(本記事は、上村紀夫氏の著書『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

組織が病んでいくメカニズム

「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?
(画像=Webサイトより※クリックするとAmazonに飛びます)

●ポイントは「マイナス感情」

「組織が病んでいくそもそものメカニズム」について説明します。

組織はどのように病んでいくのか。そのカギは「マイナス感情」にあります。そもそも、マイナス感情とは一体なんなのでしょうか?

マイナス感情は、多くの人が経験しているネガティブな感情を指します。「あきらめ」「落ち込み」「疲労」「不安」「虚しさ」「妬み」「怒り」「逃げ」といったように、あまり表に出ない感情もあれば、ちょっとしたことで爆発する感情もあり、さまざまです。

感情には、マイナス感情と対極の「プラス感情」もあります。「喜び」「達成感」「満足感」「幸福感」などです。「プラスもあってマイナスもあるのだから、最終的にはプラマイゼロになるんじゃないか」と思うかもしれませんが、違います。

マイナス感情とプラス感情では、人のココロに与える影響が大きく異なる。ここに組織が病んでいくメカニズムを見るうえでのキーが隠されています。

現実に私たちが直面する感情は、マイナス感情のほうが強烈であり、さまざまな影響を長期にわたって及ぼします。

最もわかりやすい例は、昇給や減給です。これまでの社会人経験で一度は昇給を経験したことがあると思いますが、その時の「喜び」いつまで続きましたか?「給与が上がって嬉しい!やる気も上がったし絶好調」と思えたのは、数日ではなかったでしょうか。大抵の場合しばらくするとその金額が「当たり前」に変わり、「嬉しい」といったプラス感情は持続することはありません。

その一方で、減給された場合には悔しさ、怒り、虚しさなどのマイナス感情が引き起こされ、その気持ちは数か月経った後でもしっかりと残ってしまいます。なかなか減給の機会が自分事としてイメージしづらい方は、「同期と自分の給与に大きな差があったら」に当てはめて考えてみてください。もし自分が同期の特定の誰かよりも仕事ができる(と思っている)のに、給与が低いことがわかったら、不公平感と虚しさが湧き出てきて会社に対して不満を持つのではないでしょうか。

●プラスを生み出す施策はすぐ「当たり前」化する

プラス感情を生み出す施策は、いろいろあります。ノー残業デーや、リモートワーク、フレックス制の導入など、「働きやすさ」を実現するための施策の多くが一時的なプラス感情を生み出します。が、その喜びは一時的で、むしろ与えられていることは早い段階で「当たり前」に変わり、中長期的にはプラス感情は生み出さず、むしろそれが失われた際のマイナス感情のほうが大きくなってしまいます。

それでも多くの企業がプラス感情を生み出す施策を実施しています。なぜでしょうか。

答えはシンプルで、マイナス感情を解消する施策より、何かを足す施策を導入するほうが手っ取り早く、かつ“時代の流れに乗れている感”を経営・人事層は持つことができるためです。これでは、マイナス感情に蓋をして、プラス感情につながる施策を上に乗っけているだけとなり、一時しのぎの施策にすぎません。中長期的に考えると、マイナス感情はまるで除去できていません。よって、「あきらめ」「疲労」「怒り」といった、さまざまなマイナス感情がちょっとした引き金で爆発しかねない状況、まるで、噴火寸前のマグマを一所懸命抑え込んでいる状態になっているのです。

●マイナス感情は組織全体に広がっていく

マイナス感情の恐ろしいところは、個人レベルで蓄積するだけでなく、組織全体にも蓄積していくところです。そのメカニズムをわかりやすくするために、インフルエンザ感染が広がっていく様子に例えて説明します。

インフルエンザはインフルエンザウイルスの感染によって引き起こされる感染症です。感染すると発熱や頭痛、悪寒、関節痛などの症状が起こりますが、そこに至るまでのメカニズムは、次の通りです。

(1)ウイルスが鼻や喉の粘膜に付着して体内に入る
(2)体内でウイルスが増殖し、さまざまな症状を引き起こす
(3)咳やくしゃみなどで、そのウイルスが他の人に感染する

(1)=「感染」、(2)=「発症」、(3)=「伝染」となります。

マイナス感情の蓄積も同じようなメカニズムとなります。

(1)個人のココロにマイナス感情が生まれる(感染)
(2)マイナス感情が蓄積し、離職やメンタル不調などの症状が出る(発症)
(3)周りのメンバーに影響し、組織全体にマイナス感情が蓄積する(伝染)

マイナス感情が蓄積し組織に広く伝染した状態のことを、私は「病巣」と呼んでいます。インフルエンザで集団感染や学級閉鎖が起こるのと同じように、マイナス感情が「病巣」の状態になると、組織内で離職やメンタル不調の続発、組織の不活性化が起こるようになります。会社としての対応を行うのは、多くの場合、すでに「伝染」の状態になってからになると思われますが、伝染が起きる時点で、マイナス感情はかなり蓄積しています。

そして注意すべきは、マイナス感情はインフルエンザとは異なり、時間が経っても自然には治らないことです。インフルエンザは大きなトラブルが起こらなければ発症から5日ほどで落ち着きますが、マイナス感情の蓄積は自然には解消せず、何もせず放置すればむしろ増幅します。そういう点では、マイナス感情の蓄積は、インフルエンザと同じような感染力を持ちつつ、治りづらいという、対処の難しい「病」と言えます。

「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?
上村紀夫(うえむら・のりお)
株式会社エリクシア代表取締役・医師・産業医・経営学修士(MBA)。1976年兵庫県生まれ。名古屋市立大学医学部卒業後、病院勤務を経て、2008年ロンドン大学ロンドンビジネススクールにてMBAを取得。戦略系コンサルティングファームを経て、2009年「医療・心理・経営の要素を用いた『ココロを扱うコンサルティングファーム』」として株式会社エリクシアを設立。これまで30000件以上の産業医面談で得られた従業員の声、年間1000以上の組織への従業員サーベイで得られる定量データ、コンサルティング先の経営者や人事担当者の支援・交流で得られた情報をもとに、「個人と組織のココロの見える化」に取り組む。心理的アプローチによる労使トラブル解決やメンタルヘルス対策の構築、離職対策のコンサルティング、研修、講演などを行う。

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