ワクチン接種は、新型コロナウイルスの収束に向けて無くてはならないものだ。日本でも接種が始まっているが、マスコミは因果関係が確認されていない接種後の死亡事例をセンセーショナルに報じることがある。あたかもワクチンが悪者であるかのようだ。なぜか。

日本でもワクチン接種がスタート、収束へ前進

大手マスコミが「ワクチン」を悪者にしたがる理由
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日本では、2021年2月中旬からワクチン接種が始まった。まずは医療従事者などへの接種が先行して行われ、その後順次、高齢者や基礎疾患がある人への接種も進めていく流れだ。高齢者の接種に関しては、4月中旬に始める想定で厚生労働省は動いている。

人数でみると、2月中旬からの医療従事者への先行接種では1万~2万人、3月中旬ごろからは残りの医療従事者約370万人、4月中旬からは65歳以上の高齢者約3,600万人への接種が開始される見通しとなっている。

全国民のほとんどがワクチンを接種し終えるまでには、まだまだ一定の期間を要するだろう。しかし、新型コロナウイルスの治療にあたる医療従事者や重症化リスクがある高齢者などのワクチン接種を終えるだけでも、日本は収束に向けてかなり前進することになる。

マスコミによるワクチン報道の実例を考察

このように、ワクチンはコロナ禍を収束させるための「救世主」とも言える。しかし、大手マスコミはワクチンとの因果関係がはっきりしていないにも関わらず、接種後の死亡事例をやや誤った伝え方で報じている印象を受ける。

ワクチン接種後の死亡事例の1例目は60歳代の女性で、米ファイザー製のワクチンを2月26日に接種したあと、3月1日に「くも膜下出血」とみられる死因で亡くなった。この際、厚生労働省はワクチン接種との因果関係を「評価不能」と報告している。

この出来事を大手マスコミは、「ワクチン接種した60代女性、3日後に死亡…死因はくも膜下出血か」(読売新聞)、「ワクチン接種の60代女性死亡 3日後、くも膜下出血か」(東京新聞)といった見出しで報道した。

もちろん、記事の中で因果関係が確認できないことには触れているが、見出しだけを見た読者は、ワクチン接種が原因で死者が出たと勘違いしてしまいそうだ。テレビ局の報道でもこのような傾向があり、「ワクチン接種」「死亡」の文言を強調しているケースが目立った。

これらのケースから、ワクチン関連の死亡事例の報道では因果関係が非常に重要なポイントであるものの、大手マスコミにおいてはその点を伝えることの優先度を低くしている印象を受ける。つまり「ワクチンが悪者」という誤ったイメージを読者に与えかねない状況だ。

なぜマスコミはワクチンを悪者にしたがる?

しかし、なぜマスコミはこのような報じ方をするのだろうか。個別の記事についてはそれぞれ個別の担当者の考え方・判断が反映しているため、正確な理由を断定的に書くことはできないが、昔からマスコミはセンセーショナルに情報を伝えがちだ。

一般的に、センセーショナルに伝えた方がテレビの視聴率は上がり、新聞も購入・講読してもらえる可能性が高まると言われている。テレビも新聞も営利目的の媒体であることから、このような傾向になるのは仕方がないと言えなくもないが、褒められることではない。

この傾向は、事件報道においてもみられる。警察が容疑者を逮捕した時点で、マスコミは大々的に報じるが、裁判で有罪が確定するまでは「推定無罪」という基本原則がある。しかしマスコミは、逮捕の時点でさもその容疑者が有罪であるかのように、センセーショナルに報じる。

また、よく言われるマスコミの「批判体質」も多少影響しているのかもしれない。報道機関の役割の1つに「権力の監視」がある。ワクチン接種も国が主導して進めているだけに、悪く言えば「あら探し」をしようとする。

これはもちろん必要な視点ではあるが、ワクチンに関して誤ったイメージを視聴者や読者に伝えてしまっては、正確な情報を伝えるという報道機関の役割を考えると、本末転倒であると言えるのではないか。

メディアの「主観」に左右されずに事実関係の情報を集めよう

ワクチン接種に関して、誤ったイメージを視聴者や読者に与えてしまうのは問題だが、全ての記事やニュースにこうした懸念があるわけではないことも事実だ。そのため、ニュースに触れる視聴者や読者側にも情報を取捨選択する能力が求められる。

ある1つの事実があっても、マスコミによってさまざまな切り取り方がされるということも、肝に銘じておきたい。記事やニュースを読むときは、記事の切り口やタイトルにはメディアの「主観」が入っていることを念頭に置く方が、フラットにその記事を読める。

ワクチン接種や接種後の死亡例に関する報道はこれからも続いていくが、前述した視点でニュースや記事に触れるようにし、メディアの「主観」にあまり左右されずに事実にもとづいた情報を集めていきたいところだ。(提供:THE OWNER

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)