(本記事は、鳥飼重和氏の著書『慌てない・もめない・負けない経営』日本経営合理化協会出版局の中から一部を抜粋・編集しています)
突然の税務調査も先手を打てば慌てない
税務調査は、原則として事前に通知をしてからおこなわれます。しかし、時には通知なしに調査官が来ることもあります。その時、どのように対応すればよいでしょうか。
調査官が来たら、慌てて会社に招き入れてしまうことが多いと思いますが、準備をしていない状態だと不利になるだけなので、すぐに入れる必要はありません。
税法で「過去の申告・調査の結果や事業内容など色々な情報から見て、違法な行為などで税額などの把握を困難にするなどして、国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める」という一定の要件を備えていないと、事前の通知なしの税務調査はできないことになっているからです。
しかし調査官の中には、納税者の無知に乗じてわざと予告せずに税務調査をおこなう人もいます。ですから突然来た調査官には、「税法では、事前の通知なしに調査はできないはずですが?」と確認し、「税法を知っているぞ」とアピールすれば、そのまま引き上げることも多くあります。
しかし、確認をしても帰らない調査官もいます。その場合でも、顧問税理士との間で対応を事前に決めておけば、何の心配もいりません、先手必勝です。
たとえば、税務調査官をすぐに会社には入れず、まずは入口で待たせます。その間に顧問税理士に電話をして、調査官と直接話してもらいます。
通常はこれだけで、空振りで帰るしかなくなります。ほとんどの場合、「調査の要件」は備わっていないのです。その後、日程調整をして税務調査に入ることになりますが、これで対策を立てるだけの日にちを稼ぐことができます。
顧問税理士との連携が上手くいくのも、「税務調査官の行動パターン」を前もって知っているからです。そして「それに対する適切な協力の仕方」もわかっているからです。
ですから社長に知っておいてほしいのは、「国税通則法」です。この「国税通則法」は、税務調査について規定しているので、キモの部分だけでも知っていると税務調査への対策を立てることができます。
「一定の要件を備えていないと、事前通知なしに税務調査ができない」「税務調査は日程の変更ができる」も国税通則法に書かれています。
他には「税務調査は犯罪調査とは違うので、犯罪者扱いしてはいけない」とも書いてあります。つまり、社長を叱りつけたり、威圧したり、誘導したりしてはいけないのです。税理士がいる前でこういう態度を取ることは少ないかもしれませんが、社長だけの時は気をつけてください。
調査官から厳しい言葉を掛けられても反論せず怖がっていると、「この社長は税務調査のことを知らない。多少強引に調査をしても大丈夫だ」と思われてしまうからです。
調査官は少しでも多くの税金を取るために来ます。そのためチェックするのは、間違いが多く、税金を多く取れそうなところです。たとえば「売上の計上漏れ」「経費の二重計上」「売上・経費の期ズレ」「在庫の計上漏れ」などです。ただし、売上の計上漏れが「隠蔽」にされないように注意が必要です。
また税務調査官は、会社のすべての税金についての調査ができるわけではありません。事前通知の段階で「1.調査の日時」「2.調査をおこなう場所」「3.調査の目的」「4.調査の対象となる税目」「5.調査の対象となる期間」「6.調査の対象となる帳簿書類その他の物件」などを伝えなければなりませんし、それ以上のことを勝手にやってはならないとも書いてあります。そのことをわかっている税理士の助けを借りるのが望ましいです。
このように「国税通則法」を知ると、税務調査官は何ができて、何をやってはならないかを知ることができるので、税務調査官に好き勝手されることはなくなるのです。
税務調査官のタイプ別対応法
税務調査官も人ですから、色々なタイプの人がいます。鋭い感じの人もいれば、そうでない人もいます。融通の利く人もいれば、利かない人もいます。柔和な調査官もいれば、乱暴な調査官もいるでしょう。
強硬派の調査官には「追徴課税して、国庫を豊かにすることが国益になる」という信念の人がいます。道義心で追徴課税を迫る人もいます。「租税回避をして、払うべき税金を減額するのは道義に反するので、何としてでも追徴課税をとる」という強い思いから、協力関係を基本とする任意調査の枠をはみ出して、強制的な税務調査になりがちな人もいます。
たとえば、担当部長に強制的な言い方で、「鍵のかかっている机を開けて見せなさい」と言って無理やり開けさせたりします。多くの場合、見られたくない書類などは、鍵のかかる所に入れているので、調査官に決定的な証拠を見つけられてしまいます。
ここで担当部長に、「税務調査は必要に応じて協力するもので、強制ではない」という知識があったり、税務調査をよく理解している税理士・弁護士が対応していれば、本来は開ける義務はないのですから、余計なものを見つけられたり、恐れを感じるたりする必要はありません。
ところが、社員は社長以上に「調査は強制力があり従わなければならない」と思い込んでいるので、鍵を開け、中にある物を見せてしまいます。
一方、穏健派の調査官は、強く迫ってきたり、無理難題は言いません。このようなタイプの調査官には、有能な人が多く税務知識も豊富で勉強熱心な人もいます。もちろん中堅・中小企業のこともしっかり研究しています。ですから、法務面、手続き面など弱い点を突いてきて、確実に成果を上げていきます。
たとえば中小企業では、株主総会を開催していないことが多いです。よって租税回避があるような場合には、総会の開催がないことを理由に、株主総会の決議を必要とする租税回避行為の否認をしてくることがあります。中小企業の経営の実態や現場を知っている穏健派の調査官を軽く見てはいけません。「コワイ人じゃなくてよかった」と安心していると、徹底的に調べられて、多額の税金を払うことになるかもしれません。
調査官が強硬派であろうと、穏健派であろうと、税務調査を受ける前の段階で適切な対応をしておく必要があります。
税務調査に「おみやげ」は必要か
税務調査の時、帳簿上に調査官がすぐ見つけることができる適度な間違いをしておく、いわゆる「おみやげ」を用意しておく必要があるかと聞かれることがあります。税務調査に「おみやげ」が必要だという理由は、二つ考えられます。
一、調査が長くかかると嫌なので、修正申告という「おみやげ」を渡してさっさと調査を終えてもらうため。
二、税務実務はグレーゾーンが広いので、調査官との間で意見の対立などが予想される。多額の修正申告を迫られる危険がある場合や、偽装や隠ぺいをしていて、重加算税がかかる危険がある場合、そちらに目を向けさせないため。
先ほども述べたように、税務調査官は成果主義で評価されるので「修正申告を獲得したい」と思っています。しかも、調査件数のノルマもあるので、できれば、「短期間で、より多くの修正申告をとりたい」と思うのも無理はありません。これらのことから、「おみやげ」を喜ぶ調査官がいても不思議ではありません。
税理士の中には、この習性を逆に利用して、あえて税務調査を長引かせるように誘導し、修正申告をあきらめさせることを指導している人もいます。
しかし、多くの社長は、税務調査の期間は短いほうがいいと考えているので、税理士の指導の下で「期ズレ」などの修正申告ネタを、「おみやげ」として用意することがあります。このように、税務調査の実務においては、「おみやげ」は、知恵の一つだともいえます。
ただ、税務調査の本来の姿を理解して、先手を打って対応することができれば、税法が味方になってくれるので、「おみやげ」は必要ありません。
このように税務調査を恐れず、法律を味方にし、正々堂々の姿勢を貫けば、その企業は国税当局の「税務調査をしない企業リスト」に入ることができるのです。
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