個人事業主が廃業する際は、税務署などでの手続きが必要になる。手続きを怠ると事業が継続しているとみなされて、不要な税金を支払わなければならなくなることもある。この記事では、個人事業主が廃業するときの手続き方法や書類、廃業届の書き方、確定申告はどうするかについて、詳しく解説していく。
個人事業主が廃業する際の手続き方法
個人事業主が廃業する際は、所定の書類を管轄の税務署及び都道府県税事務所に提出することになる。提出すれば、それで手続きは完了する。
受付時間は、平日の8時30分から17時までだ。土日祝日に提出する場合は、税務署の入り口付近に設置されている「時間外収受箱」に書類を投函する。また、書類は郵送することもできる。
個人事業主の廃業は法人の廃業とどう違う?
個人事業主の場合だと事業主が所定の手続きを行えば廃業を行えるが、法人(株式会社)の場合は株主総会における決議が必要となる。定款に特別な要件がなければ、廃業を決めるには議決権を持つ株主が半数以上出席している株主総会にて、株主の3分の2以上の賛成があれば廃業が可能となる。
そして株主総会で廃業が決まった後は、企業が所在する地域の法務局にて解散の登記手続きを行う必要がある。精算は「清算人」が行うことになるため、選出された清算人の登記も同時に行う。選任された清算人は、財産目録と貸借対照表を作成して株主総会にて了承を受けなければならない。決算報告を作成して株主総会で承認が得られれば、精算は完了したとみなされる。
清算人は決算報告が株主総会で承認されてから2週間以内に法務局で清算登記を行い、さらに残余財産が明確になった日から1ヵ月以内に、精算用の確定申告も行う。
廃業手続きをしない場合に起こること
廃業したと個人事業主本人が思い込んでいても、税務署にきちんと廃業届を出さないと、事業が続いている状態とみなされる。そのため、確定申告の時期が近づくと税務署から案内の用紙が郵送され、確定申告を行うように促される。「もう廃業したから」といって、確定申告も行わないでいると、最悪の場合、税務調査の対象となることもある。そのため廃業する場合は、廃業届を税務署及び都道府県税事務所に廃業届をきちんと提出する必要がある。
廃業する際に提出する書類
個人事業主が廃業する際に提出する書類を見ていこう。
税務署へ提出する書類
・「個人事業の開業・廃業等届出書」
個人事業主が廃業する際は、「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出する必要がある。提出の対象となるのは、事業所得、不動産所得、または山林所得を得ている個人事業主だ。
提出期限は、「廃業後1ヵ月以内」である。土日祝日に当たる場合は、その翌日が期限となる。
・「所得税の青色申告の取りやめ届出書」
確定申告を青色申告で行っている事業主は多いだろう。青色申告を行っている場合は、廃業の際「所得税の青色申告の取りやめ届出書」も提出する必要がある。提出期限は、青色申告を取りやめる年の翌年の3月15日までだ。
「所得税の青色申告の取りやめ届出書」には、「青色申告を取りやめようとする理由」を記入する欄がある。廃業であれば「廃業のため」、法人成りであれば「法人成りのため」と記入する。
法人成りの場合、自宅を新たに設立した法人に貸与して賃料を得るケースもあるだろう。そのような場合は個人事業が継続することになるため、「所得税の青色申告の取りやめ届出書」「個人事業の開業・廃業等届出書」及び後述する「事業廃止届出書」の提出は不要だ。
・「事業廃止届出書」
「事業廃止届出書」は、消費税の課税事業者であった場合に提出する必要がある。期限は「速やかに」とされていて、明示されていない。廃業届と併せて、廃業後1ヵ月以内に提出すれば問題ないだろう。
・「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」
「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」は、従業員を雇用し給与を支払っていた個人事業主が提出するものだ。提出期限は、廃業届と同様に「廃業後1ヵ月以内」となっている。
・「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書」
「所得税予備復興特別所得税の予定納税額の減額申請書」は、所得税を予定納税していた個人事業主が提出する書類だ。提出することで、予定納税額が減額あるいは免除される。提出しないと事業を継続した場合と同額の予定納税が必要になるため、必ず提出しよう。
申告納税額の見積もりの根拠となる資料も、併せて提出する必要がある。提出期限は、第1期分と第2期分を同時に行う場合は7月1日~7月15日、第2期分のみの場合は11月1日~11月15日だ。
都道府県税事務所へ提出する書類
都道府県税事務所へ提出する書類は、都道府県によって様式が異なる。たとえば、東京都税事務所は「事業開始(廃止)等申請書」、大阪府税事務所は「事業開始・変更・廃止申告書」となっている。
また、提出期限も都道府県によって異なる。東京都税事務所は「事業廃止後10日以内」、大阪府税事務所は「遅滞なく」だ。提出書類の様式と提出期限は、管轄の都道府県税事務所のホームページなどであらかじめ確認しておこう。
廃業届の書き方
廃業届の書き方を見ていこう。廃業届は、以下の画像のとおりだ。
この書類は、国税庁のホームページからダウンロードすることができる。
⇒ 個人事業の開業・廃業等届出書(提出用・控用)(PDF/865KB)
ダウンロードしたPDFファイルは、ファイル上で記入し、そのまま印刷することができる。
表題
「個人事業の開業・廃業等届出書」は、開業と廃業の両方に使用するものである。したがって、廃業を届け出る場合は、「開業」を二重線で消しておく。
税務署長・提出日
管轄の税務署名及び提出日を記入する。
納税地
「住所地・居所地・事務所等」は、納税地が自宅兼事務所であれば「居所地」を、自宅とは別に構えた事務所であれば「事務所等」を、それ以外の場合は「住所地」を選択する。その上で、その住所と電話番号を記入する。
上記以外の住所地・事業所等
納税地以外に事務所や店舗などがある場合は、その住所と電話番号を記入する。
氏名・生年月日・個人番号
個人事業主本人の氏名と生年月日、個人番号(マイナンバー)を記入し、押印する。
職業・屋号
行っている事業の簡潔な内容と、屋号を記入する。
届け出の区分
「廃業」に○をして、廃業の理由を記入する。
所得の種類
廃業の場合は、「全部」を○で囲む。
開業・廃業期日
廃業の期日を記入する。
廃業の事由が法人の設立に伴うものである場合
法人成りによって個人事業を廃業する場合は、設立した法人の名前、代表者名、納税地を記入する。
開業・廃業に伴う届出書の提出の有無
該当する書類を提出するなら「有」を、提出しないなら「無」を○で囲む。
事業の概要
行っていた事業の内容について、具体的に記入する。
給与等の支払状況
「専従者」とは青色申告をしている事業者が家族を従業員として雇っている人のことで、「使用人」はそれ以外の従業員を指す。それぞれについて、従業員数と給与の定め方(「月給」や「日給」など)を記入する。
「税額の有無」は、月給に換算して8万円までは「無」を、それを超える場合は「有」を○で囲む。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の提出の有無
給与を払っている従業員がいる場合は、この申請書を提出していたことになる。その場合は「有」を、従業員がいない場合は「無」を○で囲む。
廃業の手続きに費用はかかる?
所轄の税務署・都道府県税事務所への廃業届の提出には、費用はかからない。ただし、廃業する場合は保有する設備を処分する費用、働いていた従業員への退職金の支払い、保有する在庫処分の費用、店舗や工場を借りていた場合は原状回復費用などが必要となる。従業員が複数いる、借りていたスペースの痛みが激しいなど、状況によってはかなり費用がかかることもある。廃業を決めるに当たって、廃業をする上で必要となる費用の見積もりを行っておくことも必要だ。
個人事業主が亡くなったときに相続人が行う廃業の手続き
個人事業主が亡くなって事業の継続が不可能となったとき、遺族が廃業手続きを行う必要がある。ここでポイントとなるのは、個人事業主の事業をその子どもまたは配偶者が引き継ぐというケースでも、いったんは廃業手続きが必要となるという点だ。つまり、亡くなった個人事業主の事業継承を行うには、廃業した上で新規開業するという手続きを継承者が行う必要があるのだ。個人事業主の死亡によって廃業届を記入する場合、書類の廃業事由の蘭には「死亡」と記入する。また、事業を廃業する日時を書く欄には、個人事業主が亡くなった日を書く。
さらに廃業届のみならず、「個人事業者の死亡届け出書」も所轄の税務署に提出する必要がある。提出期限などは特に決まっていないが、事業継承の意思の有る無しにかかわらず、故人の相続人は速やかに行うことが求められる。郵送による提出でも問題ない。
廃業した年の確定申告はどうすればいい?
廃業した年の確定申告は、どうすればいいのだろうか。廃業した年も、もちろん確定申告をしなければならない。ここで問題になるのが、「廃業後に発生した必要経費」である。
廃業後も、たとえば片付けや清掃、廃棄などによって必要経費が発生することがある。そのような場合は「事業を廃止した場合の必要経費の特例(所得税法第63条)」が適用され、「事業を廃止しなければ必要経費に算入されるべき金額」については、必要経費として計上することができる。
しかし、問題が2つある。1つ目は、どこまでを必要経費として認めるかについて、税務署によって見解が異なることだ。2つ目は、廃業後の必要経費は確定申告によって行うのではなく、すでに行った確定申告について、「更正の請求」を「必要経費が発生してから2ヵ月以内」という短い期間で行わなければならないことだ。
廃業後も必要経費が発生することが見込まれる場合は、廃業日をできるだけ12月31日に近い日にして、必要経費の計上はその年ですべて終わらせてしまうことをおすすめする。そうすることで、より多くの必要経費を計上でき、支払うべき所得税を少なくすることができる。
前述のとおり、廃業には手続きが必要だ。廃業日を12月31日に近い日に決め、確定申告と併せて廃業の事務処理を進めれば、処理の漏れなどを減らすこともできるだろう。
廃業に当たって借入金が残る場合
個人事業主が廃業する際、借入金が残ることがある。それが事業のために借り入れたものであっても、廃業したからといって免除されるわけではない。基本的に元金の返済と利息の支払いは、続けていくことになる。
廃業に際して借入金が残る場合は、まず新たに就職をするなどして収入を確保した上で、金融機関に相談し、返済計画を見直す必要があるだろう。返済計画を見直しても借入金の返済が難しい場合は、自己破産をする必要があるかもしれない。
事業の再開が見込まれる場合の廃業の方法は?
個人事業を廃業する際、実質的には「休業」で、近い将来再開する予定があるケースもあるだろう。その場合は、適切な手続きを継続することで、メリットが大きい青色申告を継続することができる。
青色申告を取りやめた場合のデメリット
青色申告を行っていた個人事業主が廃業する際は、前述のとおり「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を提出し、青色申告も取りやめることになる。しかし、青色申告を取りやめてしまうと、再度申請しても1年間は青色申告ができない。控除額が大きく税金面で有利であり、赤字がある場合はそれを繰り越すことができるといったメリットがある青色申告を、事業を再開してすぐに利用できないのはもったいない。
青色申告を継続するための手続き方法
事業を休んでいる間も青色申告を継続するためには、確定申告を継続する必要がある。その場合は、収入も支出も0円になるだろう。確定申告書別表1の目立つ場所に「休業中」と記入して押印をすれば、所得額0円の確定申告書も問題なく受け付けてもらえる。
青色申告は、2年連続で申告しないと取り消されてしまう。青色申告が取り消されないよう、事業の再開を予定している場合は確定申告を継続しよう。
法人成りの場合も、個人事業の廃業届が必要
法人成りとは、それまで個人事業として活動してきた事業を廃業し、新規に会社法人として事業を始めることである。この場合、個人事業主から会社法人に財産の引き継ぎなどを行うことになるが、「個人事業の廃業」の手続きを行うことも必要となる。
廃業の手続き自体は、通常の廃業の場合と同様だ。廃業届出所の提出、所得税の青色申告の取りやめ届出書、従業員を雇用していた場合は給与支払事務所等の廃止届出書、事業廃止届出書(消費税)などを提出することが求められる。
法人成りをしても個人事業主としての事業が自動的に廃業されるわけではない。所定の手続きをしないと、その後も事業が継続されているとみなされ、確定申告の時期に混乱が生じてしまうので注意が必要だ。
廃業について誰かに相談したい場合は
廃業をするに当たって信頼のおける人に相談したいという場合、公的窓口の利用が可能だ。「全国職業相談センター」「都道府県等中小企業支援センター」「経営安定特別相談室」「よろず支援拠点」などでは、廃業に関する相談を随時受け付けているので、必要な手続きも含めて詳しい説明を受けることができる。また、個人事業主としてお世話になった税理士や取引先の金融機関でも相談を受けてもらえる場合がある。ただし、経営コンサルタントや弁護士などに改めて相談する場合は料金が発生することもあるため、事前に確認しておくのが望ましい。
廃業届は忘れずに提出しよう
個人事業主が廃業する際は、「廃業届」などの書類を税務署と都道府県税事務所へ提出する。清算などの複雑な手続きが必要になる法人の解散と比べて、個人事業主の廃業手続きは簡単だ。
手続きを行わないと事業が継続しているとみなされて、不要な税金を支払わなければならなくなることもある。廃業届は忘れずに提出しよう。
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