(本記事は、上村紀夫氏の著書『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

マイナス感情を3つに分別する

マイナス感情
(画像=chalermphon_tiam/Shutterstock.com)

●組織の病が発生するメカニズムを知る

マイナス感情の発生から、離職やメンタルダウン、モチベーションの低下といった課題はどのようなプロセスを経て出現しているのでしょうか。

マイナス感情発生→離職、マイナス感情発生→メンタルダウン、マイナス感情発生→やる気低下というプロセスは簡単ではありますが、それでは「不満があるからあの人は辞めた/不調になった/やる気が低下した」という認識でしかなく、非常に短絡的です。

マイナス感情によって、社員のココロ、私たち個人個人のココロがどのような影響を受け、それによってどんな症状(現象)が引き起こされているのかを理解していく必要があります。

ここでは、主に次の2点について解説をしていきます。

(1)マイナス感情が蓄積すると、どのようにココロに作用し、モチベーションの低下、離職、メンタルダウンといった症状につながってしまうのか
(2)蓄積による症状を深刻化させないためにどんな対策ができるのか

では、一緒に考えていきましょう。

●マイナス感情を放置すると泥沼化する

マイナス感情は、組織が抱えるさまざまな要因で発生します。

よく耳にするのは「同業他社と比べると給与が低い」「うちの部は雰囲気が悪い」「人事制度が古すぎる」「上司が部署を全くマネジメントできていない」といった愚痴ですが、そういったものすべてがマイナス感情の要因であり、日々、どこかでマイナス感情は発生しています。

そのため、組織を管理する立場の方がそれらを早期に見つけて対処することはとても難しいのが現実です。大抵の場合は気づかれない、気づけていても自分の力では何ともならないとあきらめていたり、もしくは放置されていたり。社内の秩序や生産性に影響する事象として目につくほどになってはじめて、「いつの間にこんなことに!」と愕然とする結果となります。

「わかりようのないことを、理解するのは無理」

「把握できないことに、対策を打てるはずもない」

ただでさえ忙しいマネジャーの方々が、そう思われるのも当然です。

しかし、マイナス感情が発生し、どんどん蓄積するのを放置している間に、「ここにいてはダメだ」と離れていく人材、傷んでいく人材が増えていきます。そこからまた新たなマイナス感情が発生し蓄積し、周りの社員に伝染していきます。多くの会社は、この泥沼にはまり込み疲弊しているようです。

●発生から現象までのロジックを把握する

この泥沼から脱するためにはどうしたらいいのでしょうか。まずはマイナス感情の蓄積を早めに把握する方法を見つけなければなりません。

しかし、マイナス感情の蓄積状況をひとつひとつ見ていき、アプローチを行うのは大変な作業です。例えば、部下Aのマイナス感情蓄積状況を理解しようとしたときを例に考えてみます。

「Aは営業先の顧客要求が厳しいことでかなりしんどそうだった。前月は残業時間が65時間を超えており、朝も毎日8時前には出社をしていたな。加えて後輩のBが言うことを聞かないと嘆いていたから人間関係でも苦労していただろう」

このときの部下Aのマイナス感情の発生要因はなんでしょうか。人間関係がうまくいっていないことでしょうか。顧客要求が高いことでしょうか。残業が多いことでしょうか。具体的にヒアリングをしない限り、「これが要因だ」と他者が決めることはできません。また、A自身の労働価値や性格傾向によっても、何が一番しんどかったのかも変わってきます。

マイナス感情の蓄積を早めに把握するということは、「不満があるからあの人は辞めた」といったような、マイナス感情の発生→現象といった短絡的見方をすることではありません。また、「これとこれとこの要因がマイナス感情の発生の要因となって、こういった現象に至った」とひとつひとつ細かく説明できることでもありません。

どんなマイナス感情の発生要因があり、それがどのようにココロに影響し、症状(現象)をもたらしたのか、もたらす可能性があるのか、ロジックを用いて理解することが、マイナス感情の蓄積を早めに把握するためのポイントです。

●マイナス感情を整理する3つのカテゴリー

私は経営コンサルタントとして、経営視点で組織を見る一方、産業医としてたくさんの方々と面談をしており、現場社員の視点からも組織のあり方を見ています。さらに、ストレスチェックなどの従業員意識調査のデータを用いて、経営視点と社員視点の両方から組織を分析しています。これら多角的な視点から、さまざまな組織を立体的に把握・分析してきた結果、社員のマイナス感情の発生対象は次の3つのカテゴリーに分けられると結論づけました。

・心身コンディション
・働きやすさ
・働きがい

私は、これら3つを合わせて「個人活性」と名付けました。人が活き活きと働けるかどうかを決めている3つの要素となります。

それぞれの中に、さらにいくつかの要素があります。詳しく見ていきましょう。

・心身コンディション:疲労、将来への不安、病気など
・働きやすさ:業務の量、ワークライフバランス、人間関係、人事制度など
・働きがい:強み、成長、居場所感、つながり、評価など

この3要素「心身コンディション・働きやすさ・働きがい」がバランスよく満たされている社員は、快適な職場で、元気に、前向きに仕事ができている、といえます。そのような社員が多ければ多いほど、高いモチベーションが組織内に充満します。

この3要素はどれか一つが優れていればいいというものではなく、重要なのはバランスです。例えば、“ワークライフバランス”への取り組みに力を入れていて、「働きやすさ」に優れている職場であっても、“成長”や“つながり”といった「働きがい」が不足し、成長を望む若手の離職が止まらないようなケースもあります。

なお、「働きやすさ」の中の“人間関係”と「働きがい」の中の“つながり”は似ているようですが、“人間関係”は上司・部下・同僚といった、業務に関連した関係性を指し、“つながり”は業務上の関係性というよりも「働く仲間」としての精神的な距離感を表します。例えば直属の上司の威圧的な態度に悩んでいるなら“人間関係”に、業務に支障はないが人間関係が希薄で一体感を持ちづらいことに不満があれば“つながり”に、それぞれマイナス感情が蓄積していると考えられます。

また給与の高い低いについては、「働きがい」と「働きやすさ」の両方に含まれます。金銭報酬の「働きがい」としての効果は一時的なものにとどまるため、よほどの金額でない限りは大きな「働きがい」の要素とはなりませんが、社員が「最低限このくらいは欲しい」と思っている額を給与が割り込んでしまうと、「働きがいはあるけど、この給与額だと想定している生活ができない」と「働きやすさ」を大きく低下させる原因となります。

●個人活性はピラミッドでできている

個人活性の3要素である「心身コンディション・働きやすさ・働きがい」は、ピラミッドに例えることができます。

「心身コンディション」は個人活性の土台となります。これがグラつくと、「働きやすさ」にも「働きがい」にも悪い影響を与え、個人活性の低下を招きます。どんなに骨組み・内装・外装が良い家を建てても、基礎がしっかりしていなければ家は傾きますよね。その一方、「働きがい」や「働きやすさ」が乏しい場合でも、「心身コンディション」に悪い影響を与えてしまいます。上の部分が崩れると、雨や風が侵食し、土台である基礎を破壊していきます。

「心身コンディション」の重要性については、すでに意識されている方も多いと思います。

しかしそれを、「個人の健康問題であり、組織は関知しない部分」と考えていないでしょうか。組織の「働きがい」や「働きやすさ」で発生したマイナス感情が「心身コンディション」を損ねてしまう、といったケースも多く、「心身コンディション」をチェックするのは組織にとって必要なことです。

「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?
上村紀夫(うえむら・のりお)
株式会社エリクシア代表取締役・医師・産業医・経営学修士(MBA)。1976年兵庫県生まれ。名古屋市立大学医学部卒業後、病院勤務を経て、2008年ロンドン大学ロンドンビジネススクールにてMBAを取得。戦略系コンサルティングファームを経て、2009年「医療・心理・経営の要素を用いた『ココロを扱うコンサルティングファーム』」として株式会社エリクシアを設立。これまで30000件以上の産業医面談で得られた従業員の声、年間1000以上の組織への従業員サーベイで得られる定量データ、コンサルティング先の経営者や人事担当者の支援・交流で得られた情報をもとに、「個人と組織のココロの見える化」に取り組む。心理的アプローチによる労使トラブル解決やメンタルヘルス対策の構築、離職対策のコンサルティング、研修、講演などを行う。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)