企業が発行する株式には、いくつかの種類がある。本記事で解説する「優先株」は、中小企業にとって貴重な資金調達手段になり得る株式だ。ただし、優先株にはデメリットやリスクも潜んでいるため、興味を持っている経営者は事前に正しい知識を身につけよう。
目次
優先株とは?普通株との違いを正しく理解しよう
優先株とは、ほかの株式に比べて優先的な権利が付与されている株式のこと。発行元によって権利の内容はやや異なるが、一般的な優先株は以下のような特徴を備えている。
この優先株に対して、一般的な株式は「普通株」、普通株よりも権利が劣る株式は「劣後株」と呼ばれている。投資家側から見ると、「劣後株<普通株<優先株」の順に魅力が大きくなっていく点は、基礎知識としてしっかりと覚えておきたいポイントだ。
優先株の2つの様式とは?
話を優先株に戻すが、優先株には以下の2つの様式がある。
投資家側の目線からは、「累積型優先株式」のほうがメリットが大きいといえる。仮に投資家が非累積型優先株式を購入する場合は、「本年度中に優先配当額を受け取れるかどうか?」を慎重に吟味する必要があるだろう。
優先株が有名になったきっかけ
国内で優先株が有名になったきっかけは、1999年に実施された「公的資金注入」と言われている。
当時は大手銀行による不良債権処理問題が取り沙汰されており、この問題に対処する組織として金融再生委員会が設立された(1998年12月)。同委員会は金融システムの安定化を図る目的で、大手銀行に対する公的資金注入を実施する。
このときに活用されたものが、今回解説している優先株だ。金融再生委員会は優先株を通して大手銀行に公的資金を流すことで、金融システムの安定化を図った。
その後、優先株の有効性が広く知れ渡り、さまざまな企業から活用されるようになった。ただし、現代においても優先株が上場されるケースは稀であり、金融機関が優先株を引き受ける形が一般的となっている。
優先株の3つの種類を徹底解説
優先株には上記の様式のほか、大きくわけて3つの種類がある。より理解を深めるために、以下で各種類の特徴をチェックしていこう。
1.完全参加型優先株式
単に「参加型優先株式」とも呼ばれる、取得コストが高いタイプの優先株。コストはかかるものの、優先配当額が支払われた後に普通株の配当も受け取れるため、参加型の優先株式では2重で配当金を受け取れる。
優先株式の中では最も多くの分配が発生する種類なので、たとえばインカムゲインを狙う投資家にとっては魅力的な株式といえるだろう。
2.非参加型優先株式
優先配当額は受け取れるものの、普通株の分の配当を受け取れないタイプの優先株式。配当金を2重で受け取ることはできないが、参加型に比べると取得コストが低い傾向にある。
この非参加型優先株式に関しては、普通株よりメリットが大きいとは言い難い。たとえば、優先配当額が普通株の配当金より少ないケースでは、優先株であるがゆえに分配時に損をしてしまうためだ。
したがって、配当金の分配状況によっては、非参加型優先株式から普通株に変更するような投資家も存在する。
3.制限参加型優先株式
優先配当額が支払われた後に、「一定の倍率まで」という制限つきで普通株の分の配当金が支払われる優先株式。普通株の分の上限配当額は「優先配当額と同額」であるため、完全参加型優先株式に比べると受け取れる配当金は少ない。
たとえば、優先配当額が300万円の制限参加型優先株式を保有している場合、トータルで受け取れる配当金は最大600万円(300万円×2)となる。
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ハイブリッド証券とは?
上記で紹介した優先株は、いずれも「ハイブリッド証券」に該当する。ハイブリッド証券とは、株式と債券の性質を併せもつ証券のことであり、優先出資証券や劣後債などもこれに該当する。
発行者のメリットとしては、資本コストを抑制しながら財務改善を目指せる点や、一般投資家からの注目を浴びやすい点が挙げられる。ただし、内包するリスクについては通常の証券と同様であるため、社債のようなローリスク型の金融商品とは言い難い。
投資家から見た優先株のメリット・デメリット
優先株のメリット・デメリットは、受け取る側(投資家)と発行する側(企業)によって異なる。そのため、まずは投資家から見た優先株のメリット・デメリットを、以下でひとつずつ確認していこう。
投資家側のメリット
投資家が優先株を取得するメリットとしては、主に以下の点が挙げられる。
簡単にいえば、優先株の取得は投資のリスクを抑える方法として効果的だ。普通株に投資をすると、投資先企業の経営状態が悪化してしまったときに、「投資総額>リターン」の状態になる可能性が高まる。
そのような場合であっても、優先株では一定の優先配当額が保証されているため、比較的安全に投資を進められるだろう。また、倒産に対するリスクヘッジになっている点も、投資家側がしっかりと押さえておきたいポイントだ。
投資家側のデメリット
優先株には投資対象として魅力的なメリットがあるものの、その反面で以下のようなデメリットも存在している。
優先株は一般市場で売買される株式ではなく、全体的に流動性が低い傾向にある。つまり、経営状態が良好であっても、株価が劇的に上昇するような見込みは薄いため、売買によって利益を積み重ねることは難しい。
また、中には権利が保護されているケースはあるものの、基本的には「議決権が制限されている点」も軽視できないポイントだ。議決権に制限がかけられていると、たとえば投資先企業の経営が傾いた場合であっても、経営に介入することができない。
株主としての権利を自由に行使したいのであれば、優先株主の権利が認められている株式を狙う必要があるだろう。
企業側から見た優先株のメリット・デメリット
次は、株式会社が優先株を発行するメリット・デメリットを見ていこう。
企業側のメリット
ここまでを読むと、優先株は投資家にとって魅力的な株式に見えるかもしれないが、実は発行する企業側にも以下のようなメリットがある。
前述の通り、優先株は普通株に比べて株価が高い傾向にあるので、企業側としては1株でより多くの出資を期待できる。さらに、議決権を制限した形で優先株を発行すれば、経営の自由度を維持したまま資金調達を実現することが可能だ。
また、優先株によって得た資金は資本金になり、結果として自己資本比率がアップする点も経営者が覚えておきたいポイント。融資を受ける前など、会社経営においては自己資本比率を上昇させる必要性に迫られるケースがあるため、その手段のひとつとして優先株の発行はしっかりと意識しておきたい。
企業側のデメリット
優先株の発行は新たな資金調達手段となり得るが、以下で挙げるデメリットには要注意だ。
優先株は資金調達手段として活用できるがゆえに、「資金繰りの厳しい企業が実施する」などのイメージを持たれる恐れがある。つまり、企業イメージの悪化につながる可能性があるため、発行する前には慎重に計画を立てる必要があるだろう。
また、株主総会に加えて「種類株式総会」の開催が必要になるなど、普通株に比べて発行に手間がかかる点もデメリットだ。さらに、これらのデメリットの影響もあって国内市場ではあまり浸透していないため、一般投資家向けに発行をしても買い手が見つからない可能性が考えられる。
上の表は、ここまで紹介した優先株のメリット・デメリットをまとめたものだ。優先株には、投資家・企業のどちらの立場にも魅力的なメリットがある一方で、注意するべきデメリットも潜んでいる。
状況次第では、ひとつのデメリットが深刻なリスクにつながる恐れがあるため、特にデメリットの部分はしっかりと理解を深めておきたい。
優先株の正しい活用方法と注意点
最後に、ここまでで解説しきれていない中小経営者向けの豆知識を紹介しよう。優先株を上手に活用するには、以下で紹介する2点を意識しておくことが重要だ。
優先株式設計は慎重に!基本的には専門家への相談が望ましい
配当金や議決権の範囲など、優先株の設計は慎重に進めなくてはならない。たとえば、配当金を低めに設定すると配当コストは抑えられるが、投資家にとっては魅力的な優先株ではなくなるため、スムーズな資金調達が難しくなる恐れがある。
また、優先株の「議決権に制限をかけられる点」は、企業側の立場からすれば大きなメリットといえる。ただし、投資家が不利益を被るような制限をかけると、上記の例と同じく優先株の魅力は薄まってしまうだろう。
したがって、配当金や議決権などの優先株式設計は、会社状況や株価を十分に考慮することが重要だ。ただし、あまりにも時間をかけると資金調達が間に合わなくなる可能性があるため、優先株を発行する必要性に迫られたら、弁護士などの専門家に相談することをおすすめする。
優先株の発行は、以後の資金調達に多大な影響を及ぼす
優先株は一度発行すると、以後の資金調達の幅を狭めてしまう恐れがある。そのメカニズムは以下の通りだ。
投資家の立場からすると、取得コストが上昇しているにも関わらず、あえてリスクを抑えにくい普通株や劣後株を選ぶ道理はない。つまり、優先株を一度発行すると、その後の大型資金調達についても優先株に頼らざるを得なくなる可能性があるのだ。
したがって、優先株の発行は短期間ではなく、中長期の資金計画として考える必要がある。たとえば、ベンチャー企業が優先株によって資金調達をする場合は、イグジットまでを踏まえた資金計画の策定が求められるだろう。
優先株以外の資金調達方法
優先株の発行にはリスクが潜んでいるため、資金不足に悩んでいる場合はほかの選択肢も検討したい。ここからはそのヒントとして、中小企業の選択肢となる主な資金調達方法を紹介する。
金融機関からの融資
最もシンプルな方法としては、金融機関からの融資が挙げられる。審査に通過する必要はあるが、銀行などと良好な関係を築くことにもつながるため、将来を見据えて融資を受けるケースも珍しくない。
ただし、融資によって得た資金は返済が必須であり、返済時には利息(※元本×金利)を負担することになる。融資の受け過ぎは倒産リスクを高めるので、日々のキャッシュフローを意識しながら慎重に判断する必要があるだろう。
企業やエンジェル投資家からの出資
企業やエンジェル投資家から出資を受ける形であれば、返済義務を負うことはない。出資元によっては、良きビジネスパートナーになる可能性もあるため、特に創業初期は積極的に考えたい選択肢だ。
しかし、出資の比率によっては経営権を握られるリスクがある。多くの自社株を保有されると経営の自由度が下がるので、機動的な経営は難しくなるだろう。
そもそも出資元を探すハードルも高いため、出資を目指す場合は綿密なプランが必要になる。
クラウドファンディング
クラウドファンディングは、近年多くの中小企業から注目されている資金調達手段だ。インターネット上にプロジェクトを掲載し、会社や事業の魅力をうまく伝えながら、不特定多数の投資家から「支援金」という形で資金を集める。
クラウドファンディングは資金調達のほか、自社のアピールにもつながる。支援者に対するリターンは必要になるものの、融資のような返済義務がないため、借入金キャッシュフローが圧迫されるような不安もない。
ただし、利用するサービスによって仕組みが異なるので、その点に注意しながら情報収集やプラン策定を進める必要がある。
専門家への相談
中小企業の資金調達では、専門家への相談もひとつの選択肢だ。主な相談先としては、税理士や弁護士、専門のコンサルティング会社などが挙げられる。
費用はかかるものの、相談先によっては書類作成や申請までサポートしてもらえる。無料相談を受け付けている専門家も見られるので、効果的な方法がなかなか見つからない場合は早めの相談を検討したい。
優先株の事例
清涼飲料水メーカーの「伊藤園」は、株式市場に第1種優先株式を上場している。
原則として議決権はないものの、優先株では普通配当額が1.25倍されており、通常の株主優待も付与される。また、配当額の下限が設定されている点も、投資家から注目されやすいポイントだ。
上記はあくまで例のひとつであり、優先株の取得条件や配当額は発行元によって異なる。特に配当額は投資家の利回りに影響するため、企業側は慎重に設定する必要があるだろう。
優先株はスムーズな資金調達につながるものの、日本ではあまり浸透していない方法なので、発行前にはさまざまな事例に目を通しておきたい。
優先株の安易な発行は厳禁!無理をせずに専門家に相談を
経営者にとって、優先株の発行は貴重な資金調達手段のひとつだ。ただし、本記事で解説したようにデメリットやリスクもあるため、多額の資金を調達できる可能性があるからと言って、安易に優先株を発行するべきではない。
優先株式の設計には専門知識が求められる要素が多いため、適切な判断が難しい場合には、無理をせずに専門家に相談することも検討しておこう。
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文・THE OWNER編集部
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