(本記事は、御手洗昭治氏の著書『ドラッカーがいま、ビジネスパーソンに伝えたいこと』総合法令出版の中から一部を抜粋・編集しています)
時間をマネジメントする
●人生を豊かにするために
現代人に求められる重要な要素に「時間管理」がある。多忙な人ほど時間を有効活用している。「Time is life」。時間を効率良く管理することで、人生を豊かにできる。
アメリカ建国の父の1人、ベンジャミン・フランクリンは、「時間を浪費するな。人生は時間の積み重ねなのだから」と語った。スペインの無敵艦隊を破ったイギリス海軍のヒーロー、ホレーショ・ネルソン提督は、「勝利を収められたのは、常に目的地に15分前に到着できたからであった」と述べている。
ドラッカーは、「時間管理」とは文字通り、自分の時間が何に消費されているのかを知り、体系的に管理することであると述べた。つまり、時間は資源である。資源を効率的に使い、成果を上げよ、という意味でもある。
そのために、重要なポイントが5つある。
1.時間(アポイントメントの日時や予定など)を記録する 2.時間の使い方の優先順位を付ける 3.必要のない仕事を切り捨てる 4.他人に任せられる仕事を任せる 5.大きなカタマリで時間を使えるようにする
また、時間管理の目的は、次のように要約できる。
1.生産性を高める 2.ストレスから身を守る 3.仕事だけではなくプライベートな時間を持ち、ゆとりある生活を営む 4.個人的な目標のために使う時間を確保する
ビジネスにおいては、時間管理が生産性の向上に直結する。多忙な人ほど時間の使い方がうまいといわれるが、彼らは時間管理の方法を知っている。
時間を上手に管理すれば、現代人が受けやすい多くのストレスから身を守ることができる。そのためには、バランス良く時間を使う生活習慣を試みることである。そうすることによって、仕事だけではなくプライベートな時間をバランスよく配分し、ゆとりある生活をエンジョイできる。
そして自己成長のためには一人になれる時間をいかに豊富に持てるかがポイントになる。その上で周囲の人びとの問題解決をサポートできれば最高である。
●メールや会議で議論はするな
具体的な時間術を説くことが本書の目的ではないが、昨今の日本のビジネスシーンで特に多く見られる無駄な時間の使い方について、少しページを割きたい。
まずはメールである。「メールでは議論するな」といわれる。相手の顔の表情や、目の動き、身のこなしもわからず、誤解を生むことが多いからである。悪意はないことでも、悪く受け取られる場合もある。
これは時間管理とも深い関係がある。話せば5分で済むことでも、メールでは長い時間を費やさなければならない。
深い議論が必要な事柄ほど、対面、あるいは電話で話すべきである。電話のデメリットとして、ノンバーバル(非言語)コミュニケーションのうち、目配りも身振りも、色の効果も期待できないことがある。できるのは、声使いを変化させるだけである。相手が笑っているのか、悲しんでいるのかもわからないままに、即座に相手の反応を感じ取って対処するという、高度の技術を要する。
しかしそれだけに、上手な使い方もある。例えば電話で話す時間の長さを戦略的に決めることである。相手に「10分で決めましょう」と伝えることで、結論を引き出しやすくなる。こちらの反応が相手に伝わらないことで、相手が焦る気持ちを持つという効果も期待できる。そうしたメリットもあるからこそ、電話はいまだにビジネスの世界の血管になっているようである。
無駄な時間の使い方として、次に会議である。頻繁に会議のある組織は、職務の組み立て方や組織構成に問題がある場合が多い。合議印に振り回され、多くの人が重要な時間を会議に奪われているような組織が多数存在する。
まずは、通例で開かれている会議が本当に必要なものかどうかを見極める必要がある。多くの人がいなければ決められない事柄というのは意外と少ない。
逆に会議の場の雰囲気が自由な発想や気軽な提案を阻むことがある。暗礁に乗り上げた議題の解決の突破口は、非公式な場で見つかることも多い。会議室の机の上ではなく、廊下で立ち話をする中で、意外な解決法が見つかることもある。
あるいは、会議資料は当日ではなく、前もって参加者に配布し、事前に目を通してもらう、といった工夫も必要である。
●仕事以外の時間を持て
先に触れたように、特に日本人には仕事以外の時間を持つ意識が大切である。仕事、家庭、友人、趣味、健康、それぞれにバランスの取れた生活が幸せの土台になる。
ところが、現代のビジネスパーソンの中には、自分の生活の相対立する要素をすべてコントロールすることは難しいと思っている人が多い。家族のために使う時間を十分に取ることも必要であるが、実際に行動に移すことは難しいと考える。
もちろん仕事に対して積極的であるのは良いことである。結果的に残業や休日出勤が増えたとしても、そこにやりがいを感じていれば辛くはないであろう。しかし仕事を優先し過ぎると、次第にプレッシャーが増していく。それに負け、個人の生活を満足させることから得られる楽しみを無視するような結果に陥る危険もある。
自分の時間を職場の仕事と余暇とにうまく工夫して振り分け、たまには遊ぶ時間を持つことも必要である。幸福な家庭生活を送ることがもたらす恩恵を実感していなければ、継続的に良い仕事はできないという人も多い。彼らはおしなべて優秀である。もちろん健康面や精神面をケアする時間も大事なのである。
ビジネスも経営も、すべて人と人とのつながりで成り立っている。1の人間としてバランスが取れているかどうかを常に自問することが重要である。
ハーバード経営大学院教授のD・クイン・ミルズは述べた。
「仕事の通貨はお金であるが、人間関係の通貨は時間である。2つを混同してはならない」
資産が十分にあっても、家族、友人、同僚との付き合いをおろそかにしていると、有意義な人生は送れない。自分自身のバランスを失えば、ビジネスで成功することはできない。バランスをうまく保ってこそ、ビジネスを堪能できるのである。
●正しい「習慣」を身に付ける
ドラッカーは述べた。
「習慣は第2の天性といわれている。成果を上げることは一つの習慣であり、実践的な能力の積み重ねである。実践的な能力は習得できる。まったくと言っていいほど単純である。7歳の子どもでも理解できる、いたって簡単なことである」
人びとの日常生活は習慣の集まりである。時間管理の意義もここに集約される。われわれが朝起きてから夜寝るまでの行動のうち、50パーセントは習慣に基づいているといわれる。つまり、1日の中で半分はいつも同じことをしているのである。
先に触れたイチロー。メジャーリーグで大記録を打ち立てた。彼の練習、体力づくりのトレーニング、食事にいたるまで、ほとんどが習慣化されたものであったという。彼のカレー好きは有名なところである。
仕事や物事の成果の良し悪しは、日頃の習慣によって決まるということである。ドラッカーによれば、成果を上げる能力があるとすれば、それは、先天的な才能ではなく、後天的な努力と習慣によるものであるという。「成果を上げるエグゼクティブに共通するものは、彼らの能力や存在を成果に結び付けるための習慣的な力である」と指摘する。
現代の組織社会において、習慣的に身に付けておくべき5つのことを、ドラッカーは示した。
1.時間を管理し、何に時間が取られているかをチェックすること
そうして戦略的・計画的に時間を処理する習慣を付ける。
2.外部の世界に対する貢献にフォーカスを当てること
自分に期待されている成果とは何かを考え行動する。社内や組織を通して社会に価値を提供する。他者の動きにもアンテナを張り、他者の貢献度も知る。これには同業のライバル企業も含む。外に出てライバル会社の実情、内情を把握すべきである。
3.自分の強みを見定め活用し、アクションを起こすこと
自分のみならず上司や部下の強みや得意分野も知り、「持ちつ持たれつ」の関係を築き行動する。能力の向上には無駄な時間は使うべきではない。強みに集中すべきである。
4.集中する能力を養うこと
成すべきことから始める。つまり、優先順位を付け第1希望からスタートする。第2希望からスタートしてはならない。
5.成果を上げる意思決定を行うこと
反論や反対意見にも耳を傾ける。建設的な批判は受け止め、ベストな選択肢を選ぶ。
「何を習慣化するか」を明確に意識し、実際に習慣化することが大切である。「どんな良き習慣を身に付けていますか」という問いが、人生の成果に直結しているのである。
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