矢野経済研究所
(画像=PIXTA)

8月7日、商船三井は、先月26日にモーリシャス島沖で座礁した同社が長鋪汽船(岡山)から傭船し、運航している貨物船から燃料油が流出、現場海域に甚大な影響を及ぼしている、と発表した。
船外に流出した燃料油は1,000MT、沿岸の湿地帯、マングローブ林、サンゴ礁など貴重な生態系が危機に瀕する。環境への負荷を鑑みると大型ポンプの使用や薬剤の投入は出来ない。油の除去作業は人海戦術に頼るしかなく、回収の長期化は避けられない。マングローブ林の回復には30年を要するとの専門家の指摘もあり、固有種を含む生物多様性への影響はもちろん、観光、漁業などモーリシャス経済に与える打撃は深刻である。

海難事故の大半は操船ミスや見張りの不十分さが原因とされる。その意味で船舶の自動運航化への期待は大きい。
4日、日本、中国、韓国、シンガポール、ノルウェー、デンマーク、フィンランド、オランダの8ヵ国は自動運航船の実用化にむけた国際連携の枠組み「MASSPorts」の設置に合意した。今後、MASSPortsは自動運航船の実証ガイドラインの策定や複数港湾での相互運用性を高めるための用語、通信方法の統一などに向けて協力していく。

国土交通省は2025年を目標に自動運航に関する安全基準を策定する方針であり、民間の無人運航プロジェクトを支援する日本財団とも連携し、オールジャパン体制で船舶の自動運航に向けた取り組みを本格化させる。
5月、日本郵船グループは東京湾上のタグボートを兵庫県の陸上センターから遠隔操船する実験に成功、これを受けてNTTと共同で輻輳(ふくそう)海域での無人運航船の実証実験に着手する。商船三井も三井E&S造船などをパートナーに日本財団のプログラムに参加、内航船の主力船形であるコンテナ船と大型カーフェリーを使った実験をスタートさせる。

18日、モーリシャス共和国当局は座礁船のインド人船長と副船長を逮捕した。“船内では船員の誕生会が開かれていた”、“Wi-Fiに接続するために沿岸に近づいた” との報道もあり、原因は人為的であるとの見方が有力だ。一方、商船三井も自社の「安全運航センター(SOSC)」の在り方を再検証する必要があろう。同社は2006年に発生した重大事故の経験を踏まえSOSCを設置、インマルサット衛星を活用した24時間365日体制で全船舶の運航を監視、“船長を孤独にしない” 体制を整えた。しかし、残念ながら事故は防げなかった。システムに技術的な問題はなかったか、運用体制は十分であったか、リスクの見落としはなかったか。ヒューマンエラーの可能性も含め、徹底した検証を行い、公開し、自動運航の実用化と再発防止に向けての教訓として欲しい。

今週の“ひらめき”視点 8.9 – 8.20
代表取締役社長 水越 孝