(本記事は、尾藤誠司氏の著書『医者のトリセツ 最善の治療を受けるための20の心得』世界文化社の中から一部を抜粋・編集しています)

遠くの大病院か?近くのクリニックか? "入り口"を間違えない病院選び

医者のトリセツ 最善の治療を受けるための20の心得
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治療のための第一歩ともいえるのが病院選び。

最善の治療へと進む道で、"門前払い"などで思わぬ遠回りをしないためにも選び方の基本を知っておきましょう。

●「具合が悪い」と「病気」は同じ意味ではない

私たちが病院にかかるのは、たいてい具合の悪いときです。痛い、だるい、めまいがする、咳が止まらない、落ち込みがちなど、何かしらつらい症状を医療の専門家である医師に治してもらうために、病院を利用します。

ところが、患者さんの訴えを医師が病気と判断する確率は半分以下なのです。いったい、医師は何を「病気」だと考えているのでしょうか。

1つは、放っておくと悪化し、命にかかわる状態になりうること。もう1つは、その状態に対する医学的な手立てが存在する(保険診療上の病名が存在する)ことです。

驚くことに、そこに患者がどれだけつらいか、困っているかの基準は存在しません。しかも、はっきり線引きができないことも多いのです。たとえば腹痛。腸の動きに問題のある過敏性腸症候群や機能性ディスペプシアはれっきとした病気ですが、検査で異常が出るわけではないので、病気か否かの境目が非常に曖昧なのです。

しかし患者さんとしては、境目がどうであれ、つらさを早く何とかしてほしい。やっとたどり着いた病院で「……うーん。これは病気じゃないですね」などと門前払いをされたら、泣きっ面に蜂。このすれ違いをどう解決したらよいのでしょうか。

●"門前払い率"の高さは病院の規模に比例する

"門前払い率"の高さは病院の規模に比例します。つまり、大学病院、大きな総合病院、中小病院(地域の少し大きめの病院。町村名や苗字を冠していることも多い)、診療所(クリニック、医院を含む)の順でハードルが高い。"とりあえず"くぐるのはなるべく小さな門が無難だといえます。

大病院ほど医師の専門領域が細分化されているので、患者さんがその範疇に当てはまる確率は低くなります。それに比べて診療所の医師は守備範囲が広い。内科の看板を掲げていれば、腹痛、頭痛、吐き気、めまい、だるさ、肩こりなど、たとえ漠然とした訴えでも耳を傾け、「何とかしましょう」と対応してくれることが多いのです。

診療所では、どのように"何とかして"くれるのでしょうか。まず一通りの診察や検査を行って問題点を整理し、薬を出すなどの治療をします。七、八割はそこで解決しますが、専門的な検査が必要と判断した場合は、適当な医療機関に紹介状を書きます。これが「この患者さんの病状は〇〇先生の専門の範疇です」と示す証明書になるのです。

医師という職業のいいところは、お互いを商売がたきと捉えていないことです。自分に対応しきれない患者さんには専門の病院や医師を紹介し、治療の連携を取るのが義務だと教育されています。病院選びはまず診療所へ。それから紹介状持参で大きな病院へ──。

これが最も無駄のないルートだといえます。

病院選びのケーススタディー

●case1 ハートセンターで、「心の病は診られません」と無下に断られた

最近、不眠に悩まされているAさん(55歳)。親の介護疲れで気分も沈みがちなので、近所の「ハートセンター」という病院に行きました。心のケアを受けられると思ったのです。ところがAさんが悩みを訴えるのに、医師が尋ねてくるのは不整脈や動悸のことばかり。話がまったくかみ合いません。実はそこは循環器専門の病院でした。ハートとは心臓の意味だったのです。

気を取り直して後日、別の病院の神経内科にかかると、今度は「ここの専門はパーキンソン病です」と。なかなかぴったりの窓口にたどり着くことができません。

【患者の心得】大病院の診療科目はとても複雑。わからなくて当たり前

病院名や診療科名だけで、患者さんが自分の症状と合うところかどうかを判断するのは至難の業。特に大きな病院の診療科は細かく分かれていて、しかも同じ病気でも病院によって神経内科、脳外科、循環器科など扱う科が異なる場合もあるので、よほど医療に詳しくなければ迷うのは当然です。

最短ルートで最適な診療科に行き着く確実な方法は、やはり診療所を受診して、「〇〇病院〇〇科〇〇先生宛」の紹介状を書いてもらうことです。最近は「総合内科」「総合診療科」を設けている病院も増えています。紹介状なしに受診するときは、そこを入り口にするのがよいでしょう。

●case2 「〇〇病院の〇〇教授を紹介してほしい」と言ったら主治医が怪訝な顔をした

Bさん(52歳)はテレビの健康番組や医療雑誌、ネットの医療サイトも頻繁にチェックする情報通です。ある日、健康診断で大腸がんが見つかりました。近所の胃腸病院で診てもらうと、かなり進行しており、早めに手術をしたほうがいいと言われました。

主治医の先生は、大腸がんの術例の多い近くの総合病院の消化器外科に紹介状を書きましょうと言ってくれましたが、Bさんは、医療雑誌で"神の手"を持つと紹介されていた某大学病院の教授に手術を希望。その旨を伝えると、怪訝な顔をされました。

【患者の心得】主治医に判断をゆだねつつ、希望を伝えるのが賢い方法

世の中に医療情報が溢れ、Bさんのような意向を持つかたは増えています。紹介先の医師を指名することに問題はありませんが、「〇〇先生に紹介状を書いてください」といきなり限定すると抵抗を示す医師もいるでしょう。その医師の専門が患者さんの病状に合わないケースもあります。

例えば、次のように話してはいかがでしょうか。「〇〇大学の〇〇教授が大腸がんの名医だという記事を読みました。私の場合、その先生が妥当なのかよくわからないのですが、先生はどう思われますでしょうか」。希望を伝えながら、最終的な判断を専門家である主治医に任せるのです。

●case3 受診すべきか判断に迷う

咳が1週間止まらないCさん(58歳)。医師にこの程度で……と思われたくない一方で、早期発見・早期治療の言葉も浮かび、受診するか否かで迷っています。

【患者の心得】「症状の程度×期間」の掛け算で

1つの目安として、「症状の程度×期間」の積で判断する方法があります。軽い症状が長く続くとき、あるいは2、3日でも症状が重いときは受診を考えましょう。また、ダイエットをしていないのに体重が減る場合は、がん、結核、リウマチ、糖尿病などが原因のこともありうるので早めの受診を。

医者のトリセツ 最善の治療を受けるための20の心得
尾藤誠司(びとう・せいじ)
1965年、愛知県生まれ。岐阜大学医学部卒業後、国立長崎中央病院、国立東京第二病院(現・東京医療センター)、国立佐渡療養所に勤務。95〜97年UCLAに留学、臨床疫学を学び、医療と社会との関わりを研究。総合内科医として東京医療センターでの診療、研修医の教育、医師・看護師の臨床研究の支援、診療の質の向上を目指す事業に関わる。医療現場でのジレンマを歌うアマチュアバンド「ハロペリドールズ」ではボーカルを担当。著書に『「医師アタマ」との付き合い方』(中公新書ラクレ)、『医者の言うことは話半分でいい』(PHP研究所)ほか。

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