新型コロナウイルス(新型肺炎)の世界的な感染拡大は金融市場を揺さぶり、Jリート(不動産投資信託)市場にも多大な影響を及ぼしている。市場全体の値動きを表わす東証REIT指数(配当除き)は2000ポイント台から一時1145ポイントまで急落し、直近高値から安値までの下落率は▲49%に達した(3/19時点)。その後は反発に転じたものの、3月の下落率(▲21%)は月間として過去2番目の大きさとなった[図表1]。
今年に入り、Jリート市場は新型肺炎に対する懸念が強まるなかでも昨年末比プラス圏で推移し、コロナ禍とは遠く離れた立ち位置にあった。これは、Jリート市場が業績の安定性などが評価されてリスク回避を意図した資金の受け皿となっていたためである。しかし、金融市場がひとたび強烈なショック安に見舞われてしまうと、上場金融商品であるJリート市場もその影響を免れない。2月第4週以降、グローバル市場の動乱はJリート市場にも波及し、東証REIT指数は2013年1月以来の水準まで下落した。
過去のショック安の局面を振り返ると、重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行に見舞われた2002~03年を除いて、研究員の眼Jリート市場も大きく下落し、株式市場と並ぶ下落率を記録している[図表2]。
今回のJリート市場の下落率は、東日本大震災時(▲30%)を上回る水準であり、リーマンショック時(▲65%)に次いで大きい調整局面を迎えている。
Jリート投資の本質は賃貸不動産を通じて日本経済の生み出す果実を享受することである。受け取る手段が異なるだけで、収益の源泉は株式と同じく日本経済であり、経済成長なくしてリターンは望めない。金融市場の動揺が落ち着くまでの間、Jリート市場も不安定な値動きが続くことが予想される。
また、ボトム時点のバリュエーションはP/NAV倍率*で0.63倍、10年国債利回りに対するイールドスプレッドで6.6%と、リーマンショック時(0.53倍、8.2%)以来の割安な水準となった[図表3]。
こうしてみると、あらためてリーマンショックの衝撃の大きさを認識するとともに、今後は世界経済がリーマンショック級のダメージを回避できるかが焦点となる。リーマンショック時は、金融ショックを発端として経済ショックを引き起こした。これに対して、今回はヒトやモノの分断に伴う経済ショックを発端としている。金融市場の流動性を確保し資金の目詰まりを防ぐことで、何としても金融ショックへの連鎖を防止することが求められる。
米国では無制限の量的緩和と2兆ドル規模の経済対策が決まったが、この危機を克服すべく、各国の足並みを揃えた国際協調とさらなる連帯が求められる。
いずれにせよ、コロナ禍の終息には予防ワクチンと治療薬の開発が待たれるが、分断された社会の絆を修復するには多くの時間を要することであろう。それまでの間、経済ショックを緩和する財政出動や金融ショックを防ぐ金融政策はもとより、医療・教育・福祉など国民生活を支えるセーフティネットへの目配りが欠かせない。
感染拡大の状況は日増しに悪化しているが、Jリート市場も社会の公器としての役割を全うすることを期待したい。
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*P/NAV倍率とは、市場時価総額がリートの解散価値(NAV:Net Asset Value)の何倍で評価されているかを表わす指標
岩佐浩人(いわさ ひろと)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 不動産調査室長
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