(本記事は、上村紀夫氏の著書『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

人材セグメント別・離職戦略

人材
(画像=tomertu/Shutterstock.com)

●ハイポテンシャル人材への離職基本戦略

では、具体的にハイポテンシャル人材への離職対策はどう考えればいいのでしょうか。ここからは、人材と離職タイプに焦点を当てて、WHATを見ていきましょう。つまり、「どの離職を取り組み課題として設定するか?」について、基本戦略を通して見ていきます。

ハイポテンシャル人材の特徴として、他の人材セグメントと比べると、「能力活用」「達成」「自律性」といったキーワードを重視する人たちが多く、労働価値に偏りが見られます。

離職対策の基本は「労働価値のミスマッチで生じたマイナス感情を解消することにより、活性3要素をバランスよく充実させること」ですが、項目が絞られる分、対策が練りやすいと言えます。

・離脱が多い場合

ハイポテンシャル人材で離脱が起こる状態は望ましくありません。

能力の高い人は、仕事も集中しやすく、それだけ疲労も蓄積しやすいことに注意を向けてください。まずは疲労の蓄積に注意し、メンタル不調者が多ければ、メンタルヘルス対策が優先されます。

・消極的離職が多い場合

ハイポテンシャル人材にとって働きづらい職場となっている可能性があります。どのあたりに問題があるのか、離職時アンケートだけでなく、従業員意識調査や1 on 1など、定期的にヒアリングを行うようにしましょう。

「働きやすさ」のミスマッチは、課題が明確であることが多く、課題を見つけて解決する、というシンプルなアプローチが可能です。確実にマイナス感情の発生を予防しましょう。

・積極的離職が多い場合

「働きがい」を上げるための機会創出が主たる対策となります。ただし、働きがいとは具体的になんであるかを、慎重に検討してください。本人が重視しているものは何か。その本質を探り出さないと、ムダな施策になってしまいます。積極的離職を減らすのは、会社全体の業務内容へのアプローチが必要になることもあり、なかなか難しいのが実情です。積極的離職以外の離職を予防することから始めて、それらの施策がうまくいったあと、積極的離職を予防するための施策を打つかどうか検討する、という流れが望ましいと言えます。

●立ち上がり人材への離職基本戦略

立ち上がり人材は、労働価値として「環境」「ライフスタイル」「冒険性」などが高くなりやすい人たちなので、それに向けた対策をしていきましょう。

・離脱が多い場合

採用時のストレス耐性チェックや価値観合わせによって、不要なマイナス感情の蓄積を防ぐことが重要です。価値観については、この会社で働くことでどのような価値が与えられるのかを整理したうえで、その価値を重要視しそうな人材を採用することで、入社後のミスマッチを減らすことができます。

立ち上がり人材は、入社や転職直後の「変化への適応」により、精神的負担を受けやすい傾向があります。特に入社後3ヵ月は、過度に業務負荷をかけることを避け、段階的に業務範囲を広げる、などの配慮を行うことが望ましいです。

・消極的離職が多い場合

入社したばかりの立ち上がり人材には多くの変化が重なります。業務負荷の多さや人間関係に注意したいところです。特に職場でのサポートが不足していないか、よく点検してみましょう。業務サポート、精神サポートをしっかりすることで防げる可能性が大きいです。現場上長による定期的な声掛けや1 on 1面談の実施、人事による会社や部署への適応状況のヒアリング、などを行うことで消極的離職の発生リスクを下げることが可能となります。

・積極的離職が多い場合

見本となるハイポテンシャル人材を複数作ることが効果的です。もっとも、ハイポテンシャル人材が存在し、そこに焦点をあてていなければ、これは実現しません。まずはハイポテンシャル人材をきっちりと見極め、育てて定着させることが立ち上がり人材の定着に直結します。

●優秀人材への離職基本戦略

優秀人材は、労働価値がさまざまなので、会社全体での離職対策が練りづらく、定着戦略が成功する確率も低くなります。

・離脱が多い場合

年齢層も高めになってくるので、まずは心身の健康への取り組みから。健康障害の原因に応じた対応が求められます。

・消極的離職が多い場合

マイナス感情が発生している要因を特定し、全社的な問題であればそれを除去していきます。しかし、もしその要因が、介護問題や体調の問題など個人要因で起こっている場合には、対応できる範囲で対応していくことになります。

・積極的離職が多い場合

残念ながら、これを止めることは至難の業です。ここにかける労力があるのであれば、ハイポテンシャル人材や立ち上がり人材の離職対策に注力したほうが良いと言えます。優秀人材はその人が決めてしまえば、あっさりと積極的離職ができてしまいます。

●どの層の課題を解決すれば効果が大きいか?

以上、ハイポテンシャル人材、立ち上がり人材、優秀人材それぞれについて、離職パターンごとの対策を解説しました。

このように、社員の置かれている状況に大きな違いがあることが労働価値のばらつきにつながるため、離職やメンタル不調など、組織が抱える課題について“全社的アプローチ”を行っても、なかなか良い結果は得られません。

まず、特定の層のマイナス感情を解消させることが、連鎖的に他の層のマイナス感情の解消にもつながっていきます。

セグメンテーションを行い、「どの人材セグメントのマイナス感情を解消すると、効率よく全社的にプラスの効果が伝染するか」を考え、取り組みの順番をしっかりと設定していくことが重要となります。

今回取り扱った「離職対策」としてのターゲティング戦略では、ハイポテンシャル人材や立ち上がり人材などのセグメントに分けましたが、解決を目指したい課題によってセグメンテーションの仕方は当然変える必要があります。

どのような基準を用いれば、取り扱いたい課題について、考えが似た社員たちをきれいにセグメントに分けられるか?

この設定がうまくいけば、ターゲティング戦略による組織活性化の実現性はかなり高くなります。

「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?
上村紀夫(うえむら・のりお)
株式会社エリクシア代表取締役・医師・産業医・経営学修士(MBA)。1976年兵庫県生まれ。名古屋市立大学医学部卒業後、病院勤務を経て、2008年ロンドン大学ロンドンビジネススクールにてMBAを取得。戦略系コンサルティングファームを経て、2009年「医療・心理・経営の要素を用いた『ココロを扱うコンサルティングファーム』」として株式会社エリクシアを設立。これまで30000件以上の産業医面談で得られた従業員の声、年間1000以上の組織への従業員サーベイで得られる定量データ、コンサルティング先の経営者や人事担当者の支援・交流で得られた情報をもとに、「個人と組織のココロの見える化」に取り組む。心理的アプローチによる労使トラブル解決やメンタルヘルス対策の構築、離職対策のコンサルティング、研修、講演などを行う。

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