(本記事は、高田 敦史の著書『会社を50代で辞めて勝つ! 「終わった人」にならないための45のルール』集英社の中から一部を抜粋・編集しています)

今の会社と退職後も契約できそうかを探る

〜双方がうれしい外注契約~

事業承継,遺留分,対策
(画像=(写真=OPOLJA/Shutterstock.com))

独立後に、今の会社と外注契約を結んで仕事することができるかを会社に在籍している間に探っておきたい。これは、今後のフリーランスの働き方のトレンドになるのではないかと私は考えている。

その理由は、高齢社員を65歳まで雇用し続けるよりは、「仕事内容も社内事情もよく分かっている元社員」として外注する方が会社側にもメリットがあるからだ。個人としてのメリットは言うまでもない。元の会社と契約ができれば独立直後から安定収入が得られるし、安心して新規顧客の開拓にも臨める。退職を考え始めたら、信頼できる社内関係者と相談してみるといいだろう。

広告業界では、社員が独立したのちも同じ仕事を外注先としてやっている例は珍しくない。私のロールモデルとして紹介した元広告代理店勤務のY氏もそのスタイルで働いていた。旧来的な企業が「会社を辞めた人に仕事を外注する」という例はまだないかもしれないが、内製化からアウトソーシングへの流れが進めば、このようなケースは今後増えていくだろう。雇用の流動化が進む中では、一から人を育てるより経験があるプロに外注する方が合理的だからだ。

取引先と契約できそうかを探る

〜最も身近な顧客候補〜

2020年4月,民法改正,賃貸借契約
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次に、取引先の会社と独立後に仕事ができないかを探ってみたい。特にあなたの会社が「発注元」である場合には十分に可能性があると思う。取引先の方々がまず知りたいのはいわゆる社内情報だろう。もちろん社外秘の情報は絶対に口外してはならないし、最悪の場合は会社から訴えられる場合もある。

では、どんな情報に価値があるのか?あなた自身がたいした意味を感じていない情報も、実は社外の人にとっては貴重なものであることが多いのだ。

例えば

・各部署の具体的な業務内容は?

取引先は窓口部署の業務は分かっていても、その他の関係部署の業務がよく分かっていないことが多い。仕事によっては、窓口部署以外へのアプローチが有効な場合もあり、知り合いを紹介するだけでも十分に価値がある。

・決定権者は誰か?

社内で意思決定のカギを握っているのは誰か。それが分かればその人との関係を深めるために会食などをアレンジしてほしいという話になることも多い。

・担当役員の趣味は?

つまらないことだが、役員同士でつながりを持ちたいときには、この手の情報も役に立つ。

これらは社内にいたら誰でも知っているような情報だが、外では意外な価値を持つことがある。また、取引先が前職の会社に提案する際の書類チェックなども重宝がられるケースがあるだろう。

ただし、この手の仕事には賞味期限があることも認識しておかないといけない。退社して数年も経つと、人事異動や組織変更などがあって、情報は古くなってしまうからだ。

退社して数年経っても、継続して元取引先から仕事を受注したいなら、(社内情報だけでなく)業界全般の情報を常にフォローし、「その分野のプロ」でいつづけることが必要だ。私の場合は、自動車業界の情報には常に気を配り、有識者と会食の機会を設けて話を聞くことをつづけている。ビジネススクールでは自動車業界関係の論文も書いた。最近の自動車業界は大きな変革期にあると言われており、意見を聞かれることも多いからだ。

結果として、私のトヨタ自動車社内の情報は徐々に古くなっているが、自動車業界関連の知識は現職時代より豊かになっている。そのおかげで自動車会社の担当者が集まる勉強会のアドバイザーのような仕事をいただくこともできた。

前職の会社のライバル会社との仕事も選択肢の一つにはなる。私も他の自動車会社でマーケティングの講義を行ったことがある。退職時に結ぶ秘密保持契約に反しない範囲であれば問題はないのだろうが、気をつけたいのは元の会社との関係だ。あらぬ噂を立てられて「出入り禁止」となってしまうのは避けたいので、仕事の内容について吟味した上で慎重な判断が求められるだろう。

お金の相談ができる人を探す

〜経営の仕組みを教えてもらう〜

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(画像=Pressmaster/Shutterstock.com)

独立に際して誰もが一番気になるのが「お金」のことだろう。売り上げをどのように上げていくかは次章で述べるが、まず押さえておきたいのは支出、特に社会保険や税金のことだ。

例えば、独立して個人事業主になると基本は国民健康保険に加入することになる。ただし、退職後も企業の健康保険組合に2年間の任意継続ができる。収入が一定額以上の場合はその方が有利だ。3年目以降は国民健康保険に移行しなければならないが支払金額が月額8万円程度になる場合もある。

税金についても、サラリーマンはあまり深く考えたことのない人が多い。考えたところで取られるものは取られるからだ。しかし、個人事業主になると基本的な税金の構造についてもよく知っておかなければならない。

個人事業主が支払う税金は所得税(税率は所得により変動)、住民税(収入の約10%)、事業税(収入の約3〜5%)となるが、それぞれに控除(基礎控除、事業主控除)が適用される。

税金を考えるときにサラリーマン時代と大きく違うのは「経費」が認められることだ。サラリーマンにも給与所得控除があるが、それ以外の控除はなかなか認められない。一方、個人事業主はビジネスを行う際に必要な費用(事務所経費、交通費、交際費等)は経費として認められ、所得から控除される。特に事務所経費についてはきちんと理解しておきたい。自宅を事務所に使う場合は、マンションの減価償却費、ローンの利子、光熱費等は経費として認められるし、車の購入費用、修理代、車検費用なども必要に応じて経費として計上することができる。

ここに記したのはあくまでも一例である。税金の話はややこしいので、まずは自分で勉強し、専門家のサポートを受けよう。私の場合は3つの方法でなんとか攻略した。

①とにかく本を読む
個人事業主向けの税金の本はたくさん出版されている。とにかくやさしそうなものから順番に3冊程度、購入して読んでみよう。

②個人事業主の知り合いに聞く
本を読んで一定の知識が身につけば、知り合いの個人事業主に、疑問に思っていることを聞いてみる。自分たちも苦労してきたから、きっと丁寧に教えてくれるはずだ。

③人脈をたどって税理士または公認会計士を探す
私の場合は前述のロールモデルであるW氏が公認会計士でもあったので助けてもらった。ただし、確定申告までお願いするとしたら、相応の報酬を支払って仕事としてお願いしよう。数字に強ければ自分でできないわけではないが、本業の時間を確保することの方が大事。税金のことは専門家へのアウトソーシングを活用するのが賢明だ。

退職時の資産を知っておく

〜意外と知らない退職金の金額と受け取り方〜

現物資産,貯金箱
(画像=Watchara Ritjan/Shutterstock.com)

「このまま会社に残ったら、あとどのくらいの収入があるのか?」

「今辞めれば退職金はいくらなのか?」

この質問に即座に答えられるサラリーマンは少ない。私の場合も、退職を決めるまで、自分の退職金がいくらになるのか認識していなかった。

企業によっても違うが、最近では退職金の一部を「確定拠出年金(いわゆる IDECO)」で運用している会社も多い。IDECOってなんだっけ?と思った方は、最低限の知識ぐらいはネットで調べておこう。

また、早期退職制度がある会社なら、退職金に加算される金額も調べておきたい。

大手企業では1000万円以上上積みされるケースも少なくない。社員として抱えていれば毎年の給与に加え、社会保険料も負担しなければならないので、高額の加算金を支払ってでも早く辞めてもらった方がありがたいからだ。早期退職を考え始めたら早期退職制度の条件(対象年齢、加算金額)をよく調べておいた方がいい。

私はあと6カ月長く勤めていれば、企業年金が5年早く、55歳から支給されたことを退職届を提出した後に知った。金額にして約500万円。退職を6カ月も遅らせる気はなかったが、これが1カ月だったら後悔しただろう。

独立後のライフプランを考える

〜働き方と収入のイメージを持つ〜

ライフプラン設計,お金
(画像=takasu/Shutterstock.com)

独立にあたっては、自分なりのライフプランを持たないといけない。会社を辞める時期だけでなく、何歳まで働くのか、そして(65歳までは仕事に集中するとしても)65歳以降をどうするかも考えてみよう。

〈いつ会社を辞めるかを決める〉

「会社を辞める日」をいつに設定するか、これが独立に向けた最初の関門だ。今から役職定年年齢(多くの会社では50代半ば)の間で自分なりに考えればいい。役職が外れると、任される仕事のレベルが落ちる。新たな刺激を伴う学びの機会も激減するだろう。「閑職」「窓際」になってしまった後では、世間的な商品価値も下がってしまう。

退職時期を決める上で最も大事なのは「現場感覚」があるうちに再スタートを切ることだ。顧問紹介会社の担当者の話として、顧問紹介を始めた当初は大企業の元役員クラスを中小企業に紹介するのが中心だったが、最近ニーズが高まっているのは専門知識のある部長・課長クラスの人材だという話を紹介したが、これは今後、多くの方々に独立のチャンスが出てくることを示唆している。

サラリーマンとして50歳を過ぎたら一度冷静に会社内での自身の将来を考えてみるべきだ。役員コースに乗れそうで、それを喜びと感じるならその道を邁進するのもいいが、なれる人数も限られているし、役員になれば幸せとは限らない。

私の場合は、退職の最終期限を55歳に置いていた。結局、退職したのは54歳7カ月。退社を申し出たのはその9カ月前、53歳10カ月の頃だった。ギリギリのタイミングだったと思う。

フリーランスの仕事を軌道に乗せるまでには一定の期間は必要だ。独立が還暦近くになるとかなり遅いと思う。実際、私はこんなことを言われたことがある。

「60歳過ぎた人から最新のマーケティングって言われてもピンときませんよ」

自分自身はいつまでも若々しい気持ちでいても、世間の視線は思った以上に「年齢」に厳しい面もある。55歳を超えたら徐々に独立のハードルは高くなるだろう。

〈いつまで働くかを決める〉

フリーランスに定年はない。働こうと思えば何歳まででも働けるし、反対に早々にリタイアすることも可能だ。今後のライフプランを考える上では「何歳まで働くか」を考えておくことも必要だ。

今は65歳まで会社で働くことができるようになった。この流れに乗って会社にしがみつくのも一つの手だが、その場合は会社を辞めた後に新たなチャレンジをするのは難しいだろう。70歳を超えた後も元気な限り仕事がしたい思う人は、早めに会社から離れるという選択肢を検討すべきだ。

私と同い年(1961年生まれ)以降の人の年金受給開始年齢は65歳だが、受給年齢を70歳まで繰り下げると、受給額は月額で42%増えると言われている。一般的なサラリーマン世帯で月額8万~10万円程度の増額だ。

計算すると81〜82歳まで生きた場合の総受給額は「70歳まで繰り下げ」した方が多くなる。現在の50代の方の平均寿命は男性83歳、女性88歳と予測されているので、平均以上生きるとしたら70歳まで繰り下げた方が得なようだ。その意味でも、これからは70歳までは働くのがいい選択のように思う。

〈5歳刻みの働き方を考える〉

「いつ会社を辞めるか」「いつまで働くか」を決めたら、5歳ごとに自分が何をやりたいかを書いてみる。特に65歳以前と65歳以降では働き方を変えてみるのもいいかもしれない。

一例としてはこんな感じだ。

①今〜60歳
第二の人生をスタート。まずは独立後の仕事を軌道に乗せる。
最初の数年間は前職時代のスキルや人間関係をフルに活かしてビジネスを軌道に乗せたい。フリーランスになってどのくらい稼げるのかを見極める時期でもある。過度に焦る必要はないが、必死でがんばらないといけない時期だ。

②60歳〜65歳
フリーランスとして収入を維持、安定させていく。会社に残っていたら再雇用で収入は半減する時期だが、フリーランスとしてはバリバリの現役として働ける。会社に残った連中からは「羨ましがられる存在」になる。

③65歳〜70歳
やりがい、生きがいへのシフトを考える時期。
週休3日にして、「やりがい」「生きがい」を中心とした仕事に絞り込んでいく。収入は65歳以前の半分程度でもいい。

④70歳〜75歳
人のために生きる。
年金を受給しつつ、仕事は頼まれたらやる。「人のためになる仕事」は続けたい。

〈収入の試算〉

以上のことをふまえて、お金のことを具体的な数字で考えてみよう。まずは左記の3通りの場合の生涯年収を概算で計算してみよう。

①会社を辞めないで60歳定年、65歳まで再雇用で働いた場合
―60歳定年までの収入(役職あり期間+役職定年後)
―退職金
―60歳以降の再雇用の時の収入(会社によるが、定年前年収の半分程度)

②定年前に辞めて、65歳までフリーランスで働いた場合
―退職金+早期退職割増金
―フリーランスになって以降の収入(65歳まで)

③定年前に辞めて、70歳までフリーランスで働いた場合
―退職金+早期退職割増金
―フリーランスになって以降の年収(65歳まで+65歳以降)

①はある程度正確に見積もれるので、フリーランスになった場合、それと比較してどの程度の収入を得れば会社に残った場合の収入を超えることができるかを②、③でシミュレーションできるはずだ。ただし、税金、社会保険料の違いや、フリーランスの場合は経費計上がどの程度できるかによって実収入はかなり異なるので、あくまでも目安程度と考える。

「夢を実現するにはまず書いてみることだ」と言われる。描いたライフプランが実現できるかどうかは分からないが、何のイメージも持たずに会社を辞めることはできない。あなたが独立を考えているならば、自分なりのライフプランを一度書いてみることをお勧めする。自分なりに納得できたら、いよいよ独立に向けた準備に入る時だ。

会社を50代で辞めて勝つ! 「終わった人」にならないための45のルール
高田 敦史(たかだ・あつし)
A.T.Marketing Solution代表。Visolab株式会社Chief Marketing Officer。一般社団法人ブランド・マネージャー認定協会アドバイザー。広島修道大学非常勤講師。1961年生まれ。一橋大学商学部卒業。1985年にトヨタ自動車に入社後、宣伝部、商品企画部、海外駐在(タイ、シンガポール)等を経て、2008年に宣伝部の分社化プロジェクト「Toyota Marketing Japan」を担当し、Marketing Directorに就任。2012年からトヨタ自動車に戻り、Lexus Brand Management部長として、レクサスのグローバルブランディング活動を担当。レクサス初のグローバル統一広告の実施、カフェレストラン「Intersect BY LEXUS」の東京、ニューヨーク、ドバイでの出店等、各種施策を主導。2016年にトヨタ自動車を退社。個人事業主となる(屋号:A.T.Marketing Solution)。独立後はブランディング領域を中心としたコンサルティング業務、ベンチャー企業のアドバイザー、講演活動等を行うとともに、2018年には経済産業省が行う「産地ブランディング活動(Local Creator’s Market)」のプロデューサーを務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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