経営者に「大成功する脳の使い方」を指南する能力開発の第一人者、サンリ代表取締役会長・西田文郎 氏。経営者だけを対象とした「経営脳力全開塾」では、爆発的に業績を伸ばす門下生が続出し、全国から問い合わせが殺到。2008年の北京五輪では、日本女子ソフトボールチームのメンタル指導を担当、チームは驚異的な組織力を発揮し、見事金メダルを獲得、あらゆる分野で圧倒的な実績を上げ、トップアスリートや経営者たちから強い支持を得ている。
本記事は、一代で大事業を築いた名経営者に共通する【強運をつかむ8つの資質】を体系化し、これまで一部の限られた経営者だけに伝授してきた〈西田式経営脳力全開プログラム〉を初めて一般公開した著書『強運の法則』(税込16,500円、日本経営合理化協会出版局)の第2章、P88-98から一部を抜粋・編集して掲載しています。
脳は目標自動達成装置だ
通常、物事がうまくいくと、脳には肯定的なプラス感情が生まれる。
前章のマズローの「人間の5段階欲求説」にも出てきたように、人間の「自我欲求」である「承認」、あるいは仕事そのものが「好き」とか、その他にも「責任」や「使命感」、「愛」「自己実現」の欲求などが満たされるような体験、例えば大きなビジネスに成功したとか、それによって誰かに褒ほめられたり感謝されたりすると、扁桃核は「快」になり、脳にはドーパミンやβエンドルフィンが豊富に分泌される。
しかし、本当に体験しなくても、右脳でその体験を思い出すだけで、脳はそれを達成したときと同じヴィゴラス状態になることができるのである。
というのは、脳にはあまりに鮮明なイメージを、現実の経験でなくても実体験と同じように錯覚してしまう特性があるのだ。
身近な例でいえば、梅干をイメージしてみるといい。梅干を食べたことのある人ならば、思い浮かべただけで、梅干を食べた時と同じように口の中が酸っぱくなり、唾液が溢れてはこないだろうか。
これは「条件反射」といって、梅干を見ると味などの記憶データが蘇り、実際に食べてもいない梅干のすっぱさに対して「唾液を分泌せよ」という指令が脳から勝手に出るために起こる。このように、人間の脳は現実とイメージを区別できず、しばしば混同する。この特性を上手に利用して、まだ達成していない目標を、すでに「もうできちゃった」ところまでイメージできれば、IRA(本能反射領域)は達成の喜びを感じ、簡単にヴィゴラス状態になってしまうのである。
そして、右脳が「もうできちゃった」状態をイメージしている時、左脳が担当する思考の方も、必ず「できる」と確信している。
というのも、「もうできちゃった」状態が脳にありありと描かれているということは、そのイメージを実現させるためには「何が必要であるか」「自分が今、何をしなければいけないか」が、自然とわかってくるからだ。
つまり、これは将来から今を振り返っているのと同じことであり、ということは、「現在の自分に何が欠けているか」「何が必要であるか」が歴然と見えてくるということである。
これは、不思議なことでも何でもない。皆さんも過去の自分を振り返ると、昔の自分に欠けていたものが何であるか、あのとき何が必要だったかがよくわかるはずだ。
ほとんどの人は、それを「だから自分はダメなんだ」というマイナス思考で振り返るのだが、将来の自分から現在を見たときは、「ああしよう」「こうしたい」という、いわば反省を先取りしたプラス思考で行うことができる。
また、成功の地点から見れば、いま目の前にある失敗や苦しさ、努力も単なるプロセスに過ぎなくなる。
よって、間違いなく成功するために必要なステップとわかっていれば、不安や焦り、迷い、ためらいのような否定的な感情が起こらず、むしろ喜んで前進できるのだ。
したがって、このイメージ力の前では「こんなことをして何になるんだ」とか、「失敗したら努力が無駄になる」というマイナス思考も自然と消えていく。むしろ、「ガンガンやってやろう」という積極的なチャレンジ精神がむくむくと湧き出てくるのである。
こうなると、「思考」も「イメージ」も「感情」も、全てがプラスになった成功者のメンタルヴィゴラス脳が完成するというわけだ。
従来の成功法ではなぜ成功できないか
要するに、思考もイメージも感情までもがプラスになったメンタルヴィゴラス脳ができる流れとは、目標を立てたら、その達成イメージを繰り返し繰り返し鮮明にイメージする。すると、扁桃核が「快」になり、喜びの感情が発生する。そしてそれが脳幹に伝わり、脳内を活性化するホルモンが分泌されるというわけだ。
しかし、こんな簡単なことが多くの人にはできない。私は仕事柄、多くの企業にお邪魔する機会があるが、この最高の脳の状態で仕事をしている人間は、どんなに甘く見積もっても、集団の構成比でせいぜい5%がいいところだ。
それどころか、何十人、何百人という従業員のトップに立って組織を引っ張っていく経営者でも、脳をうまく使って仕事をしている人は驚くほど少ない。
大きな夢を描いて、最初は「よ~し、やってやるぞ!」と意欲に燃えている社長さんでも、何年かたつ間に「もう無理だな」とか「やっぱり俺はこの程度だ」というマイナス思考に変化している。
言うまでもなく、ビジネスには好不調の波が必ずある。全てがトントン拍子にいく好調な時期には、何もしなくても成功するようになっている。右肩上がりのバブル期や、高度経済成長期の日本がそうであった。
しかし問題は、不調の波が襲ってきたときである。人間の真価は不遇のとき、思い通りにいかないとき、あるいはスランプのときに問われるものだ。プラス思考、プラスイメージが大切なことは誰でも知っている。だから「不況で苦しいけれど、これをチャンスと考えて増収増益を目指そう」と考え、一所懸命に達成イメージを思い描く。
しかし、それでエネルギーが出てくるのは非常に稀まれである。翌日にはもうプラスイメージが薄れている。計画通りに売上が伸びなかったり、お得意さんが倒産したりすると、たちまちマイナス思考に支配され、「やっぱりダメだ」「ウチも倒産するかもしれない」などという気持ちが出てくるようになる。
これは、どんなに「プラス思考でがんばろう」と思っても、本当にできると思えないことに対して、右脳は失敗のイメージを思い描いてしまうからだ。
すると、その情報はただちにIRA(本能反射領域)に送りこまれ、大脳辺縁系には不安や恐れなどの感情が発生する。今度はそれがフィードバックされて、そのマイナス感情をエネルギーとして、大脳新皮質が「いかに危険を回避できるか」と動き始めてしまうのである。
あるいは、成功状態をイメージしながらも、なかなかやる気が湧いてこない人もいる。「自分はいつも成功イメージを持っているけれども、どうして実現しないのか」という人が必ずいるが、そういう人たちにいつも申し上げているのは、「イメージ」と「空想」は違うということだ。
これまでも、イメージの大切さは、いろいろな成功哲学や能力開発で説かれてきている。しかし、それで成功できた人は非常に少ない。
なぜかというと、そこで説かれている理論のほとんどが、いかにプラスの空想をするかという域を出ていないからである。つまり、プラス思考やプラスイメージが大事であることはわかっていても、それを真のパワーに変える、プラス感情をつくるノウハウが欠けていたのだ。
だから、成功を空想するだけで終わっていたのである。つまり、本当のプラス思考にならない限り、脳をうまく騙だますことができないのでヴィゴラス脳はつくれないし、あるいは一時的に上手くいったとしても、最強のヴィゴラス状態を長くは持続できないのである。
凡人は優秀すぎて成功できない
それでは、プラスイメージを阻害し、マイナス思考を発生させてしまう原因とは一体何か。
これは、悔しさや羞恥、屈辱や挫折感などの苦い感情を伴った、過去の失敗経験に他ならない。
子供を例に考えてみれば、それがよくわかるだろう。子供は非常識でウキウキワクワクした脳を持っている。彼らはまだろくにバットも振れないくせに、「イチローのようなプロ野球選手になる」と本気で信じている。そして、それを当たり前と思い、なれるものと信じている。
しかし、それを笑ったり、本気で取り合わない大人が、天才の脳を凡人の脳に改造してしまうのだ。そう、子供の頃は誰もが天才であった。そして、その理由は失敗経験がないからだ。生きてきた時間が極端に短く、親に保護されているから、失敗の記憶データが蓄積していない。
だから、彼らにとっては、「なりたいもの」が「なれるもの」であり、「したいこと」がそのまま「できること」である。怖いもの知らずとも言えるし、天才的なプラス思考と言うこともできる。
ところが、小学校に入る頃から「ダメだった」「できなかった」というデータが少しずつ増えてくる。すると、過去の失敗や挫折の記憶データを基に左脳が合理的な判断を下すようになり、前章で紹介したような大成功者が思い描いた大きな夢などは、全くもって非常識な誇大妄想でしかなくなる。
なぜなら、今日までの人生を振り返れば、人間は「できた」データの何十倍も何百倍も「、ダメだった」「できなかった」データを持っているのが普通だからである。その結果「なりたいもの」は「なれないもの」になり、「したいこと」は「できないこと」
であるという〝常識的〟な脳が無事完成されていく。よって、95%の凡人は、こうして「できない」という錯覚の中で、その後の人生を生きることになるのだ。
こうなると、人はなかなか自発的に、自分で作り上げた「可能性の枠組み」を突き破るような、人生の夢や目標を持とうとしなくなる。だから、年商10億円の社長なら年商50億、100億の会社の未来は思い描けても、1000億、1兆円の会社の未来はどうしてもイメージできなくなるのだ。あるいは、最初は高い目標をイメージできても、いくつかの失敗を重ねると、いつしか「自分にはできない」「また失敗するかもしれない」と、あきらめてしまうようになるのである。
人の思考を強力に支配する
ところで、プラス思考になろうとしても、ふっと過去の記憶が蘇りマイナス思考が出てくる理由であるが、これは脳細胞の「結晶型」という働きのせいである。そもそも、大脳を構成する140億から160億個の膨大な脳細胞は、大きく分けて2つの働き方をしている。ひとつは「流動型」、そしてもうひとつが、この「結晶型」である。「流動型」というのは、物事をゆっくりじっくり考える時に活動する脳細胞の働き方である。
例えば数学の問題を解くような、論理的な思考には「流動型」が使われている。また、相手の出方をじっくり先読みする将棋などをする時にも、脳は流動型になっている。
一方、論理的というより直感的に物事を判断しているときには、「結晶型」が使われている。目の前にある物を見て、それが「ペットボトルだ」とか「本だ」とか「木だ」とか理解できるのは、過去に飲んだり、読んだり、触ったりした記憶データを基に、例えば本であれば、本の形や大きさ、カバーの色などを材料にして、目の前にある本がどんな本であるかを、「結晶型」が瞬時に判断しているせいなのである。
たとえば、遅く帰ったときなど、妻の顔を見ると私はドキッとする。「しまった!今日は遅くなると電話しておけばよかった」と、いつも後悔するのだが、それは妻の顔をひと目見ただけで、彼女の不機嫌さがわかるからだ。
それが、なぜひと目でわかるかというと、私の脳には、妻が怒ったときの表情、たとえば、目や口元、頬の様子がインプットされているからである。
したがって、妻の顔を視覚で捉えたその瞬間に、私の脳は無意識のうちに、「結晶型」が過去の記憶データを集めて、「機嫌が悪いぞ。気をつけろ」と判断しているのだ。
このように、先ほどの梅干を見ると唾液が出るという「条件反射」と同様、私たちの脳は物事を意識的に考えるだけでなく、無意識の領域で、過去の記憶データを脳が勝手に検索、照合し、判断を下したりもしている。 そして、結晶型の判断に使われる過去の記憶データが脳のどこに貯蓄されているかというと、それはIRA(本能反射領域)である。
IRA(本能反射領域)に、努力やチャンレジが「楽しい」「嬉しい」「得意」など、良い感情を伴った成功体験として保存されている人間は、新しいチャレンジに対し、結晶型が「楽しい」「嬉しい」「得意」といった判断を下すし、失敗したデータばかりが貯蓄されれば「、嫌だ」「辛い」「また失敗するかもしれない」と判断が下される。
たとえば、勉強して良い成績を取った子供の脳には、勉強は「楽しい」「好き」「得意」という感情を伴ったデータとしてIRAに保存され、反対に0点ばかり取っていた子供の脳には勉強イコール「嫌だ」「つまらない」「難しい」という感情記憶データとして蓄積されている。
すると、勉強が出来る子は「勉強」と聞いただけで、「楽しい」「得意」というプラスの感情、次のテストで満点を取るプラスのイメージが自然と出てきて、そのウキウキワクワクが脳幹に伝わり、脳を活性化させるホルモンが分泌されて能力が発揮される。
一方、本来の能力を発揮できない子供も、同様の流れで結晶型の判断がマイナス感情を発生させ、これが勉強嫌いの子をつくるというわけだ。
そして非常に重要なのは、この「結晶型」が、意識上の「流動型」よりも、はるかに強力に我々の思考を支配しているということなのである。
書籍詳細
強運の法則
日本におけるイメージトレーニング研究・指導のパイオニア。1970年代から科学的なメンタルトレーニングの研究を始め、大脳生理学と心理学を利用して脳の機能にアプローチする画期的なノウハウ『スーパーブレイントレーニングシステム(S・B・T)』を構築。日本の経営者、ビジネスマンの能力開発指導に多数携わり、驚異的なトップビジネスマンを数多く育成している。
この『S・B・T』は、誰が行っても意欲的になってしまうとともに、指導を受けている組織や個人に大変革が起こって、生産性が飛躍的に向上するため、自身も『能力開発の魔術師』と言われている。
経営者の勉強会として開催している『西田塾』には全国各地の経営者が門下生として参加、毎回キャンセル待ちが出るほど入塾希望者が殺到している。2008年春には、「ブレイントレーニング」をより深く学び実践し、世の中の多くの方々を幸福に導くために、通信教育を基本とした『西田会』をスタートさせた。
また、ビジネス界だけでなく、スポーツの分野でも科学的なメンタルトレーニング指導を行い、多くのトップアスリートを成功に導いている。2008年の北京五輪で金メダルを獲得した女子ソフトボールチームの指導も行った。その実績は、まさに日本のメンタルトレーニング指導の国内第一人者に相応しいものである。
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