(本記事は、上村紀夫氏の著書『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

マイナス感情の見える化に挑む!

マイナス感情
(画像=Who is Danny/Shutterstock.com)

●HOWを決めるために必要な「材料」

HOWの意味は「どのようにアプローチするか」です。経営・人事・現場が連携し合いながら取り組む必要があります。

では、HOWを決めるための「材料」とはなんでしょうか?

それは、「データ」です。データを用いて組織の現状を把握することなしに、HOWは描けません。データと聞くと、数字化された資料という印象が強いと思いますが、実際に現場で集めた声や普段現場で感じている感覚、それらも一つのデータです。もちろん、従業員意識調査などの結果もデータです。

ただし、現場の声や感覚は「定性データ」と言われる数値に表せないデータであり、特定の事象についての具体的な意見を集めるのには向いていますが、幅広く組織の状態を把握するためのデータとして使用するのには向いていません。一方、従業員意識調査は「定量データ」という数字で把握できる情報であることから、部署間や年次別での比較など、組織状況の可視化や定点観測に向いています。

ここでは、多くの会社が保有しているであろう「数値化されたデータ」に注目します。どのようにデータを集め、どのようにデータを分析すれば役に立つ材料として具体策へとつながるのか。その最善の道を辿ってみます。

●マイナス感情の蓄積はどうやったら見えるのか?

離職や離脱はじめ組織課題への策は、シンプルに「マイナス感情を最小化」させることです。よって、まず、個人および組織へのマイナス感情蓄積の現状を把握する必要があります。

企業では、従業員意識調査やストレスチェックを代表にこれまでもさまざまなデータを取っていると思います。ただし、これまで「マイナス感情の蓄積」にフォーカスしてデータを分析してきたことはあまりなかったのではないでしょうか。

では、どうすればマイナス感情を把握できるのでしょうか。

ひとりひとりの労働価値のミスマッチを確認していくのが確実ではあります。しかし、現在、従業員意識調査や面談などさまざまな試みをしているものの、うまくいっていない感覚を持っている人もいるのではないでしょうか?

そこで必要なのは、セグメント別の組織活性に注目することです。

どのような調査でも、何を聞かれたとしても、個人特定につながる調査は社員に嫌がられるうえ、無理やり個人データを取ったところで、回答の正直さには疑問が出ます。また、個人活性は社員それぞれの労働価値によって大きく変動します。会社としても、聞いたからには何かしら対策をしなければならないというプレッシャーを抱えるでしょう。

まれに、個人データをやたらと知りたがる人もいますが、知ることのリスクや責任は十分理解したうえで、データを扱う必要があります。

一方で、組織でデータを見た場合はどうでしょうか。業務内容や人間関係を共有している「部署」や、人材セグメントなど、労働価値や業務内容、業務環境のばらつきを最小限に抑えた状態で組織活性を見ることで、個人の要素が薄まり、組織の状況がより明確に見えてきます。

「このセグメントには、こうしたマイナス感情が蓄積されている」ということがわかれば、課題を優先順位づけして対応することが可能となります。

●従業員意識調査を表面的に捉えていないか?

組織活性を見る最善の方法は、従業員意識調査を実施することです。「なんだ、それならうちもやってるよ」と思われたかもしれませんが、ただ実施しただけで終わらせず、結果につながる調査にしていくことが必要です。

そのための注意点は大きく三つあります。

まず、「調査のための調査」にしないこと。

「そろそろ意識調査をしておきましょうよ」「そうだな、一年に一回はやっておくか」といったように、いつのまにか調査すること自体が目的になっていないでしょうか。従業員意識調査の結果は、経営者および管理職の興味を引きますが、適切な実施目的の設定とその後のアプローチなどを行わない限り、「占い」とそれほど変わらず、実施しても無駄になります。ところが、目的のはっきりしないままに従業員意識調査を行い、効果的な施策も打てずに終わる組織は、想像以上に多いようです。

二つ目は、見るべきポイントをぶらさないことです。

従業員意識調査で重要なことは、「社員の労働価値を把握し、組織が提供している価値とのミスマッチを見つけること」にあります。それを把握することで、マイナス感情の蓄積を予測できます。このポイントがズレてしまうと、取り組むべき施策を見誤り、「良かれ」と思って社員が求めていない施策を打ってしまうような状況に陥ります。

三つ目は、適切な専門家分析を行うことです。

例えば、大抵の場合、スコアの大きな変化には複合的な原因があります。単に「業務負荷」が増えたという表現でも、単なる業務繁忙によるものだけでなく、上司のマネジメントエラーが絡んでいたりと、複数の原因が絡み合っているのが普通です。

従業員意識調査の結果を表面的に理解することは簡単ですが、実際には複数の要因が絡まって結果が出ています。表面的なデータだけを見るのではなく、専門家の助けを借りて、複数の項目を組み合わせてみることで、結果から得られる価値は数倍に膨らみます。

「データを取るだけ」では意味がない

あらゆるデータを活用するためには、「なんのためにデータを集めるのか?」目的を明確にすることが必要です。

目的は、「労働価値のミスマッチからの『マイナス感情の蓄積』を把握、予測すること」です。

そして、データを取ったあとは、分析のリソースを確保し、多角的に分析を行うことが欠かせません。

目的に沿ったデータとその分析という「材料」があれば、HOWを描くのは難しいことではないと言えるでしょう。

「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?
上村紀夫(うえむら・のりお)
株式会社エリクシア代表取締役・医師・産業医・経営学修士(MBA)。1976年兵庫県生まれ。名古屋市立大学医学部卒業後、病院勤務を経て、2008年ロンドン大学ロンドンビジネススクールにてMBAを取得。戦略系コンサルティングファームを経て、2009年「医療・心理・経営の要素を用いた『ココロを扱うコンサルティングファーム』」として株式会社エリクシアを設立。これまで30000件以上の産業医面談で得られた従業員の声、年間1000以上の組織への従業員サーベイで得られる定量データ、コンサルティング先の経営者や人事担当者の支援・交流で得られた情報をもとに、「個人と組織のココロの見える化」に取り組む。心理的アプローチによる労使トラブル解決やメンタルヘルス対策の構築、離職対策のコンサルティング、研修、講演などを行う。

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