コロナウイルスは、経済にも大きな打撃を与えている。株価も一時的に30%近く下落するなど、大きく値が動いた。現時点では、多くの企業の株価が回復傾向にあるものの、戻りの速さ、遅さで差がついた企業もある。特に顕著なのが、商社株だ。戻りが比較的早かったのは三菱商事だが、丸紅は戻りが弱い。両者の差を分けたものはいったいなんだったのだろうか。両者のビジネスの違いとともに解説する。
大きく明暗を分けた商社株
コロナショックでは、全産業が大きな痛手を受けている。実際、日経平均株価は、1月末時点では2万4,000円の大台に近づきつつあったが、その中でも、特に明暗が分かれたのが、3月後半には1万6,000円代にまで下がるなど、30%以上の下げを見せた。その中でも、航空会社などが苦戦した一方で、ドラッグストアなどの株価は堅調に推移するなど、業種によっても明暗が分かれている。
その中で、同一業種ながら、企業によって明暗を分けているのが、総合商社株だ。その決算同様に、株価も明暗が分かれている。
比較的早く値を戻したのが、<8058>三菱商事と、<8001>伊藤忠商事だ。三菱商事は、最終的に2019年度の当期純利益は、前年比9%減の5,354億円と、5,000億円はキープし、商社一番手の座をキープした。株価は年始の2,876円から、一時期2,100円を割るも、現在は2,367.5円(5/13現在)と、10%以上値を戻している。
また、伊藤忠商事は、前年比微増の5,013億円と、こちらも5,000億円の大台を突破した。株価も年始の2,510.5円から、一時は2,000円を割り込むも、2,268.5円(5/13現在)と、いずれもコロナの影響を受けながらも、回復の兆しを見せている。
一方で苦境にあえぐのが、<8002>丸紅だ。5大商社と呼ばれる大手商社の中で、唯一の赤字決算、それも過去最大の赤字決算となるマイナス1,975億円の損失となっており、また株価も、年始には800円をこえていた株価が、現在474円(5/13現在)と低迷しており、回復の兆しも見えていない状況だ。時価総額では豊田通商にも抜かれるなど、最大級の危機に陥っていると言えるだろう。
三菱商事と丸紅、明暗を分けたのは、一過性損益?
では、三菱商事と丸紅、同じ商社でも、ここまで差が開いた理由というのは何だろうか。原因を調べてみよう。
一般的に、商社の損益というのは、「恒常的損益」と「一過性損益」に分かれる。恒常性損益とは、通常のビジネスの中での損益で、一過性損益というのは、投資案件等によりもたらされる一過性の損益のことだ。両者の決算の数字を、恒常性損益と一過性損益に分けて見てみよう。
三菱商事 | 丸紅 | ||
---|---|---|---|
2018 | 恒常性損益 | 6,779 | 2,560 |
一過性損益 | -872 | -250 | |
合計 | 5,907 | 2,308 | |
2019 | 恒常性損益 | 4,792 | 2,250 |
一過性損益 | 562 | -4,220 | |
合計 | 5,354 | -1,975 | |
昨年比 | 恒常性損益 | -29% | -12% |
一過性損益 | -164% | ||
合計 | -9% | -186% |
表を見ると、恒常性損益だけならば、三菱商事は29%減、丸紅は12%減と、むしろ丸紅は健闘している。一方で、一過性損益を見れば、三菱商事は前年マイナスから今年はプラスに、丸紅は約4000億円も赤字を増やしているのだ。
では、なぜ丸紅は、ここまで一過性損失を増やしたのだろうか。中身を見ると、石油・ガス関係が1,313億円と最も大きく、ついで米国穀物事業が982億円、チリの銅に関する損失が603億円と続いている。
このうち、石油・ガスに関しては、年始から続く原油安の影響を受けているといえるだろう。直接海外の石油プロジェクトに投資しているため、原油価格が低くなることの影響を直接的に受ける。三菱商事も石油・価額で388億円の一過性損失、天然ガスで104億円の損失を出しており、商社全体が大きな影響を受けている。
一方で、米国穀物事業については、明暗が分かれるところだろう。三菱商事は、食品産業グループ全体では、203億円の一過性利益を出し、損益も前年比プラス433億円と、大幅に損益を改善させている。1000億円近い丸紅とは大きな差がついた。2013年に、和製穀物メジャーを目指して買収したガビロンだが、数度減損を行うなど、投資自体が成功だったとは言い難い。銅についても、三菱商事が一過性利益を出したのとは反対に、丸紅は巨額の一過性損失を出している。このあたりの、投資判断の差が、三菱商事と丸紅の差を分けたと言えるだろう。
また、三菱商事が増配を発表したのに対し、丸紅は2020年度の配当は実質的な減配になるとしている。このあたりの資本政策も、株価の明暗を分けた一つの要因ではないだろうか。
今後の商社の見通しはどうなる?
では今後、商社の見通しはどうなのだろうか。少なくとも、2020年度は、厳しい見通しとなるかもしれない。
三菱商事は、見通しについては公表していない。一方、丸紅については、しばらく経済が戻らないシナリオを前提として、恒常性損益が2,250億円から1,200億円程度に下げる見込みを出している。石油価格も不安定な状況が続いている昨今、商社にとっては「我慢」の年になるだろう。
商社の未来は「一過性損益」で占える?
コロナショックで株価を下落させながらも、回復傾向にある三菱商事と、いまだ回復の兆しが見えない丸紅を比べてみた。両者の差は、投資結果などの「一過性損益」の差が招いた結果であるともいえるだろう。今後、景気が回復してきた時に、株価を上げることができるかどうか、それは、商社の「一過性損益」の進捗を見れば、ある程度は予想できるかもしれない。(提供:THE OWNER)
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)