澤田 朗
澤田 朗(さわだ・あきら)
日本相続士協会理事・相続士・AFP。1971年生まれ、東京都出身。日本相続士協会理事・相続士・AFP。相続対策のための生命保険コンサルティングや相続財産としての土地評価のための現況調査・測量等を通じて、クライアントの遺産分割対策・税対策等のアドバイスを専門家とチームを組んで行う。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中。

不動産相続については、財産を遺す人が生前に相続対策を行う必要がある。そのためには、遺産分割対策を始め、不動産の相続税評価額など納税・節税に関わることを把握しなければならない。今回は、不動産を相続する際にかかる費用や、不動産相続の対策や注意点についてお伝えする。

不動産相続の割合

不動産相続
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

不動産の相続は、毎年多く発生している。2018年分の相続税の申告実績では、死亡者数136万2,470人に対して、相続税の申告書の提出に係る被相続人数が11万6,341人、課税割合は8.5%となっている。

被相続人全体の相続財産の内訳を見ると、現金・預貯金が5兆5,890億円、有価証券が2兆7,733億円に対して、土地が6兆818億円、家屋が9,147億円、土地・家屋を合わせた不動産が40.4%と全体の約4割を占めている。

誰にどの不動産を相続させる?遺産分割対策の注意点

不動産は預貯金や有価証券等と比較して分割しづらい財産であるため、複数の相続人がいる場合、生前の遺産分割対策は必須である。特に複数の不動産を所有している場合には、誰にどの不動産を相続させるのかを決めておく必要があるため、不動産の遺産分割対策の注意点について説明していく。

遺言書による不動産遺産の分割対策

相続発生時に遺言書が無い場合には、相続人同士での遺産分割協議によって、誰がどの財産を相続するかを話し合うことになるが、万が一遺産分割協議が調わない場合には、不動産を含めた全ての財産が相続人全員の共有財産となる。

法律上は遺産分割に期限は無いが、相続税法上は、被相続人の死亡を認知した日の翌日から10ヵ月以内に相続税の申告・納税を行うこととなっているため、遺産分割が行われなかったとしても、不動産を含む相続に係る税金の申告・納税の義務は生じてくることになる。

その場合、財産を法定相続分で相続したものとして計算を行って申告・納税をすることになり、「配偶者控除」「小規模宅地等の特例」等の適用は受けられない。遺産分割がまとまった後の修正申告も可能だが、一時的に相続人の税負担が大きくなることも考えられる。

また、遺産分割協議によって不動産を共有するケースも考えられる。平等に分割するため問題が無いように思われるが、相続人の一人が不動産を売却して現金化しようとしても、共有者全員の同意がなければ売却できない。共有不動産を相続した相続人が亡くなって相続が発生した場合は、共有者が増える可能性があり、売却などの不動産処分の実施がさらに困難になるケースもある。

遺産分割が調わない場合や、不動産を共有名義にした場合には、結果的に相続人にとって不利益になる事も予想されるため、被相続人は生前に遺言書を作成して、不動産を含めた全ての財産について遺産分割の方法を決めておくことが重要となる。

遺留分を考慮した不動産の遺産分割

遺言書を作成する際は、「遺留分」を考慮して遺産分割の方法を考える必要がある。遺留分とは、相続人が被相続人の財産の一定割合を取得する権利であり、これを侵害された場合には他の相続人に侵害額を請求でき、請求された相続人は自身の財産から金銭で弁済しなければならない。

不動産を相続したが現金は相続していないなど、請求された額の弁済ができない場合には一定期間の猶予も与えられるが、いずれは弁済の債務を負うことになる。相続人の間でわだかまりが残る可能性もあるため、遺留分の侵害や弁済方法などについては、被相続人が生前に対策を考えておく必要がある。

なお、遺産分割を行う際に基準となる不動産の価額は、相続税評価額ではなく時価で考えるのが一般的である。

アパート等の収益不動産の相続対策は?

賃貸物件などの収益不動産を所有している場合には、前述の遺産分割対策に加えて納税・節税対策も重要となる。収益性の高い不動産は、年数の経過によって現金収益の増加が考えられるため、全体の相続財産の額や相続税額にも大きく影響してくる。

相続財産を減らす方法として生前贈与があり、現金を長期間に渡って毎年贈与する他、不動産そのものを全部または持ち分の一部を定期的に贈与することも可能となる。不動産の贈与の場合には、贈与税に加えて登録免許税がかかるため、税理士等の専門家に税軽減効果の試算等の依頼を検討すべきである。

不動産の定期収入によって相続対象となる現金が増加する場合には、生命保険の活用も検討できる。死亡保険金には「相続人の数×500万円」の「非課税限度額」があり、その額だけ相続財産を圧縮できる。また、生命保険の保障効果によって、現金と比較して手元に多くの資金を残すことも可能となるため、相続財産の圧縮と合わせて納税資金の確保も可能となる。

不動産の相続税評価額の計算方法

不動産相続では、遺産分割・納税・節税対策が必要となるが、不動産の相続税評価額を把握しなければ、相続財産の総額は把握できない。現時点での不動産の評価額を計算することで、納税額の試算や節税対策の検討も可能となるのだ。ここでは、相続財産としての不動産の評価方法について説明する。

土地の評価方法

土地の評価は「地番」ごとに行うのではなく、原則として宅地・田・畑・山林等の地目ごとに行う。

土地の評価方法は、「路線価」が設定されている地域では「路線価方式」、設定されていない地域では「倍率方式」を採用する。

倍率方式は、土地の固定資産税評価額に定められた倍率を掛けて評価額を算出するため、評価額の算出が複雑ではない。路線価方式は、毎年国税庁が公表する「路線価」を基に計算を行う。道路に接している土地の1平方メートルあたりの価格が路線価として定められており、路線価に各種補正率を掛け、さらに土地の地積を掛けて評価額を算出する。

また、路線価方式では、土地の中でも宅地については利用形態(利用区分)によって評価方法が異なり、自宅等の「自用地」の評価額を基に、主に次のような利用区分ごとに評価額が減額される。

(1)自用地=路線価×各種補正率×地積

自宅など、所有者自身が住居などで使用している土地が該当する。

(2)貸家建付地=自用地評価額-自用地評価額×借地権割合×借家権割合(30%)×賃貸割合

自身の土地に賃貸アパート等を建てて、他人に貸しているケースが該当する。自用地と比較して換金性が低くなる分、評価額が減額される。

(3)貸宅地=自用地評価額-自用地の評価額×借地権割合

土地を他人に貸していて、その土地に他人の建物が建っているケースが該当する。貸家建付地と同様に自用地と比較して換金性が低くなる分、評価額が減額される。

(4)私道=自用地評価額×30% または 評価額0

行き止まりの道路など、特定の人たちが通行で使用する私道は自用地評価額の30%、通り抜け道路など、不特定多数の人たちが通行で使用する私道は評価額が0となる。

家屋の評価方法

家屋の相続税評価額は固定資産税評価額と同額となるため、固定資産税台帳等で容易に確認が可能である。

不動産相続にかかる費用

不動産を相続する際は、相続税と合わせて「登録免許税」が、相続後は「固定資産税」「都市計画税」が毎年かかることになる。それぞれの税率等は下記の通りである。

1.登録免許税

相続によって不動産を取得した場合には、土地・家屋共に「所有権の移転」の登記を行い、その際に登録免許税がかかる。税額はそれぞれ「固定資産税評価額×税率0.4%」であり、この税率が適用されるのは、法定相続人が相続によって不動産を取得した場合に限られる。

死因贈与による取得や、法定相続人以外が遺贈によって取得した場合の税率は2%となる。生前贈与による取得の場合も同率で2%となり、取得する人やタイミングによって税率が異なる。

2.固定資産税・都市計画税

固定資産税・都市計画税は、毎年1月1日現在の土地・家屋の所有者に納税義務がある。原則として税額は土地・家屋共に固定資産税は「固定資産税課税標準額×税率1.4%」、都市計画税は「固定資産税課税標準額×税率1.4%」となっている。

なお土地のうち、住宅用地については課税標準額の特例措置があり税負担が軽減される。住宅用地の区分と固定資産税・都市計画税に応じて土地の価格に下記の割合を掛け、課税標準額が算出される。

区分固定資産税都市計画税
小規模住宅用地住宅用地で住宅1戸につき200平方メートルまでの部分価格×1/6価格×1/3
一般住宅用地小規模住宅用地以外の住宅用地価格×1/3価格×2/3

このように不動産を取得したタイミングと所有している期間に、税負担が生じることになる。

不動産、特に土地は相続税評価額を下げられる場合も!

路線価地域での土地(宅地)の評価方法は「自用地=路線価×各種補正率×地積」を基に計算するが、「各種補正率」が適用できるか否かによって評価額が大きく変わる。ここでは、どのような土地ならば評価額が減額できるのか、各種補正率についてお伝えする。

1.奥行価格補正率

土地の奥行距離を4メートル未満~100メートル以上の範囲で区分し、距離によって0.80~1.00の補正率を掛けることができる。極端に奥行きが短い・長い土地の使い勝手を考慮して減額をするものである。

2.間口狭小補正率、奥行長大補正率

間口が狭小な土地については奥行価格補正率を掛けた額に、さらに「間口狭小補正率×奥行長大補正率」を掛けて減額することができる。間口狭小補正率は、間口距離を4メートル未満~28メートル以上の範囲で区分して0.80~1.00の補正率が適用される。奥行長大補正率は、土地の「奥行距離/間口距離」の値が2以上の場合に、0.90~1.00の補正率となっている。

3.不整形地補正率

土地の形状が一般的な整形地と比較して、どの程度不整形となっているのかを示す「かげ地割合」を求めた上で、その割合が10%以上の土地に対しては、さらに0.60~1.00の不整形地補正率を掛けることができる。

4.地積規模の大きな土地

三大都市圏では500平方メートル、それ以外の地域では1,00平方メートル以上の土地は「地積規模の大きな土地」に該当し、さらに「規模格差補正率(0.80~0.95)」を掛けて評価減が可能となる。

その他、土地にがけ地がある場合の「がけ地補正率」、土砂災害特別警戒区域内の土地には「特別警戒区域補正率」が適用され、土地の評価額を減額することができる。

このように不動産、特に土地の相続税評価額は、その形状や地積等によって減額が可能となるが、不整形地補正率を始め補正率の算出には専門的な知識が必要となるため、土地の相続税評価に詳しい専門家へ評価を依頼することを勧める。

不動産相続は専門家に相談したほうが良い場合も!

不動産相続を考える際は、遺産分割・納税・節税を合わせて考える必要があるため、土地の評価などについては、相続・税務・法務に詳しい専門家への相談も必要となるであろう。不動産などの相続が発生してからでは遅い対策もあるため、生前のうちに複雑になりやすい不動産相続の対策を立て、スムーズな財産承継を行っていただきたい。(提供:THE OWNER

文・澤田朗(相続士、ファイナンシャル・プランナー)