
日本の社長は「50人」に1人と覚えておくと、高級品市場が見える
●意外と多い日本の社長の数
ビジネスパーソンであれば、中小企業の社長や取締役と面談するケースも少なくないでしょう。
では、日本には「社長」はいったいどのくらい存在するのでしょうか。
国税庁の平成29年(2017年)会社標本調査によると、日本の会社数は270万6627社となっています。
日本の人口は1.2億人なので、1.2億人÷270万人=44.44となり、だいたい50人に1人が社長だといえます。
労働者人口は6720万人(2017年データ、総務省発表)なので、6720万人÷270万人=24.88となり、なんと、約25人、いわば学校の1クラスで1人は社長をしているという結果になります。
こう考えると、「誰が買えるんだ?」と思うような高級時計や、「誰が住むのだろう?」と思うような高級マンションの市場が、常に賑わっている理由もうなずけます。
●社長の年収はどれくらいか
では、実際のところ社長の年収はいったいどれくらいなのでしょうか。
労務行政研究所が2019年に出した調査によると、社長の平均年収は4000万円台というデータが出ています。
ただし、この調査母数となった企業は、全国証券市場の上場企業(振興市場の上場企業も含む)3467社と、上場企業に匹敵する非上場企業(資本金5億円以上かつ従業員500人以上。一部「資本金5億円以上または従業員500人以上」を含む)70社の合計3717社の回答のため、中小企業の数字とはかなり大きな開きがあります。
では、中小企業の社長の年収について、参考となる数字を紹介しましょう。
日本実業出版社の「月刊企業実務」(2010年12月発行)のアンケートのデータによると、社長の年間給与合計の平均額は「2020万円」です(購読者7000社のうち有効回答212社)。
しかし、このアンケートでは、突出して年収が多い人がいたのか、一番回答数の多かったのは「1200万円以上、1800万円未満」でした。このゾーンが212社のうちの約4割を占めます。つまり、このあたりがボリュームゾーンということです。
ちなみに、2014年に日本実業出版社が行った、中小企業を対象としたアンケート調査では、社長の平均報酬月額は120.4万円、年間賞与は302.9万円となっています。年収でいうと、約1750万円といったところでしょうか。
これくらいの収入であれば、ある程度の高級商品にも手が届きそうです。新車が買えるくらいの時計の販売価格も、法外な値段ではないように感じます。
一般の会社員の人からすると、この年収は高いほうだと思いますが、普段から経営者と接している私から見ると安すぎるように感じます。
社長は常に会社のことを一番に考え、場合によっては個人名義で借り入れも行い、会社が倒産した時にはもっとも大きなリスクを負うからです。新入社員の年収が300万円だとすると、社員4〜6人分の金額です。
「社長になれば、食事や交際費など、経費で落とせるものも多いじゃないか」と言う人もいますが、経費といっても、“タダ”ではありません。
日本では、どうしても高い給料をもらっていると、叩かれたり、疎まれたりする風潮にあるような気がしますが、しっかりと社長業を務めている社長には、適切な報酬が得られる社会になってほしいものです。
そして、社長には遠慮することなく高級商品を購入してもらうことが、ひいては日本の景気をよくする一助になるかもしれません。
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