捨てるのがもったいない~“なんでも買い取る”驚きの店
大阪市の北村静江さん(76)はこの日、夫の仁さん(80)と家のお片付け。新型コロナのせいで家にいる時間が増えたので、不用品を処分しようというのだ。そこへやって来たのがエコリングの出張買い取りの担当者だ。
年季の入った指輪は傷だらけで輪の部分が切れているが、2万500円。片方だけのイヤリングが1万800円。高額査定の理由は「金は溶かして新しくデザインできるので」と言う。指輪もイヤリングも18金製。金は不況に強いと言われており、コロナショックのいま高騰しているのだ。
一方、立派な木箱に入った金の盃は、「GPという刻印があります。メッキで金張りしていますという刻印です」とかで、買い取り金額は100円。一度も着ていない、198万円したミンクのハーフコートも買い取り金額は5000円と査定された。いまや毛皮は人気薄。5000円の値が付くのも珍しいという。
他にも明治から昭和にかけての古銭やお札など、この日およそ60点を買い取ってもらった。値段は合計75万2460円になった。
「こんなに多いとは思いませんでした」(仁さん)
「置いておいても仕方ないし。誰かに譲ろうとしても譲れないし。どう処分していいかわからないのに、これだけになったというのはすごいことですよね」(静江さん)
片付けブームのいま、エコリングの店は大賑わい。ボロボロでも大歓迎というだけあって、いろいろなものが持ち込まれる。VHSのビデオデッキにサザンの桑田佳祐のライブで買ったパーカー、もう使ってないネクタイ、使いかけの化粧品、大量の古着……。そういうものでも現金になるし、金額の問題ではなく、ゴミとして捨てるのが嫌だという人もいる。「役に立つのであれば」というわけだ。
エコリングの本社は兵庫・姫路市にある。その中もダンボールでいっぱいだ。コロナで始まった片付けブームでも買い取りをストップしなかったから、倉庫が足りなくなってしまったという。
「象徴的なのがスーツケースです。コロナで旅できないから」と、このビジネスを20年前に立ち上げたエコリング代表桑田一成(51)は言う。
「(こんなに買い取っても)たぶん売れるでしょう。売れると思います。売れるから買うというより、とにかく買い取れと」
お片付けブームで絶好調~買い取った品はこうして売る
主な売り先はまずネットオークションだ。本社の片隅で買い取った品の写真を撮影。その写真をネットにアップする。最近は家電や楽器などもよく売れているそうだが、大きな売り上げになるのが中古ブランド品だ。
エコリングには、買い取った中古品をきれいに再生する専門スタッフがいる。バッグは裏返して細部まで掃除。3年前に取材した時、2万6700円で買い取った中古のルイ・ヴィトン「ネヴァーフルPM」を、化粧直しをしてからネットオークションへ出すと、4万2519円になった。
中古ブランド品の主戦場といえば、リサイクルショップや質屋などが参加するプロ向けのオークションだった。しかし、新型コロナで対面式のオークションは中止に。それを受けてエコリングは業者向けのネットオークションを始めた。
コロナで売り場を失った国内外の業者が1500社も登録。1日に8000点を取り扱う、業界にとって貴重なツールとなっている。
「お金が回らなくなったら、この業界の人たちの給料は少なくなるか、解雇になるか。何が何でも我々はこの非接触型のオークションをやり続けます」(桑田)
オークションで売れないものはどうするのか。埼玉県にあるエコリング関東倉庫には、関東地区の店で買い取った中古品が集まる。そこには使い古された食器やバラバラのおもちゃが。これらをまとめて箱詰めにする。
売り先は海外。その一つがタイのバンコクだ。エコリングは8年前に進出し、現在10店舗を展開。入ってみると、おしゃれな雑貨屋さん風だ。日本では買い手がつかない中古品でも海外では欲しがる人がいて、繁盛している。
それでも売れないものがある。例えば古着なら「ウエス(布地)屋さんというところを電話帳で調べて、『いりませんか?』と」(桑田)。「ウエス」とは雑巾のこと。古着を買い取って裁断し、工場などの油拭き用として使われている。
とにかく買い取り、徹底的にリユースに回すエコリング。創業から20年で全国に100店舗を展開。年商167億円に成長している。
倉庫でもコロナの影響は明らかだった。大阪・堺市の堺倉庫に山積みの段ボールは、店舗を通さず、家庭から直接、宅配便で送られてきたもの。全国から届く宅配のダンボールは1日におよそ100箱。コロナ前と比べ1割ほど増えた。コロナで不用品を店に持って行くことや、出張買い取りで他人を家に上げるのを嫌がる人が増えているためだという。
店舗を通さない代わりに引き取る条件がある。それはブランド品を必ず1つ入れること。あとはクタクタの古着でも大丈夫だ。
さらに、倉庫には大量のスーツケースもあった。廃業したレンタル会社から2000個も買い取っていた。コロナが生んだ思わぬ中古品もリユースで宝に変えていく。
「これを買ったらこれだけもうかる、利益が上がる。そんな都合のいい商売をしていていいのか。お客様の役に立つんだという思いで、徹底的に今まで通りお客様が持ってこられたものを買うと」(桑田)
コロナで転職・新人鑑定士&在宅100人が大活躍
東京・江戸川区にあるエアコンの取り付け・回収専門の業者「トーセン」。今年はコロナの影響で、書き入れ時の夏場にキャンセルが相次いだ。売れ残った新品が山積みに。社長の小川純治さんは頭を悩ませていた。
「夏の商戦というのは我々の業態ではすごく大きい。1年間の会社の収益としても大きな打撃を受けざるを得ないということですね」(小川さん)
そこで小川さんは、季節変動の少ないサイドビジネスとして、エコリングのフランチャイズに加盟した。
いまエコリングでは新規出店を加速するため、フランチャイズに力を入れている。異業種からの参入を広く募りすでに33店舗を展開する。
この日行われていたのは、小川さんの店で働く鑑定スタッフの研修だ。コロナがきっかけで転職してきたという元エステティシャンの日暮槙さんは、「緊急事態宣言でお客様が来れなくなったことも。先を考えたときに、リユース業はすごい長くできるなと自分の中で感じたので」と言う。
もう1人の遠藤南美花さんも、やはり転職のきっかけはコロナ。「コロナ前は事務職で日本橋まで電車通勤していたんですけど、満員電車も嫌だというのもありますし、近場で探していたんです」と言う。
教えるのはベテラン鑑定士の鈴木光。素人の2人でも、短期間で店に立てるまでに育てる方法があるという。それが例えば「シャネルの教科書」。エコリングが20年に及ぶデータを蓄積、鑑定のポイントをマニュアル化したもので、自社の新人研修にも使っている。
それによると、シャネルの刻印の「E」の字の横棒に注目すると、本物は3本の長さがバラバラだ。ニセ物は同じ長さのものが多いという。さらにバックルをとめるネジ。本物はマイナスネジが使われている。
研修以外にも、フランチャイズをバックアップする手段がある。実はエコリングの本部と店はリモートカメラでつながっている。店で判断がつかない場合は、本部のベテラン鑑定士がサポートできるようになっているのだ。本部の鑑定士は「お客様にも、ベテランの鑑定士が見ているとお伝えすることができますし、そういう意味では安心感につながっていると思います」と言う。
11月1日、小川さんの店がオープンした。当面はエコリングが運営し、利益が出るようになったら店をオーナーに売却する仕組み。加盟したらほったらかしではない手厚いやり方を採っている。
一方、エコリングの本社では、パート従業員の岡恵が、大量の古着を車に積み込んで自宅へ持ち帰っていった。
岡は在宅作業専門のパート。仕事はネットオークション用の写真の撮影と、採寸したデータなどをパソコンに入力する作業。月に4万円ほどの収入になるという。岡は4人の男の子を育てている。自宅で家事や育児をしながらできる仕事として、2年前からエコリングの在宅パートを始めた。
「前は普通に仕事に行っていたんですけど、子供が保育園で熱が出たり、行事の時には休まないといけない。自分の好きな時間に家でできるのでよかったと思います」(岡)
エコリングでは10年前から在宅パートを採用。現在100人ほどが働いている。
オープン・ザ・プライス~古都京都で新ビジネス
京都でエコリングが新たなビジネスを始めた。今年3月にオープンした「緑和堂」は、美術品や骨董品の買い取り専門店だ。
社長は28歳の佐藤有亮。元々エコリングで販売を担当していたが、骨董品にほれ込んで独自に勉強。桑田に子会社を作らせるまでになった。
「結構敷居を高く感じて、参入してくる業者がすごく少ない。しっかり覚えれば、競合が少ないのがすごく武器になるんじゃないかと思います」(佐藤)
この日は訪問鑑定で、依頼者・鈴木友佳子さんの実家を訪ねた。母親の遺品整理で実家の片付けを始めると、古い陶器や掛け軸などが大量に出てきたという。
「昭和初期か大正ぐらいのものかなと思うんですが、とにかく何もわからない。見ていただいたことも一度もなかったので」(鈴木さん)
鑑定をスタートすると、1枚の短冊に佐藤の手がとまった。「上村松園ですね」と言う。上村松園は、明治から昭和初期にかけて活躍した日本画の巨匠。代表作の「序の舞」をはじめ、松園と言えば美人画。作品には数千万円の値が付くこともザラだが、こちらは短冊、しかも美人じゃなくソラマメが描かれていた。鑑定の結果は1万円だった。
京焼の窯元・三代三浦竹泉の香炉は5万円。さらに佐藤は棚にある「朱泥の壺」に目を付けた。朱泥とは、中国・明代に始まる赤い土の陶器で、こちらは3万円。この日は合計25点を28万6325円で買い取った。
買い取った骨董品は国内外のオークションにかけて売却する。例えば「安藤七宝の花瓶」は20万円で買い取り、25万円で売却。「加藤卓男の陶筥」は15万2000円で買い取り、16万円で売却した。
中にはニューヨークの世界的なオークションに出品した物もある。古代ガンダーラの石仏だ。2世紀から3世紀にかけての作とみられ、高さは60センチほど。オークションで「550万ドルで販売ができました」(佐藤)。
なんと日本円で5億7000万円の値が付いたのだ。
~村上龍の編集後記~
「テレビで見る東京の夜景はとてもきれいだけど、その中にいるのは大企業のエリートたちだ。彼らに勝とうと思ったら、知名度でも規模でも劣る私たちは彼ら以上に働くしかない。エコリングもいつか必ず大企業になって、彼らと同じように東京の夜景を構成する一員となろう」と、昔、桑田さんは言った。今、様変わりしてしまった。「大企業のエリート」、本当に一握りの人たちになり、しかも将来に怯えている。エコリングは時代の中にある。対価だけではなく、もったいないという理由で、別の人に品物を譲る。リユース、時代の鏡だ。
<出演者略歴>
桑田一成(くわた・いっせい)1968年、兵庫県生まれ。日本大学農獣医学部卒業後、1993年、郵政省(当時)入省。2000年に退省し、ITベンチャーを起業するも失敗。2001年、エコリング創業。
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