本記事は、山口幹幸氏、高見沢実氏の編著書『Before/Withコロナに生きる 社会をみつめる』(ロギカ書房)の中から一部を抜粋・編集しています
三大都市圏等における不動産市場の変化と展望 櫻田直樹・一般財団法人日本不動産研究所上席主幹
はじめに
2020年2月28日、北海道はイベントによる新型コロナウイルス感染症(以下、「感染症」という)の集団感染等の感染拡大傾向を踏まえ「新型コロナウイルス緊急事態宣言」を発表し、休日の外出等の自粛を道民に要請した。この北海道の緊急事態宣言に前後して、年初から緩やかな上昇傾向にあった東証REIT指数は下落傾向に転じ、さらに3月には下落傾向を強め、2月最高値の6割程度まで急落した。東証REIT指数は不動産の価格ではないものの、このような東証REIT指数の激変は、不動産市場で取引等を行う市場参加者にとって感染症の感染拡大による影響の大きさを改めて印象づける出来事となった。
本稿では、三大都市圏等に位置する東京都23区、名古屋市、大阪市、札幌市、仙台市、広島市、福岡市を対象に(以下、「主要都市」という。)、感染症の感染拡大による不動産市場の変化を概観し、オフィス市場、住宅市場等の主要な不動産市場の将来動向を展望した。
不動産市場の変化
土地取引件数等の基礎的なデータから見た変化
(1)土地取引動向の変化
表1は土地取引規制基礎調査概況調査に基づいて、月別土地取引件数を整理したものである。新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言(以下、「緊急事態宣言」という)が発令された2020年4月には、東京都23区、大阪市の土地取引件数は対前年同月比(土地取引動向には季節性が認められるため、対前年同月比によって動向を把握した。以下、本項では省略する。)で-10%超の減少となったが、発令当初は緊急事態宣言の対象外であった名古屋市は2.5%となって微増状態が続いた。また、当初から緊急事態宣言対象区域となった福岡市や、感染拡大が先行した札幌市の土地取引件数は4月に-7~-3%程度の減少となったが、東京都23区と比較すると減少幅は小さかった。
緊急事態宣言の対象区域が全国に及ぶ2020年5月になると、すべての都市で大きく土地取引件数は減少し、前年同月比で見た減少傾向は7月まで続いた。
このように土地取引件数が減少傾向にあったなかで、仙台市の土地取引件数の減少傾向は目立って小幅であった。5月には-8.7%となって減少し、6月もほぼ同程度が続くが、これらの減少幅は他都市と比較して小さく、7月になると-1.2%程度に減少幅は縮小した。
なお、土地取引面積についても取引件数と同様に集計してみると、年ごとに増減の幅が大きく、取引件数ほど明確な減少傾向は確認されないが、緊急事態宣言発令後の2020年5月頃から東京都23区、名古屋市、大阪市等で減少傾向が認められた。
(2)建築着工動向等の変化
表2は建築着工統計調査に基づいて、着工建築物の棟数と延床面積を月別に整理したものである(データ収集の制約から、東京都23区、名古屋市、大阪市等を含む都道府県単位のデータを集計した)。
建築着工棟数、面積ともに各年の変動が大きく、土地取引件数と比較して緊急事態宣言等の感染症対策との関係は明確に現れていないが、大阪府、広島県等では2020年4月に対前年同月比で(建築着工動向にも季節性が認められるため、対前年同月比で動向を把握した)棟数、床面積ともに大きく減少し、愛知県では5月に目立って減少した。
さらに、このような減少傾向は変動しながらも7月まで続いており、ここ数年間の着工棟数、床面積と比較しても、2020年の減少傾向が予想される。
なお、上記のような建築着工動向の一方で、感染症の影響から建設資材の調達が滞った等の報道が聞かれたが、建築費は表3のとおり大きな変動は見られなかった。2月~5月頃にやや弱含みの動向が見られたものの、建築費は概ね横ばい傾向で推移した。
(3)分譲マンションの供給動向等の変化
表4は「CRI」マンション市場動向に基づいて、分譲マンションの月別供給戸数等を整理したものである。
緊急事態宣言期間を含む2020年4月、5月には、総販売戸数が対前月比で4~7割前後減少している。特にほぼ1か月が緊急事態宣言期間にあたる5月の総販売戸数の減少が著しく、首都圏、近畿圏ともに緊急事態宣言発令前の3月の総販売戸数と比較し、5月の総販売戸数は1/5~1/6程度に減少した。しかし、6月~8月にはほぼ緊急事態宣言発令前の戸数に回復しており、総販売戸数の減少は一時的な現象に止まった。
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