(本記事は、御手洗昭治氏の著書『ドラッカーがいま、ビジネスパーソンに伝えたいこと』総合法令出版の中から一部を抜粋・編集しています)

マネジメントの実践

マネージャー,評価,チェックポイント
(画像=fizkes/Shutterstock.com)

●まず必要なのは「セルフマネジメント」

時代が変わるとマネジメントの仕事も変わる。非生産的になったもの、不適切になったものは廃棄しなければいけない。

これからはイノベーションがマネジメントの仕事となる。マネジメントという仕事の目的が、新たな知恵や変革を生み出し、イノベーションを起こすことになるのである。

そのためには古い制度、仕組み、やり方を変えなければいけない。どのオフィスにもパソコンが普及し、インターネットでの情報収集やメールでの連絡が当たり前になっている現代。電話やFAXだけでビジネスをしていては、イノベーションなど望めるはずもない。職場の成員に成果を上げさせ、仕事を生産的にするためには、社会の変化を読み取り、マネジメントを対応させていかなければならないのである。

既存の企業においてイノベーションを生み出す人たちは、日常のマネジメントでも能力を証明している。二刀流剣士のごとく、イノベーションを起こしつつ、既存のプロジェクトのマネジメントをこなせる人が存在する。

そうなるためにまず必要なのが、「セルフマネジメント」である。ナポレオン、レオナルド・ダ・ヴィンチ、モーツァルトなどの偉人たちは、自らをマネジメントすることで、偉大な業績を上げることができた。

自分の所属する組織を社会に貢献させるためには、次の3つの役割が求められる。

1.自分の所属している組織の目的とミッションを果たす
2.仕事を生産的なものにするために、組織内の人たちに成果を上げさせる
3.自らが社会に与える影響を処理すると同時に、社会的な貢献を行う

「セルフマネジメント」に必要なのは、自分の強み、仕事のやり方、価値観などを知ることである。それによって、どこで、どんな仕事をすることができ、何を得られるかがわかる。

そしてさらに一歩進んで、自分が果たすべき貢献とは何かと問わなければならない。ドラッカーは、「人は自らの果たすべき貢献は何かという問いから始める瞬間に、人は初めて自由となる」と指摘する。

自らの貢献の内容を選び出すには、次の3つをイメージせよという。

1.現在の状況が求めているものは何か
2.自分の強みや価値観に基づくものは何か
3.そこから生まれた成果が組織に対して持つ意味とは何か

これらをイメージするためには、自分の部下、同僚、上司の得意とするもの、強みも知らなければならない。それらを参考にして自分をマネジメントする方法を見つけることができる。時に「人のふり見て、我がふり直せ」ということもあるが。

●行動をもって人を誘導する

ドラッカーによれば、マネジャーの役割とは、行動をもって、人を成果に向けて誘導することである。そのために人の強みを見つけ、合理的に、かつ効果的に生かし、弱みなどは介入させないことである。

マネジャーの仕事とは何か。ドラッカーは以下の5つを提案する。

1.ゴールを設定する。ビジョンに向かって関係者が円滑な対人コミュニケーションをもとに、お互いがすべきことを行える環境をつくる
2.組織化を図る。活動範囲、決定、関係を分析し、仕事の役割を分類する
3.チームをつくり、動機付けを行う
4.評価を実施する。組織全体の成果と自らの成果の評価について尺度を設ける
5.自分も含め人材を育成する

ドラッカーの提案は、統計数学者であったW・エドワーズ・デミングの「PDCAモデル」を参考にするとわかりやすい。ビジョン、ミッションをもとにプランを立て始動し、その結果を評価し、改善、実行を繰り返しながらゴールに向かうのである。

問題は、実際の組織で行われているほとんどのマネジメントにおいて、あらゆる資源のうち人が最も活用されず、その潜在能力さえも開発されていないことにある。人のマネジメントに関するアプローチの多くが、人を資源や資産ではなく問題、雑用、費用または脅威として扱っている。

ニューヨーク大学のマイケル・シフは提案した。

「人を資産として財務諸表に計上すべきである」

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(画像=『ドラッカーがいま、ビジネスパーソンに伝えたいこと』より)

マネジャーの適性

●人間の2つの性格を知る

アメリカの哲学者であり心理学者でもあるウィリアム・ジェームズは、人間には基本的に2つの性格があるという。

1つ目は「人生1回型」と呼ばれ、生まれたときに与えられた人生を、そのまま肯定して生きるタイプである。素直に生き方を定め、程度の差は多少あっても、生まれついて以来、比較的に穏やかな経緯をたどって生きる人たちである。

2つ目は「人生2回型」と呼ばれ、生まれつきの人生をそのまま受け入れず、自分の努力で変えていくタイプである。「人生1回型」のような時間は過ごしていない。彼らは、秩序や安定を獲得するために、絶え間ない奮闘と努力を続ける。物事を安易に容認することができない。また、このような性格の人たちは皆、一風変わった世界観や価値観を持っている。

「人生一回型」タイプの人びとは自己の存在の意味を、家庭的なくつろぎや安らぎ、環境への調和感のようなものに見出す。それらを自分の態度や行動の指針にしている。これに対し、「人生2回型」のタイプの人は、自分が周囲から分離、あるいは独立しているという感情から、「自分とは何か」を見つめ直す。

ジェームズによれば、マネジャーや経営者が、自分の人生においてどんな投資をすべきかという問いに対して、自分が環境に従属している(人生1回型)か、分離、独立している(人生2回型)かを見分けることが、一種のバロメーターになるという。

マネジャーには「人生1回型」のタイプが向いていると言える。

彼らはこう考える。

自分自身は組織内における秩序の保護者であり、規制する人物でもある。秩序によって、自分が個人として全体との一体感を保ち、また秩序のお陰で報酬を受けることができる。そして組織の体制を維持し継続させ、強化させることは、自己価値を高めることにもなる。言い換えれば、あらゆる義務と責任の在り方を心の中で調和させ、束ねて一つの役割や任務を果たすことによって、物事を達成している。

ジェームズはこのような心の中の調和を取り上げ、ごく自然に外部にほとばしり、容易に外部から流れ込んでくるような自己の在り方を、1回切りの人生、すなわち「人生1回型」タイプの人と定義したのである。

リーダーは「人生2回型」タイプの性格に近くなる。リーダーとして働くうちに、自分を取り巻く環境から分離、独立していると考えるようになる傾向がある。リーダーは、組織内で活動をしているが、組織に従属しようとしないのである。

●誠実さを体現する

ドラッカーは、マネジャーの採用に当たっては、何よりも「誠実な人格」を持つ人物を探さなければならないという。加えて、人の長所ではなく短所ばかりに目を向ける人物は、マネジャーに昇格させるべきではないと説いている。

ドラッカーの言う誠実な人格とは、他人の可能性に注目し、その限界にも寛大に対処できる、社会的な誠実さを意味している。

ドラッカーが好んで使う言葉がある。

「マネジメントとは、物事を正しく行うことである」

誠実さは表面には出ない場合が多いが、他人の目には驚くほど明らかだ。誠実さを持つ人物が尊敬を集める。

ただし、これは単純に人間性だけを表しているのではない。誠実さを体現できる能力もなければいけないということである。

マネジャーには意思決定能力が求められる。プレーヤーとしては優秀でも、マネジャーになった途端に挫折する人もいる。意思決定の必要性は十分承知していても、意思決定はできないという例が往々にしてある。

ドラッカーがいま、ビジネスパーソンに伝えたいこと
御手洗昭治(みたらい・しょうじ)
兵庫県生まれ。札幌大学英語学科・米国ポートランド州立大学卒業。オレゴン州立大学院博士課程修了(Ph.D.)。ハーバード大学・文部省研究プロジェクト客員研究員を務める。ハーバード・ロースクールにて交渉学上級講座、ミディエーション講座修了。エドウィン・O・ライシャワー博士(元駐日米国大使・ハーバード大学名誉教授)が、ハル夫人と来道の際、講演公式通訳として北海道内を随行(1989年9月)。札幌大学教授、北海道日米協会運営理事、日本交渉学会元会長。

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