要旨
- 5月27日、欧州委員会は、復興のための7500億ユーロの「次世代のEU(以下、基金)」と1.1兆ユーロ規模の21~27年のEU予算の中期予算枠組み(MFF)を提案した。
- EUは、すでに財政余地の制約がある国を支援するための総額5400億ユーロの政策パッケージを含めて、3兆3900億ユーロの危機対応の経済対策を準備している。
- 今回の提案は、2021年以降の感染拡大収束期と収束後の経済の再起動、復興の段階に照準を合わせる。7500億ユーロの基金は、南欧が支持し、独仏が共同提案した「補助金」5000億ユーロと北欧など倹約4カ国が求める「融資」の2500億ユーロを組み合わせた。
- 基金の4分の3は3100億ユーロの補助金と2500億ユーロの融資からなる改革と投資を支援するファシリティーが占める、補助金の4割をイタリアとスペインに配分する。GDP比の受取額は南欧と共に中東欧に厚く、ドイツと倹約4カ国の信用力が支える。
- 基金は、単なる景気刺激ではなく、構造転換の促進を狙いとする。背景には、過去の成長戦略の成果が十分にあがらず、このままでは、米中の二大国の対立の狭間にEUが埋没しかねないという危機意識の高まりがある。
- 立ち上げに必要な首脳会議の全会一致までには規模や補助金と融資の割合以外にも様々なハードルがある。妥協点を探る攻防で制約が強まり、効果が削がれるおそれもある。
- 今回の基金とユーロ圏の財政統合は区別する必要があるが、象徴的な意味は大きい。