経営者に「大成功する脳の使い方」を指南する能力開発の第一人者、サンリ代表取締役会長・西田文郎 氏。経営者だけを対象とした「経営脳力全開塾」では、爆発的に業績を伸ばす門下生が続出し、全国から問い合わせが殺到。2008年の北京五輪では、日本女子ソフトボールチームのメンタル指導を担当、チームは驚異的な組織力を発揮し、見事金メダルを獲得、あらゆる分野で圧倒的な実績を上げ、トップアスリートや経営者たちから強い支持を得ている。

次は、大きく成功する人間の「強欲」の源とは何か、これをトヨタグループの開祖豊田佐吉翁を例にご説明しよう。

慶応3年に静岡県敷知郡吉津村(今の湖西市)に貧しい大工の父豊田伊吉の長男として生まれた佐吉翁は、18歳で「最新機械の輸出産業を育成し、祖国を富強にしたい」という使命感を持ち、その後の生涯をかけて、外国製の模倣ではなく自らの技術で、世界一の動力織り機を開発した天才発明王である。

後世、その功績で世界的賞賛を得るものの、彼の発明人生は周囲の無理解無協力ゆえに、紆余曲折、山あり、谷ありだった。しかし、大成功者は恵まれない境遇に置かれれば置かれるほど、それを克服しようとするパワーが湧いてくる。

目標を設定したら、何が何でも実現しようとする凄まじいまでのモチベーション、それが天才のエネルギーなのである。

彼が発明人生の第一歩であるハタゴ(手動式織り機)の改良に取り組み始めた明治18年頃は、発動機もなく、誰も織り機を動力で動かすなどとは考えも及ばない時代である。そんな中、熱心に発明に取り組む佐吉翁に周囲の偏見、嘲笑はすさまじく、家族は発明に大反対していた。

彼が最初に結婚した女性は、発明に執着して収入の目処も立たない佐吉翁に愛想を尽かして、長男・喜一郎氏を産み落としてすぐに、家を出て行ってしまっている。また、常に悩まされ続けた資金難から逃れたくて、研究資金を大資本に頼った結果、佐吉翁は合弁で設立した会社を追われたばかりか、自らの開発特許を奪われたこともある。

普通の人間なら、こんな逆境にいくつも直面すれば、なかなか報われない現状に絶望して、絶対にあきらめてしまう。しかし、翁はみごと、世界的繊維機械メーカーであったイギリスのプラット社へ技術提供するほどの自動織り機を作り上げ、数多く海外へ輸出するほどの大成功を成し遂げている。

このように、「負けたくない」という意地、「あきらめるものか」という悔しさ、「見返してやるぞ」という傷ついたプライド。それらが支配欲や征服欲、権力欲、あるいは「認められたい」という自我欲求と結びくと、それはそれはもの凄い闘争的なエネルギーとなるのである。

意外に思われるかもしれないが、人間社会で生きる私たちは皆、支配欲や征服欲を秘めているのだ。ただその人間生来の欲をモチベーションとして、「成功のエネルギー」に上手に変えられる人と、できない人がいるだけである。

権力欲や支配欲、征服欲のエネルギーを上手に利用できる人は、恋人にふられた「悲しみ」を「悔しさ」に変えられる。ライバルに負けた「劣等感」も「悔しさに」変えられる。失敗した時の「落ち込み・無力感」や、高級車を乗りまわす人間に対する「羨ましさ」も、すべてのマイナス感情を「悔しさ」に変換し、それをエネルギーにできるのだ。

そういう意味で、佐吉翁の発明における真の功績は、外国製品一辺倒であった時代に、模倣や外国の技術者の力を借りずに世界一の性能を誇る自動織り機を開発し、今日世界に冠たるトヨタの礎を築いたことにあるのだが、この前人未到の大成功を成し遂げた原動力こそが、この「くやしさ」の感情エネルギーなのである。

ところで、ひたすら発明に精進しながらも、資金難と基礎知識の不足のために遅々として進まない佐吉翁は明治23年、東京で開かれた勧業博覧会を見学した際、展示されている機械がすべて外国製品ばかりなのに、悲憤慷慨したという。

当時、佐吉翁の目には、白人中心の国際社会の中で、黄色人種は智能が劣っていると馬鹿にされ、かつ貧しい祖国の姿が見えていた。

「日本が国際社会の中で面目を保ち、かつ独立を維持できるようになるためには、なんとか富強にならなければならない」、そんな強烈な負けず嫌いのエネルギーが、「お国のため」という使命感と結びつき、誰もが不可能だと思うような発明を成し得たのである。

負けず嫌いが強欲に火をつける ― 豊田喜一郎氏の場合

トヨタ自動車
(画像=eyewave/stock.adobe.com)

そして、この大成功者だけがもつ「負けず嫌いのエネルギー」は、佐吉翁の長男でトヨタ自動車創始者である喜一郎氏にも受け継がれている。

昭和4年、佐吉翁はイギリスのプラット社との特許権契約を締結にこぎつけるが、そのライセンス料100万円(現在の価値で約40億円)を自動車の開発資金にするようにと喜一郎氏に渡した。

かねてから、自動車が日本の産業界に大きく貢献する可能性を感じていた佐吉翁は、若き喜一郎氏にその使命を託し、「わしは織機でお国のためにつくした。お前は自動車をつくれ。自動車をつくって国のためにつくせ」と励ましたそうだ。

しかし、オリジナル技術での自動車開発は難航を極め、日中夜問わず研究を続ける喜一郎氏の情熱を持ってしても、3年の間に一台の生産もできずにいたほどである。トヨタの内部からは自動車からの撤退を叫ぶ声が日に日に大きくなり、また外からは外国の技術者を連れてきた方がよいというアドバイスも寄せられた。

しかし、喜一郎氏の思いは揺るがなかった。それは「モノづくり産業で日本を豊かにしたい」という強い使命感と、「誰もやりえたことのない事業をものにしてみせる」というワクワクするような野望と、「ただ自動車をつくるのではない。日本人の頭と腕で、欧米に負けない自動車工業をつくらねばならない」という負けず嫌いのエネルギーで、ついには純国産大衆乗用車の第一号を発明し、自動車黎明期の立役者となっている。

このように、負けず嫌いは成功者の必須条件である。負けず嫌いでない成功者に、私は今まで出会ったことがない。ここで非常に重要なことは、大きく稼ぐほどまでに持続できる「負けず嫌いのエネルギー」は、一般の人が何かに取り組むときの単なる「好きのエネルギー」とは、強さがまるで違うということだ。

もちろん、「好きだ」という思いは大切だ。私も新人研修の席などではさんざん「仕事を好きになれ」と口にしてきた。なぜなら仕事を好きな人間と嫌いな人間とでは、当たり前のことながら、取り組む姿勢に違いが出てくるからだ。

というのも、好きでなければ、ちょっとした障害があるとスグに嫌になり、プラス思考で問題に取り組めなくなる。だから、いい結果が出にくいのだ。

したがって、アスリートでいえば、学生スポーツのレベルなら、「好きだ」「得意だ」という思いが引き出すエネルギーがあれば、かなりのところまで行けるだろう。だが、それ以上になると「好き」「得意」だけでは大した成功は成し遂げられない。なぜなら、好きな人間、得意な人間が集まった中で抜きん出るには、どうしても「好き」「得意」以外のエネルギーが必要になってくるからだ。

というのも、「好き」は、現状肯定的感情であり、どこか自己満足の感情を含んでいる。「好きだからもっと極めたい」、これではいつまでも、現状を打破できないのだ。だから、誰もが出来るわけがないと思っていることに情熱を持って邁進し続けるには、単なる「好き」のエネルギーではなく、現状を否定し、そこに達しない現状に「悔しさ」を感じる〝負けず嫌い〟のエネルギーがなければならないのだ。

これが「ぼちぼち」の成功レベルで終わる人と、「大きく」成功する人間の違いなのである。

書籍詳細

強運の法則

強運の法則
西田 文郎(にしだ・ふみお)
株式会社サンリ代表取締役会長。西田塾塾長。西田会会長。1949年生まれ。
日本におけるイメージトレーニング研究・指導のパイオニア。1970年代から科学的なメンタルトレーニングの研究を始め、大脳生理学と心理学を利用して脳の機能にアプローチする画期的なノウハウ『スーパーブレイントレーニングシステム(S・B・T)』を構築。日本の経営者、ビジネスマンの能力開発指導に多数携わり、驚異的なトップビジネスマンを数多く育成している。
この『S・B・T』は、誰が行っても意欲的になってしまうとともに、指導を受けている組織や個人に大変革が起こって、生産性が飛躍的に向上するため、自身も『能力開発の魔術師』と言われている。
経営者の勉強会として開催している『西田塾』には全国各地の経営者が門下生として参加、毎回キャンセル待ちが出るほど入塾希望者が殺到している。2008年春には、「ブレイントレーニング」をより深く学び実践し、世の中の多くの方々を幸福に導くために、通信教育を基本とした『西田会』をスタートさせた。
また、ビジネス界だけでなく、スポーツの分野でも科学的なメンタルトレーニング指導を行い、多くのトップアスリートを成功に導いている。2008年の北京五輪で金メダルを獲得した女子ソフトボールチームの指導も行った。その実績は、まさに日本のメンタルトレーニング指導の国内第一人者に相応しいものである。

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