内山 瑛
内山 瑛(うちやま・あきら)
公認会計士。名古屋大学法学部在学中に、公認会計士試験に合格。新日本有限責任監査法人に入所し、会計監査・コンサルティング業務を中心に研鑽を積む。2014年に同法人を退所し、独立。「お客様の成長のよきパートナーとなる」ことをモットーに、記帳代行・税務申告にとどまらず、お客様に総合的なサービスを提供している。近年は、銀行評価を向上させる財務コンサルティングや内部統制構築支援、内部監査の導入支援にも力を入れている。

経営者が、破産という最悪の事態を回避するために、債務整理を行った上で事業の再建を目指す「民事再生」が選ばれることがある。今回は、法人の経営者を対象として、民事再生の仕組みや手続きの流れ、民事再生手続きにおけるメリットやデメリットについて解説する。

民事再生手続きとは

民事再生
(画像=makibestphoto/stock.adobe.com)

民事再生手続きとは、借入の返済が苦しい状況にある会社等のために、裁判所が関与して行う再生手続きである。債務者(借りた側)と債権者(貸した側)の権利義務を、裁判所の認可のもと調整し、事業の再生を図ることを目的とする。債務者は、借入を返済するための「再生計画案」を作成し、可能な限り返済できる額やその期間を示す。

一部の債務の返済免除も期待できる

「再生計画案」に債権者の多数の同意を得た上で裁判所の認可を受けられれば、その後は計画に従った返済を行うことで、一部の債務の返済は免除してもらえる。

ただし、民事再生手続きは半年ほどかかることが多く、その間、さまざまな場面で法律の制約を受ける。よって弁護士等の長期的なサポートがなければ、目的を遂げることは難しい。険しい道のりであるが、それでも会社を守りたい経営者にとっては利用するメリットのある手続きである。

民事再生手続きを利用できる会社

民事再生手続きを申し立てることができる法人の要件は、以下のようになる。

・債務者の支払い不能や債務超過によって、破産手続きをせざるを得ない事態に陥るおそれがあるとき
・事業の継続に大きなダメージを与えることなく、弁済期にある債務を払い戻せないとき

つまり、債務の支払いができなくなる「おそれ」があれば、利用対象になるということであるが、実際のところは、会社の再生が見込める企業であることが前提となる。再生の見込みがないとみなされれば、裁判所は申し立て自体を棄却することもある。(民事再生法第25条)

民事再生と破産の違い

借入の返済ができなくなった際の有名な手続きに「破産」があるが、民事再生とどのような違いがあるのだろうか。

破産とは

破産も民事再生と同様に、法人と個人の両方を対象とする、裁判所が関与する債務整理手続きである。裁判所から選任された「破産管財人」が、債務者の財産を差し押さえた上で金銭に換金し、債権者への返済に充てる。

民事再生も破産も、事業主が行えば「倒産」扱いとなる。

民事再生と破産は会社の存続に違いがある

民事再生は「再建型」、破産は「清算型」の手続きにあたる。「再建型」の手続きであれば、会社を存続させることができるが、「清算型」では会社は消滅してしまう。

「それなら民事再生の方が、会社にとっていいじゃないか」と考えるだろうが、民事再生は債権者が納得しなければ成立しないため、再生を支援してくれるスポンサーを探したり、不採算部門を見直して収益の改善策を練り上げ、債権者の同意を得られる説明を行うことが求められる。

民事再生によって返済を受けた方が、破産と比べて債権者のメリットが大きくなければ、多数の同意は得られないだろう。

民事再生手続きの流れ

民事再生を行うには裁判所への申し立てなど、数々のステップがある。ここでは、民事再生手続きのおおまかな流れを解説する。

裁判所への申し立て

民事再生手続きの申し立てを行う際には、債務者の主たる営業所を管轄する地方裁判所に、以下のような書面を提出しなければならない。

・申立書類(申立書、陳述書、財産目録、債権者一覧表)
・印鑑(法人の場合は代表者の印鑑)
・全部事項証明書、または商業登記簿謄本、取締役会の議事録など
・その他会社の財務状況や財産に関する書類など

民事再生手続きを利用できる会社かどうか、定型的な項目では十分な説明が難しいため、申立書などの書類には決められた様式がない。弁護士などの専門家に相談した上で、書類作成等を代行してもらうことが一般的である。

予納金の支払い

民事再生手続きを申し立てる際、その費用をあらかじめ納めなければならない。「予納金」と呼ばれる費用で、金額は債務者会社(債務者)の負債総額等によって変わる。(民事再生法第24条第1項)

裁判所からの保全処分

裁判所が申し立てを受理してから民事再生手続きの開始を決定するまでの間、債務者の財産などを保全するための命令を裁判所が下す。(民事再生法第30条第1項)

民事再生手続き開始の決定

民事再生手続きの申し立てから2週間ほどで、民事再生の開始手続きの決定が行われる。

民事再生開始手続きの決定が行われたことは、公告の対象となり、同時に「再生債権(民事再生手続き開始前に、債権者が会社(債務者)に貸した金銭や利息等)」の届け出期間や、その調査期間も公告される。(民事再生法第34条第1項、第35条第1項)

再生債権のある法人や個人は、定められた期限までに自身の債権について届け出ることとなるが、できれば債務者側から債権者に連絡をしておく方が好ましいため、民事再生手続きの開始決定よりも前に会社から債権者に説明会を開くことが一般的である。

なお、民事再生手続きの開始後に、再生計画に記載されている以外の方法で、会社から債権者に再生債権の弁済を勝手に行うことは認められない。弁済を受けなければ倒産するなどの状況がある企業については、裁判所が許可したときに限って弁済が認められる。(民事再生法第85条第1項、第2項)

再生計画の作成

裁判所が定めた期日までに「再生計画案」を作成し、裁判所に提出する。「再生計画案」とは、会社の将来の収入から返済できる金額を算出して、分割払いで債権者に支払うための計画となる。

債権者による決議

裁判所に提出した「再生計画案」について、債権者集会で決議されなければならない。議決権者の過半数の同意を得ることによって、民事再生の適用が可決される。(民事再生法第172条の3第1項)

裁判所の認可

債権者によって可決された再生計画案について、裁判所から認可を受ける。(民事再生法第174条)

返済開始

裁判所の認可を受けた後は、会社はすみやかに再生計画にしたがって弁済を始める。(民事再生法第186条第1項)

民事再生手続きのメリット4つ

民事再生手続きのメリットについて順に解説していく。

メリット1. 公平な手続きができる

民事再生は、裁判所の認可を受けた上で行われる再生手続きであるため、債権者間での不公平感が生じにくい。

メリット2. 債務を免除してもらえる

再生計画案は、債権者の過半数の同意があればほぼ認可される。つまり、債権者全員が同意していなくとも、債務を免除してもらえる公算が大きい。

メリット3. 経営をやり直せる

破産などの「清算型」の手続きと異なり、民事再生では会社は消滅しない。将来性のある会社が、何らかの事情で資金繰りが悪化した際、それを立て直すことも可能だ。会社を守りたい経営者にとって、民事再生は大きなメリットといえる。

メリット4. 経営陣は残留可能

民事再生は、会社更生手続きと違って経営者らの退任は求められないため、経営陣はそのまま会社に残ることができる。ただし、会社に対する損害賠償責任の有無については別問題だ。

民事再生手続きの開始が決定した会社において、経営陣に対する損害賠償責任が問われる場合、裁判所は会社からの申し立てや職権に基づいて、役員の財産に対する保全処分を行うことができるとされている。(民事再生法第142条第1項)

民事再生手続きのデメリット3つ

続いてデメリットについても解説する。

デメリット1. 社会的な信頼を損なう

民事再生手続きの最大のデメリットは、会社の倒産が公然の事実となることだ。債権者からの信頼を失うだけでなく、これまで築いたきた企業イメージなど、社会的な信頼も損なうことは避けられない。

たとえ事業を立て直したとしても、民事再生手続きを行う前と同様に取引ができるとは限らないのである。

デメリット2.申し立てに費用がかかる

民事再生手続きにおけるコストで注意しなければならないのが、裁判所への申し立て時に支払う「民事通常再生予納金」だ。予納金の額は裁判所が定めるが、法人の負債総額が5,000万円未満の場合が最も基準額が安いが、それでも200万円ほどかかり、負債総額が多いほど高額となる。

詳細は、申し立て先の裁判所のホームページなどで確認していただきたい。

デメリット3.税務の専門知識が不可欠

民事再生では、会社の財産について、再生手続き開始時の価額を評定する。(民事再生法第124条第1項)

そして税法では、こうした事情から生じた一定の資産に対する評価損益を、益金や損金に算入するというルールがある。(法人税法第25条、同法第33条)

また、民事再生では返済できなくなった債務の一部を免除してもらうことができるが、その免除額は「債務免除益」として法人の益金となる。

たとえば1億円の免除を受ければ、1億円が法人税等の課税対象になるということであり、会社を再生しようにも、企業活動を円滑に進めることが難しくなる。そこで、民事再生による債務免除があったときには、一定要件のもと、「期限切れ」の欠損金を優先して損金に算入できるというルールがある。(法人税法第59条)

例えば、長年の赤字経営から再生するケースであれば、資産の評価益や債務免除益から生じる税負担を、過去の欠損金で相殺できる可能性がある。

ただし、民事再生を行う会社が「特定同族会社」の場合は、注意が必要である。特定同族会社には「留保金課税」といって、社内に留保した所得に税金がかかる。しかも「留保金課税」は、欠損金を控除する前の所得が課税対象になるため、先ほどのルールで所得と欠損金を相殺できていたとしても、課税されるケースがでてくるのだ。

民事再生に関係する税務はルールがややこしいため、民事再生の税務に精通した税理士に依頼するなどしなければ、正しい税務申告をするのは困難である。

専門家に相談しながら検討しよう

今回は、民事再生手続きについて、破産との違いや手続きの流れ、メリット・デメリットを解説した。

民事再生以外にも、会社を再生するための手続きには、「会社更生」や裁判所の関与を受けない「私的整理」といったものがある。これらは、手続きの煩雑さや会社に対する影響、コストの面などで、民事再生とは異なる。

会社の再生を検討するときは、民事再生以外の手続きも把握した上で、どの方法であれば債権者らの理解を得られるか、専門家の意見を聞きながら検討していただきたい。(提供:THE OWNER

文・内山瑛(公認会計士)