(本記事は、上村紀夫氏の著書『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

マイナス感情はなぜ発生するのか

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(画像=Sol.Daria/Shutterstock.com)

●会社と社員の間にある溝

あなたの身近にある組織では、こんなことが起きていませんか?

・残業時間削減の取り組みをしたら、現場から不平不満が出てきた
・フレックス制度を導入したら、社員のやる気が下がってしまった
・結果を出した社員をマネジャーに昇格させたら、離職してしまった
・1 on 1面談を導入したが、効果が見られず管理職の負担だけが増えた

こんなとき、経営者や人事は、「社員のために、ここまでしているのに、なぜわかってくれないんだ」といった虚しさや手詰まり感を持つかもしれません。一方で、社員も、「どうして会社は、こんな余計なものばかり推進するんだろう」「どうして現場の気持ちをわかってくれないんだろう」といった、不満や不安を感じているかもしれません。

すべては「良かれ」と思って会社が社員のために行ったことなのですが、ことごとく裏目に出ている、そんな感覚はないでしょうか。この感覚を、「個人の問題はどうしようもない」「会社は精一杯良くしようと行動しているからいつかきっと結果につながる」としてスルーするのは危険です。良かれと思って行ったことの空振り……その積み重ねが、組織の将来に暗い影を落とす可能性があります。

では、良かれと思って取り入れた施策が、社員にとっては喜ばしくないものとして認識される──このお互いに「わかり合えない」状況を、どのように改善していくべきでしょうか。

必要なのは、組織内の『マイナス感情』と向き合うことです。活気を失う原因である『マイナス感情』の発生メカニズムを知り、どこに問題が起こっているのかを把握し、的確な対応をしていくことです。会社が「社員はこう考えているだろう」と想定している社員の気持ちと、社員の本当の気持ちにズレが生じたときに、両者の間には深い溝が生まれます。だからこそ、しっかりと社員のココロを理解していくことが求められます。

●問題は求めるものと与えるものの“差”

では、私たち個人が抱える、「あきらめ」「落ち込み」「疲労」「不安」「虚しさ」「妬み」「怒り」といったマイナス感情は、どのように発生するのか、考えてみましょう。マイナス感情を生み出す原因はさまざまあります。

例えば、わかりやすいのは給与の金額ではないでしょうか。

突然ですが、質問です。「あなたは、今の仕事の対価としていくらほしいですか?」30万円でしょうか、45万円でしょうか。この“いくらほしいか”はその人が行っている業務、その人自身の感覚で変わってきます。

会社に求める対価が「30万」であったとして、実際に会社から得られる対価が「26万」だとしたら、その差の「4万」こそがマイナス感情発生の要因となります。「もっと貰えてもいいのに」といった不公平感、「給料、今年も上がらなかった」といった虚しさ、こうした感情それこそがマイナス感情です。

「給与はこれぐらい欲しい」
「仕事の量や時間は、これぐらいがちょうどいい」
「職場環境は静かで集中できるほうがいい」
「雑談が多くて和気あいあいとした職場環境がいい」

誰もが会社や職場環境に何かを求めて仕事をしています。具体的に求めるものがある人もいれば、漠然と求めるものがある人もいます。何を求めるかは、その人が置かれている環境、これまで育った中での価値観、性格によっても異なってきます。

このように、マイナス感情の発生には、私たち個人が「仕事・職場に何を求めているか」が深く関与しています。

ただ現実には、何もかも社員の望み通りとはいきません。社員が求めるものよりも、会社が与えているものが少ないことがあります。反対に、社員が求める以上のものを、会社が与えていることもあります。つまり、社員が求めるものと、会社が与えられるレベルの“差”がマイナス感情発生の要因なのです。

●誰かにとってのプラスは誰かにとってのマイナスになりうる

マイナス感情の発生を防ぐには、社員が求めるものと、会社が与えられるレベルの“差”を埋めていくことが必要です。

ここまで読んで「その“差”をすべてお望み通りに埋めるのは無理だろう」と思った方も多いのではないでしょうか。その通りで、すべての“差”を満たすのは無理です。なぜならば、マイナス感情は人によって感じ方が異なるからです。

「会社が個人に提供するもの」と「個人が会社に求めるもの」には、必ずギャップが存在します。そして「個人が会社に求めるもの」には個人差があります。

先ほどのお金の例で考えてみましょう。「この仕事と自分のパフォーマンスなら30万はほしい」と思っていたAさんに、実際に支払われている対価が「26万」であれば、この「4万」の差はマイナス感情の発生要因です。では、同じ部署にいるBさんはいくらほしいと感じているでしょうか。Bさんは、「実家暮らしだし24万くらいあれば良い」と思っていた場合、実際に支払われている対価が「26万」であれば差はないどころか、Bさんの求めるレベル以上の対価となり、その「2万」の差が、Bさんにとっては嬉しい=プラス感情につながります。

人の価値観はそれぞれです。また、社会情勢や個々の人生のステージで価値観は変化します。独身の場合、家族がいる場合、育児、介護、さらに自身の健康などバックグラウンドに応じて、価値観は変化します。

そして、感情は価値観に大きく左右されます。結果、例え同じ仕事をしていたとしても、同じ年齢であったとしても、会社が提供するものが個人の「プラス感情」に結びつくこともあれば、「マイナス感情」を発生させてしまうこともあるのです。

「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?
上村紀夫(うえむら・のりお)
株式会社エリクシア代表取締役・医師・産業医・経営学修士(MBA)。1976年兵庫県生まれ。名古屋市立大学医学部卒業後、病院勤務を経て、2008年ロンドン大学ロンドンビジネススクールにてMBAを取得。戦略系コンサルティングファームを経て、2009年「医療・心理・経営の要素を用いた『ココロを扱うコンサルティングファーム』」として株式会社エリクシアを設立。これまで30000件以上の産業医面談で得られた従業員の声、年間1000以上の組織への従業員サーベイで得られる定量データ、コンサルティング先の経営者や人事担当者の支援・交流で得られた情報をもとに、「個人と組織のココロの見える化」に取り組む。心理的アプローチによる労使トラブル解決やメンタルヘルス対策の構築、離職対策のコンサルティング、研修、講演などを行う。

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